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【 顎関節症 】と漢方薬を用いた治療

顎関節症とは


顎関節症(がくかんせつしょう)とは顎(あご)の関節や顎を動かす筋肉である咀嚼筋(そしゃくきん)のトラブルによって起こる病気です。主な症状は顎の痛み、口が大きく開けられない、口を開閉するたびにカックンと音がするといったものが挙げられます。顎関節症で最も訴えの多い痛みの症状は顎だけではなく、こめかみなど頭部のさまざまな部位でも起こります。


顎関節症の特徴として女性の方が患いやすく、その中でも若年から中年にかけてが多いことがわかっています。顎関節症を引き起こす原因は単一的なものではありません。しかし、睡眠中の歯ぎしりや食いしばりによって顎に過度な負担がかかっていることが主要因と考えられています。


顎関節症の原因


顎関節症の発症はいくつもの要因が絡んだ結果として起こると考えられています。具体的には強い力を伴った歯ぎしりや食いしばり、左右のどちらかに偏った咀嚼の癖、歯のかみ合わせ不良、精神的ストレスによる全身の力みなどが挙げられます。


このように顎関節症を引き起こす原因は無意識のうちに顎の関節部分に過度な負担をかけてしまっているという共通点があります。さらに睡眠や食事といった生活習慣に関係が深いという点も特徴的です。


顎関節症の症状


顎関節症の症状は大きく3つに分けられます。顎の周辺を中心とした顎関節痛、大きく口が開けられないといった開口障害、そして開閉のたびに音が鳴る関節雑音が顎関節症の主要な症状です。 これら以外にも顎のだるさ、熱感、頭痛、首肩の凝り、眠りの浅さによる疲労の蓄積などもしばしば伴います。


上記のような症状の結果として長時間の会話ができない、集中力の低下、イライラ感、食欲不振なども起こりえます。このように顎関節症は「顎のトラブル」ではなく、心身全体に影響を及ぼしかねない病気といえます。


顎関節症の西洋医学的治療法


基本的に西洋医学的な顎関節症の治療は非外科的なものが中心であり、痛みに対しては内服の鎮痛薬を用いて対応することが一般的です。くわえて歯の摩耗の跡などによって歯ぎしりや食いしばりが確認できる場合は睡眠時のマウスピース装着も行われます。これらの効果が上がらなかった場合、歯や骨を削る外科的治療が選択肢となります。


顎関節症の漢方医学的解釈


漢方医学において「痛み」という症状は気血の流れが滞った結果として起こると考えます。顎関節症の中心症状であるつらい関節痛は漢方医学的に考えると痺証(ひしょう)とみることができます。痺証とは何らかの病邪によって気血の流れが阻まれ、その結果として痛みが起こるというものです。主な病邪としては風邪(ふうじゃ)、寒邪(かんじゃ)、熱邪(ねつじゃ)、湿邪(しつじゃ)が挙げられます。


痺証以外にも精神的なストレスによっても気の流れは悪くなりますし、気の力で身体を巡っている血も、気の状態が悪くなると引きずられるように滞ってしまいます。このように顎関節症は病名からすぐに原因などが導かれるものではなく、個々人によって大きく病態も異なります。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いた顎関節症の治療


顎関節症の痛みが痺証による場合、痛みの現れ方や悪化する要因からどのようなタイプの病邪の影響が大きいかを理解することがとても大切です。具体的には冷えや高い湿度によって顎関節痛が悪化する場合は風寒湿痺、患部に熱感があり腫れが顕著なケースでは熱痺の可能性が高いです。


風寒湿痺の絡んだ顎関節痛には温性の麻黄、桂皮、防風、独活、蒼朮などの祛風湿薬を多く含んだ漢方薬が用いられます。熱痺の痛みに対しては寒性の薏苡仁や防已などの祛風湿薬に石膏や知母といった熱を冷ます力が優れている生薬(清熱薬)が組み合わされた漢方薬が適しています。


一方で顎関節痛がストレスで悪化する場合などは五臓六腑における肝のはたらきが乱れ、筋肉が過緊張状態に陥っている可能性もあります。このようなケースでは気の巡りをスムースにする柴胡、厚朴、半夏、薄荷、枳実、香附子などの理気薬を含んだ漢方薬が選択されます。


上記以外にも血の滞りによる瘀血(おけつ)も痛みを起こす原因となりますので充分に考慮するべきでしょう。このように顎関節症という病名だけではなく、治療にはどのような原因で顎に痛みや不快感が生じているのかを考える必要があります。


生活面での注意点と改善案


顎関節症は生活習慣の影響を受けやすい病気でもあります。歯が食いしばりなどによって削れている痕跡があるようなら睡眠時にマウスピースの着用も検討するべきでしょう。食いしばりが長く続くと顎関節症だけではなく、歯に亀裂が入り知覚過敏の原因にもなります。


食事中も知らず知らずのうちに左右のどちらかで噛む癖があると、顎のバランスが崩れて負荷がかかりやすくなります。こちらも右側で10回噛んで、左側でも10回噛むというように意識して均等にするべきでしょう。くわえて顎関節痛が強い時はあまり固いものを食べるのは避けるべきです。


そして日頃から「自分は無意識に力みやすい」という体質(癖)を自覚して、意識的に筋肉の力を抜く時間を設けることも大切です。肩や首の凝りが目立つ、気が付くと肩がいつも高い位置にあるような方は要注意です。


顎関節症の改善例


患者は30代前半の女性・薬剤師。数年前からハンバーガーなどを食べるために大きく口をあけるとカコンッと音がしたり、軽い痛みがあった。当時はご症状も頻繁ではなかったのであまり気にしてはいなかったとのことですが、残業やデスクワークが増えると食事中以外の時も顎やこめかみの部分に強い痛みが起こり始めた。


仕事への支障も出てきたので歯科医院へ行くと奥歯の摩耗から日常的な食いしばりの癖を指摘されマウスピースも作成。しかしながら、なかなかご症状は良くならず鎮痛薬の服用回数ばかりが増えることに心配となり当薬局へご来局。


お話を伺うと顎関節症による痛みと顎のだるさがいつも気になってしまうとのこと。それ以外のご症状としては首や肩の凝りと痛みも目立ち、気が付くと数分おきに首肩を自分でマッサージしているという。冷え性(冷え症)もつらく、冬場の外出はいつも着込んで「重装備」で対応している。


この方の顎関節痛には寒邪が関係していると考えて桂皮、麻黄、附子などの身体を温める生薬を中心とした漢方薬を服用してもらいました。服用から3ヵ月が経つと声が出てしまうほどの鋭い痛みのご症状はだいぶ緩和されたとのこと。一方でまだ違和感と首肩の凝りは続いていました。そこで時期的にも暖かくなってきたこともあり、柴胡や薄荷を含んだ心身の緊張を取り除く漢方薬に軌道修正しました。


新しい漢方薬を服用して2ヵ月ほどで効果は現れ、肩の力がうまく抜けるようになったとのこと。朝起きた時に目立っていた顎やこめかみの不快感も緩和されていました。この漢方薬を服用していると生理前の気分の沈みや生理痛も緩和されるということで、この方には継続して服用して頂いています。


おわりに


顎関節症を中心とした顎に関わるトラブルは軽度の方も含めると相当数に上るといわれています。その中でも慢性化したつらい痛みを伴う顎関節症は食事の際を筆頭に生活の質を大きく下げてしまいます。痛みだけではなく、会話中にも痛みや凝り感がある場合はなおさらです。


顎関節症は単独ではなく肩こり、頭痛、心身の緊張など複数の症状をしばしば伴います。漢方薬を用いた顎関節症の治療はこれらも含めた全身症状の改善を目指すものです。顎関節症にお困りの方は是非一度、当薬局へご来局ください。

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