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【 非結核性抗酸菌症(肺MAC症) 】と漢方薬による治療

非結核性抗酸菌症とは


非結核性抗酸菌症(ひけっかくせいこうさんきんしょう)は結核菌の仲間である抗酸菌によって引き起こされる呼吸器の病気です。非結核性抗酸菌症はしばしば非定型抗酸菌症やその英語名であるNon-tuberculous mycobacterial infectionの頭文字をとってNTM症とも呼ばれます。


非結核性抗酸菌症の主な症状は慢性的な経過をたどる咳や痰です。近年、中年以上の女性を中心に増加している病気です。病名の中に「非結核」と入っていますが西洋医学的な治療法はおおむね結核治療でもちいられる抗生物質が使用されます。しかしながら、結核と比較してうまく治療が行えない(抗生物質が効かない)点が非結核性抗酸菌症の大きな特徴です。


肺MAC症とは


非結核性抗酸菌症の原因となるのは抗酸菌でした。この抗酸菌はある性質を持つ細菌のグループ名であり、「抗酸菌」という固有の名前を持つ細菌が存在するわけではありません。抗酸菌というグループの中には結核があり、その他にも百数十種類の細菌が含まれています。この結核菌以外の抗酸菌によって引き起こされる病気なので「非結核性抗酸菌症」という病名が付けられています。


ややわかりにくいので具体例を挙げてみます。まず「野菜」という名前の野菜は存在しません。野菜というグループの中にニンジン、トマト、キャベツ、キュウリといったさまざまな野菜が含まれています。「抗酸菌」というのも例における「野菜」のようなグループ名であり、抗酸菌のなかには結核菌、MAC菌、カンザシ菌、ライ菌、その他にも多くの細菌が含まれているのです。


抗酸菌には多くの細菌が含まれていると説明しましたが、非結核性抗酸菌症を起こす原因菌の大部分はMAC菌(Mycobacterium avium complexという名前の略でマック菌とも表記されます)で占められています。 このMAC菌によって引き起こされた非結核性抗酸菌症を肺MAC症と呼びます。したがって、現実的には非結核性抗酸菌症肺の非常に多くが肺MAC症といえます。


用語のまとめ


【 抗酸菌 】
結核菌、MAC菌、カンザシ菌(カンサシ菌やキャンサシー菌とも表記されます)、ライ菌などを含む細菌のグループ名。

【 MAC菌 】
上記の通り、抗酸菌に属する細菌のひとつ。厳密にはとても類似している2つの菌をあわせたものです。

【 肺MAC症 】
MAC菌によって起こされる呼吸器系疾患。

【 非結核性抗酸菌症 】
抗酸菌に属する結核菌以外の細菌によって起こる呼吸器系疾患。その大部分がMAC菌による肺MAC症で占められる。

【 NTM症 】
非結核性抗酸菌症の略称です。

【 非定型抗酸菌症 】
非結核性抗酸菌症と同じ意味です。ちなみに「定型」は結核菌による結核を指しています。


非結核性抗酸菌症(肺MAC症)の原因


MAC菌を含む非結核性抗酸菌は自然環境に多く生息しており、それらが身体に侵入することで感染すると考えられています。しかしながら、くわしい感染経路やどうして中年以上の女性に感染が多いのかなどは不明です。しかしながら、非結核性抗酸菌症(肺MAC症)は結核のような強い感染性はなく、人から人へ感染が拡大しないことが知られています。したがって、家族や同僚などに感染が広がることはなく、隔離されて治療が行われることもありません。


非結核性抗酸菌症(肺MAC症)の症状


非結核性抗酸菌症(肺MAC症)の主な症状は咳や痰、ときには血の混じった血痰(けったん)が出る喀血(かっけつ)などの呼吸器症状が中心となります。くわえて、体重の減少、倦怠感、発熱、食欲の低下などが現れることもあります。


非結核性抗酸菌症(肺MAC症)の症状は全体的に激しいものではなく、症状の進行もゆっくりしています。場合によっては無症状のまま、レントゲンやX線をもちいた健診ではじめて感染がわかるようなケースもあります。


非結核性抗酸菌症(肺MAC症)の西洋医学的治療法


非結核性抗酸菌症(肺MAC症)の治療は基本的に結核治療と同様のものとなります。具体的にはストレプトマイシン、クラリスロマイシン、リファンピシン、エタンブトール、リファブチン、カナマイシンなどの抗生物質(細菌を倒す薬)を多剤併用することが基本となります。


これらをもちいた治療は結核には非常に有効なのですが、非結核性抗酸菌症(肺MAC症)に対しての有効性は高いとはいえないものです。くわえて、使用される抗生物質には副作用の強いものもあり、より治療を難しくしています。


非結核性抗酸菌症(肺MAC症)の漢方医学的解釈


漢方の視点から考えると、非結核性抗酸菌症(肺MAC症)には水湿と気虚が深く関係していると考えられます。 水湿は津液が停滞することで生まれる病的産物であり、主に脾(消化器)の不調が引き金となります。気虚は生命エネルギーである気が不足した状態です。


なんらかの原因で水湿が溜まり、肺が侵されると湿性の咳や量の多い痰といった呼吸器系のトラブルが起こりやすくなります。水湿の絡んだ他の症状としては全身の重だるさ、頭重感、めまい、むくみ、食欲不振や吐気、軟便などが挙げられます。


気虚によって起こる呼吸器症状としては咳や痰にくわえて呼吸困難、呼吸の浅さ、息切れのしやすさなどが代表的です。これら以外にも疲労感、かぜの引きやすさ、動悸、食欲不振、めまいや立ちくらみなどが気虚に陥ると現れやすくなります。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いた非結核性抗酸菌症(肺MAC症)の治療


多くの非結核性抗酸菌症(肺MAC症)の背景には水湿や気虚が関係していると考えられます。したがって、非結核性抗酸菌症(肺MAC症)の治療は漢方薬をもちいて水湿(すいしつ)の除去と気を補うことが中心となります。


水っぽい痰のからんだ咳やむくみが目立つようなら水湿を除く白朮、蒼朮、沢瀉、猪苓、茯苓といった利水薬を含んだ漢方薬がもちいられます。疲労感や息切れがあり、頻繁にかぜを引いてしまう方には気を補う人参、黄耆、大棗、甘草などの補気薬を配合した漢方薬が検討されます。


これらにくわえて咳を鎮める力に優れた半夏、麻黄、杏仁、五味子などの生薬も頻用されます。非結核性抗酸菌症(肺MAC症)は個人によって水湿の悪影響が大きいのか、気虚の度合いがより深刻なのかは異なってきます。したがって、ひとりひとりの症状や体質によって治療にもちいられる漢方薬は異なってゆきます。


非結核性抗酸菌症(肺MAC症)の改善例


患者は50代後半の女性・専業主婦。数年前から水っぽい痰が出始め、不快に感じていましたが年齢のせいと考えて特に対応せずに過ごされていました。しかし、痰にくわえて咳も出るようになり呼吸器内科を受診。検査の結果、非結核性抗酸菌症における肺MAC症と診断されました。


受診した病院で抗生物質による治療を行い、徐々に症状は緩和されましたが完全な除菌はできませんでした。その後、夫の母の介護や引越なども重なり病院へは行かなくなったとのこと。しかし、最近になってまた痰がからんだ咳が始まり、何とかしたいと思い当薬局へご来局。


くわしくお話を伺うと、咳や痰にくわえて疲労感や身体の重だるさ、痰が絡むことによる食欲の低下が顕著にみられました。体重も半年で3kgほど減ってしまいました。この方にはまず気を補う力に優れた人参、水湿を除くことのできる白朮や茯苓などから構成される漢方薬を服用して頂きました。


服用から3ヵ月が経つと痰の量は大きく減少し、それにともなって食欲も回復してきました。くわえて、少し動くのが億劫になるくらいの重だるさも軽減されていました。その一方でまだ咳は続いていたので、鎮咳作用の優れた半夏や杏仁を含んだ漢方薬へ変更を行いました。


漢方薬を変更して2ヵ月が経過すると、痰が絡んだ咳も鎮まり呼吸もより深くできるようになりました。体重も1年前と同じくらいにまで戻り、疲労感もなくなりました。その後は介護などで心労がたまると咳が出やすくなるということで、気を補ったり、ストレスによる気の滞りを改善する漢方薬などを調合して安定した状態を維持されています。


おわりに


非結核性抗酸菌症(肺MAC症)は西洋医学的にまだ治療法が確立されていないということで、困っていらっしゃる方が意外に多い病気です。抗生物質による副作用で治療が中止となってしまった方も少なからずいらっしゃいます。非結核性抗酸菌症(肺MAC症)はただちに命にかかわる病気ではありません。しかし、慢性的な咳や痰が続くと倦怠感なども現れやすくなり生活の質を大きく下げてしまいます。


漢方薬をもちいた非結核性抗酸菌症(肺MAC症)の治療は個々の症状と体質に沿って進められます。したがって、漢方薬は咳や痰といった呼吸器系の症状だけではなく、疲労感やむくみといった全身症状にも対応ができます。慢性的な非結核性抗酸菌症(肺MAC症)にお困りの方は是非、当薬局へご来局ください。

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