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【 パニック障害 】と漢方薬による治療

パニック障害とは


パニック障害とは動悸や息苦しさに代表されるパニック発作、パニック発作が起こるのではないかという予期不安、そして広場恐怖から構成される神経症性障害です。神経症性障害とは主に精神的なトラブルをきっかけに発症し、精神的・身体的な症状を起こす病気の総称です。


パニック障害は10代から30代の若年層、そのなかでも特に女性に多いことが知られています。この点からパニック障害の発症は単純に精神的な問題だけではなく生物学的な要素、つまり遺伝的な要素も関係していると考えられます。


パニック障害の症状


パニック障害の症状はさまざまな身体症状をともなうパニック発作、そして予期不安と広場恐怖という精神症状から構成されます。下記ではより詳しくこれらの症状を解説してゆきます。


パニック発作とは

代表的なパニック発作の症状としては動悸、身体の震え、息苦しさ、冷や汗、寒気、のぼせ、めまい、吐気、口の渇き、胸痛、腹部の不快感などが挙げられます。実際にパニック発作時にどのような症状が起こるのか個人差がありますが、動悸や息苦しさによる呼吸困難は多くの方が訴えられます。パニック発作による症状は激しく、強い恐怖感を生んでしまいます。


予期不安とは

予期不安とは「パニック発作がまた起こってしまうのではないか」という過剰かつ強力な不安感が持続してしまう状態です。予期不安はパニック発作による動悸などと並んでパニック障害において核となる症状といえます。次に挙げる広場恐怖と絡み日常の行動を制限してしまいます。


広場恐怖とは

広場恐怖とはパニック発作が起こった場合、それに対処するための場所が確保できないところに出かけるのを極端に回避する状態を指します。広場恐怖が起こりやすい場所の具体例としてはトイレのない電車やあまり停車しない快速電車といった交通機関、土地勘のない出先、エレベーター内などの狭い空間などが挙げられます。


助けを求めにくい場所だけではなく、土地勘がある場所においても一人だけでの行動に過剰な恐怖を抱いてしまうこともあります。広場恐怖と上記の予期不安は行動範囲を制限してしまうため、仕事や旅行などに支障が出てしまいます。


パニック障害の原因


西洋医学的にパニック障害の明確な原因は解明されてはいません。しかしながら、神経伝達物質(ノルアドレナリンやセロトニンなど)を調節する薬物が有効な点から、これら神経伝達物質の過活動や機能不全がパニック障害の原因ではないかと推測されています。


パニック障害の西洋医学的治療法


パニック障害の治療には抗不安薬が主に用いられます。代表的な治療薬としてはSSRIというグループに属するパキシル(一般名:パロキセチン)やジェイゾロフト(一般名:セルトラリン)、そして長時間作用型のベンゾジアゼピン系の薬が代表的です。


薬物療法以外にもパニック障害に対しては段階的暴露療法(だんかいてきばくろりょうほう)がしばしば行われます。段階的暴露療法とは我慢することができる範囲の状況から少しずつ、つまり段階的に日常生活に近い状況に慣れてゆくことを促す精神療法です。


具体的に電車内で広場恐怖を起こしやすい方のケースでは、一人で駅まで行く、ホームに立つ、一駅だけ乗車する、より先まで乗車する、停車が少ない快速電車に乗車するといったステップを時間をかけて行ってゆきます。


パニック障害の漢方医学的解釈


パニック障害の主症状は激しい動悸や呼吸困難などの身体症状と予期不安や広場恐怖といった精神症状でした。これらの症状は漢方医学における心血虚(しんけっきょ)の状態といえます。


心(しん)は漢方医学において血を全身に送り届けるポンプのはたらき以外にも、精神を安定化させるはたらきを担っています。そのようなはたらきを持つ心は充分な血によって栄養されることで上記のような機能を維持しています。そこになんらかの原因によって心を栄養するはずの血が不足してしまうと心血虚となり、心本来の持つはたらきができなくなってしまいます。


心血虚の代表的な症状として動悸や息切れ、頻脈や不整脈、そして不安感や不眠症などが挙げられます。これらの症状は非常にパニック障害と酷似しています。心血虚を引き起こす主な原因としては慢性的な精神的ストレス、肉体疲労、慢性疾患による消耗、食欲不振などが挙げられます。このような状態が続いている方は心血虚に陥ってしまう可能性、つまりパニック障害を患ってしまう可能性が高いといえます。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いたパニック障害の治療


パニック障害の背景に心血虚があると考えた場合、その治療は血を補うことが中心になります。血を補う生薬としては地黄、当帰、芍薬、阿膠、酸棗仁、竜眼肉などの補血薬(ほけつやく)が代表的です。パニック発作を治療する漢方薬はこれら補血薬を中心に、気持ちを鎮めることを得意とする竜骨、牡蠣、遠志などの生薬を組み合わせることになります。


さらに血は気より生まれるものなので、気を補う生薬である人参、黄耆、大棗、白朮、甘草などを少量、漢方薬に組み込むと効率的に気血を補うことも可能です。疲労感や食欲不振などの気虚症状が顕著な場合はより積極的に気も補うべきでしょう。


気の滞りによる胸の圧迫感や喉の閉塞感、腹部の不快感などが目立つ場合は気の巡りを改善する柴胡、枳実、陳皮、半夏、厚朴、香附子といった理気薬(りきやく)の使用も検討されます。パニック障害の主な症状は動悸や不安感でしたが、それ以外の症状にも目を向けて漢方薬を調合することがパニック障害治療には欠かせません。


パニック障害の改善例


患者は20代後半の女性・医療事務員。数年前に通勤中の電車が人身事故で長時間停車し、かなりの時間車内に閉じ込められる形となってしまいました。運悪くその時は真夏で体調が悪くなり、非常に辛い思いをしたという。


その数ヵ月後には地震でエレベーターに閉じ込められる体験をしてしまい、それ以来、閉鎖空間に入っただけで動悸と吐気に襲われるようになってしまった。症状は悪化し、最近では自分で運転する車にも乗れなくなってしまったとのこと。


このままでは日常生活を送ることが難しくなると考えて、自身が勤務していた薬局近くの心療内科を受診。そこでパニック障害と診断されて抗不安薬の服用を開始しました。しかし抗不安薬だけでは安心できず、当薬局へは妹様が生理不順の漢方薬を服用していたご縁でご来局。


詳しくお話を伺うと電車やバスなどの乗り物だけではなく、出入りが自由にできない部屋などに対しても強い不安感、そして動悸や吐気が出てしまうという。パニック障害以外のご症状としては慢性的な疲労感や食欲不振が挙げられました。食事量について「同僚と比べると半分くらいしか食べられないし、食べる気持ちが湧かない」とのこと。顔色は青白く、目にも声にも力がこもっていない印象でした。


この方は血だけではなく気も不足している状態と考え、まずは消化器の調子を整えることで気を補うことができる漢方薬を中心に据えました。その一方で気だけではなく血を補う生薬を少量だけ含んでいる漢方薬を調合しました。これは気血両面のケアにくわえて、胃腸の弱い方が血を補う生薬を多く服用すると消化器に不快症状が出やすいからです。


くわえて鎮静作用がある牛黄(ごおう)製剤の服用もお願いしました。牛黄は動悸や気分の乱れを抑えるはたらきに優れており、即効性が期待できるので「お守り」として日頃から携帯すると良いと伝えました。


気を補う漢方薬を服用して4ヵ月が経過する頃には疲労感と食欲不振がかなり軽減されていました。ご本人から「お弁当のサイズを少し大きいものにした」とのこと。良い傾向と考えて、この段階で竜眼肉や酸棗仁を含んだ血を補うことを得意とする漢方薬へシフト。


新しい漢方薬を服用して6ヵ月が経過する頃には体力面も精神面も安定し、大きなパニック発作を起こすことはほぼ無くなりました。通勤に利用している電車が予想外に混んで気分が悪くなりそうだった時、牛黄製剤を服用して発作をうまく回避できたとのこと。


病状を客観的に把握するためにその日の体調を簡単な日記形式で記録して頂いていましたが、それを見てパニック発作が起こっていないことを実感できていたこともプラスにはたらいていました。それから数ヵ月が経過した頃に漠然と車の運転をしてみようと思い立ち、その際も問題なくドライブできたとのこと。


この成功体験からさらに自信を深め、病院と相談のうえで抗不安薬を減薬。現在もパニック発作が起こらない状態をキープできています。漢方薬については予防と体力強化の意味で継続服用をご希望。ご体調に合わせて微調節しながら今も服用して頂いています。


おわりに


近年、パニック障害を訴えられてご来局される方がとても多くなった印象を受けます。これもストレス社会と呼ばれる今日の世相を反映しているのかもしれません。パニック障害は動悸を中心とした身体症状だけではなく、予期不安や広場恐怖によって生活への支障が問題となりやすい病気です。そのため、悩みを深めて悪循環に陥っている方も少なくありません。


漢方薬は西洋薬では対応しきれないより根本的な原因に対応することができるものです。当薬局では西洋薬を使用してもなかなか症状の改善が見られなかった方がしばしばご来局されます。そして漢方薬を服用し始めてから、徐々に症状が改善されることからパニック障害と漢方薬は「相性」が良いと実感しています。是非一度、パニック障害などの不安神経症にお悩みの方は当薬局にご来局くださいませ。

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