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【 生理痛(月経困難症) 】と漢方薬による治療

生理痛(月経困難症)とは


月経困難症は一般的には生理痛と呼ばれるもので、主に生理時やその前後に起こる下腹部や腰などの痛みを指します。生理痛はしばしば頭痛、下肢の重だるさや不快感、発熱、吐気と嘔吐、下痢軟便傾向など多様な症状と併せて現れる場合があります。


生理痛にはいくつかの原因が考えられていますが、明確には不明な点も多いです。このような生理痛は機能性月経困難症や原発性月経困難症と呼ばれます。それ以外に子宮筋腫、子宮内膜症、子宮腺筋症、骨盤内うっ血症候群などといった生理痛を起こしている原因が分かっているものは器質性月経困難症や続発性月経困難症と呼ばれます。このページでは前者の機能性月経困難症や原発性月経困難症を中心に解説を行ってゆきます。


生理痛(月経困難症)の原因


生理痛の主な原因としては生理時に子宮において作られるプロスタグランジンという物質の産生過剰が挙げられます。プロスタグランジンは子宮の筋肉を収縮させる働きがあり、さらに痛み刺激を敏感にする作用もあります。したがって、生理中に過剰に分泌されたプロスタグランジンの作用によって一部の生理痛が引き起こされていると考えられます。


生理痛(月経困難症)の西洋医学的治療法


生理痛に対しては鎮痛薬を用いてプロスタグランジンの産生を抑制するのが最も一般的な対処法になります。鎮痛薬は早く効果が出る反面、胃潰瘍や十二指腸潰瘍の原因にもなるので過剰な連用は控えるべきでしょう。子宮筋腫や子宮内膜症などが原因の場合はそちらの治療に沿う形になります。


生理痛(月経困難症)の漢方医学的解釈


漢方医学的に生理痛を考えると、多くの場合において血の流れが滞っている状態、つまり瘀血(おけつ)の状態が関係しています。古くから「不通則痛」という有名な言葉があり、これは「気や血が滞るとそこに痛みが起こる」という意味です。


生理痛の場合もこの言葉が当てはまり、何らかの原因で血の巡りが妨げられて刺すような強い痛みが現れたと考えます。したがって、生理痛を緩和するためにはまずしっかりと血を巡らすことがとても重要になります。血が滞っている原因としては過労などによる気の不足(気虚)、精神的なストレスによる気の滞り(気滞)、さらには冷えなど個々人によってさまざまです。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いた生理痛(月経困難症)の治療


生理痛の原因が血の巡りが悪くなっている瘀血の状態である場合、その治療法は停滞している血の流れを改善することになります。瘀血を解消する生薬(活血薬)としては桃仁、川芎、当帰、牡丹皮、紅花、延胡索が優れており、これらを含んだ漢方薬が治療の中心となります。


しかしながら、血は気の働きによって循環しているので、気が不足しているようなら気を補う生薬(補気薬)である人参、黄耆、大棗、白朮、甘草なども用いられます。さらに冷えが目立つようなら身体を温める生薬(散寒薬)の桂皮、乾姜、細辛、呉茱萸、附子なども必要となります。


上記のように生理痛に用いられる漢方薬は個々人の体質や生理痛以外の症状によって大きく形が異なります。生理痛に対してはその痛みにのみ着目するのではなく、どのような原因で血が滞っているのかなどを慎重に捉え、多面的な対応が必要になります。


生活面での注意点と改善案


当薬局にご来局される生理痛で悩んでいる女性のほぼすべてに共通しているのが冷え性(冷え症)です。冷えは血流を悪くしてしまうので、まずはこれ以上身体を冷やさないようにすることが大切になります。


服装に関しては特に冬の服装、ファッション重視の薄着は問題になりがちです。以前、「ファッションは我慢」という言葉を聞いて妙に納得したことを記憶しています。しかし、金銭面の我慢ならともかく、健康に問題が出てきては我慢している場合ではありません。しばしば、「生足」「へそ出し」「ノースリーブ」という「冷え性(冷え症)・三種の神器」を携えてご来局される方も多くいらっしゃいます。そうなるといくら漢方薬で対応しても、薬効を相殺されてしまい十分な効果が期待できなくなってしまいます。


まず、冷え性(冷え症)の方は「毛糸の靴下」「下着の上に毛糸のパンツ」「腹巻」という「保温・三種の神器」がお勧めです。その他にもカーディガンや毛布などを持ち歩くと外出時のクーラー対策にもなります。これは夏場の予期せぬクーラーにも有効です。


他にもぬるめのお風呂に長く浸かるといった方法も冷え性(冷え症)には有効です。熱過ぎるお風呂は長く浸かっていられないので結果的には身体の芯まで温まらなくなってしまいますので注意してください。さらにシャワーは身体の汚れを落とすものであり、温めるものではありませんので冬だけではなく夏もしっかりと湯船に浸かることをお勧めいたします。


生理痛(月経困難症)の改善例


患者は20代後半の女性・学芸員。中学生の頃から生理痛に悩まされ、鎮痛剤が手放せない生活が続いていました。腹部を冷やしてしまうとその痛みは悪化するので、特に冬はつらかったとのこと。就職してからは対人関係のストレスと鎮痛剤の使い過ぎから胃を壊してしまい入院。病院で処方された胃にやさしいといわれる鎮痛剤でも調子が悪くなるようになってしまった。生理痛と胃痛を天秤にかけることもできず、困り果てた末に当薬局にご来局。


くわしくお話を伺うと生理前に左下腹部に刺し込むような強い痛みが起こり、吐気をもよおすほどとのこと。机の向かっての細かい作業が多いことから肩凝りからくる頭痛も日常的にあり、鎮痛剤が服用できないので生活に大きな支障が出ていました。


この方は生理痛などのご症状にくわえて顔色も暗く、瘀血の状態が顕著でしたので血流を改善する芍薬、当帰、そして身体を温める桂皮、細辛などからなる漢方薬を服用して頂きました。芍薬や細辛は優れた鎮痛効果も期待できる生薬です。


服用から7~8ヵ月が経った頃には生理痛も頭痛もだいぶ弱まり、充分我慢できるレベルになっていました。痛みでイライラすることも減り、仕事の効率も上がったと喜ばれました。そして服用開始から1年が経過した段階で末端の冷えも回復して、生理痛もほぼ消失。体調も良いので現在も微調節を行いながら漢方薬を服用して頂いています。


おわりに


テレビを見ていると毎日のように生理痛に効く鎮痛剤のCMを目にします。それほど生理痛に悩まされている方が多いという証左なのでしょう。しかしながら、鎮痛剤の使い過ぎは胃腸障害のリスクもありますし、そもそもつらい生理痛の影にある体質的問題(冷え性(冷え症)や血流の滞りなど)を先送りしてしまうことになります。


当薬局では生理痛が漢方薬の服用によって好転する方がとても多くいらっしゃることから、生理痛と漢方薬とは「相性」が良いと実感しています。是非一度、お悩みの方は当薬局にご来局くださいませ。

【 子宮筋腫 】と漢方薬による治療

子宮筋腫とは


子宮筋腫とは簡単に表現すれば子宮にできる良性の腫瘍のことです。良性の腫瘍とは命に影響を及ぼす可能性の低い腫瘍のことを指します。子宮はひとつの筋肉(平滑筋)でできた袋のような存在であり、そこにできた腫瘍なので「筋腫」となります。


子宮筋腫は婦人科の腫瘍の中で最も多い病気とも言われており、小さい筋腫も含めると20~25%程度の女性に存在すると考えられています。そのような子宮筋腫は筋腫ができた部分によって大きく3つに分けられます。ひとつが子宮の外側にできる漿膜下筋腫(しょうまくかきんしゅ)、子宮筋層内にできる筋層内筋腫(きんそうないきんしゅ)、そして子宮の内側にできる粘膜下筋腫(ねんまくかきんしゅ)です。この粘膜下筋腫はしばしばつらい生理痛や不正出血といった症状を起こすことが知られています。


子宮筋腫の原因


子宮筋腫の根本的な発生原因は不明な点が多いのですが、女性ホルモンであるエストロゲンの働きによって成長することが知られています。したがって、女性ホルモンが活発に分泌されている10~50代の女性、特に30~40代は子宮筋腫のリスクが高いといえます。逆にいえば閉経後の女性の場合はリスクが低く、既に子宮筋腫がある場合もその大きさが縮小することが知られています。


子宮筋腫の症状


子宮筋腫は命に関わることは少ない病気です。一方でさまざまな症状が引き起こされる病気でもあり、生活の質を左右する問題といえます。特に子宮の内側にできる粘膜下筋腫は子宮の動きに合わせて刺激を受けやすいので不正出血や出血過多による貧血、下腹部痛や腰痛などの原因となります。


漿膜下筋腫や筋層内筋腫も大きく成長してしまうと神経や他の臓器を圧迫して腰痛や排尿障害(頻用や尿閉)、水腎症などを引き起こします。さらに子宮筋腫は不妊症や不育症(早産や流産)の原因にもなるので、妊娠を希望されている方には症状以上に大きな問題となりえます。


子宮筋腫の西洋医学的治療法


子宮筋腫は女性ホルモンのエストロゲンを成長の糧としているので、そのエストロゲン分泌量を下げる薬物療法と手術が治療の中心となります。治療に用いられるのは主にGnRHアゴニスト(ゴナドトロピン放出ホルモン作動薬)という難しい名前の薬です。GnRHアゴニストは脳下垂体に作用してエストロゲンの分泌を抑えます。


GnRHアゴニストを用いることでエストロゲンの分泌は抑えられますが、人工的に更年期を生み出すようなものなのでほてり感、頭痛、肩凝り、発汗過多、動悸、めまい、吐気と嘔吐、イライラ感などの更年期障害のような副作用が起こることもあります。もし薬物療法で対応が難しい場合は子宮の一部や全体を切除する手術が選択されます。


子宮筋腫の漢方医学的解釈


漢方医学的には子宮筋腫を含んだ腫瘍は瘀血(おけつ)と呼ばれる血の滞りによって生まれるものと考えます。瘀血が生じるとその部分に刺すような痛みや不正出血などが起こりやすくなります。


この血の滞りが起こる原因はいくつか考えられます。まず血を動かして身体中を循環させているのは気の働きです。気が何らかの影響で不足したり気も滞ってしまった場合、気が持っている力が充分に発揮されず血も滞って瘀血が生まれてしまいます。気のトラブル以外にも冷えによっても血の流れは悪くなってしまうので、冷え性(冷え症)を改善することは非常に大切です。


さらに津液の滞りや血の不足なども瘀血の形成には関与しますので、子宮筋腫には十人十色の複合的な原因があるといえるでしょう。したがって、個々人の体質や症状などから慎重に原因と治療法を決定する必要があります。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いた子宮筋腫の治療


子宮筋腫治療の中心になるのは血の流れを改善する生薬(活血薬)を含む漢方薬になります。活血薬には桃仁、当帰、川芎、牡丹皮、紅花、延胡索などが挙げられます。特に延胡索は優れた鎮痛効果を発揮し、当帰は血を補う力も強いので血が不足している方の子宮筋腫にとても有効です。


血を動かしているのは気でしたので、気に対応した漢方薬も子宮筋腫治療に用いられます。疲労感、身体の重だるさ、食欲不振、息切れなどの気の不足が顕著なら気を補う生薬(補気薬)である人参、黄耆、大棗、白朮、甘草などが用いられます。精神的ストレスなどを受けて気の流れが悪くなっている場合、気の流れを改善する生薬(理気薬)である柴胡、枳実、陳皮、半夏、厚朴、香附子なども必要になってきます。


さらに冷え性(冷え症)があると血の流れが悪くなるので身体を温める生薬(散寒薬)である桂皮、乾姜、細辛、呉茱萸、附子も検討されます。このように子宮筋腫に用いられる漢方薬は活血薬を中心としつつ、その方の症状や体質によって様々に変化してゆきます。


生活面での注意点と改善案


当薬局にご来局される子宮筋腫を患っている女性のほぼすべてに共通しているのが冷え性(冷え症)です。冷えは血流を悪くしてしまうのでつらい生理痛を起こしやすくなります。まずはこれ以上身体を冷やさないようにすることが大切になります。


服装に関しては特に冬の服装、ファッション重視の薄着は問題になりがちです。以前、「ファッションは我慢」という言葉を聞いて妙に納得したことを記憶しています。しかし、金銭面の我慢ならともかく、健康に問題が出てきては我慢している場合ではありません。


しばしば、「生足」「へそ出し」「ノースリーブ」という「冷え性(冷え症)・三種の神器」を携えてご来局される方も多くいらっしゃいます。そうなるといくら漢方薬で対応しても、薬効を相殺されてしまい十分な効果が期待できなくなってしまいます。


まず、冷え性(冷え症)の方は「毛糸の靴下」「下着の上に毛糸のパンツ」「腹巻」という「保温・三種の神器」がお勧めです。その他にもカーディガンや毛布などを持ち歩くと外出時のクーラー対策にもなります。これは夏場の予期せぬクーラーにも有効です。


他にもぬるめのお風呂に長く浸かるといった方法も冷え性(冷え症)には有効です。熱過ぎるお風呂は長く浸かっていられないので結果的には身体の芯まで温まらなくなってしまいますので注意してください。さらにシャワーは身体の汚れを落とすものであり、温めるものではありませんので冬だけではなく夏もしっかりと湯船に浸かることをお勧めいたします。


子宮筋腫の改善例


患者は30代後半の女性・公務員。高校生の頃から生理が不順で社会人になってからは強烈な生理痛にも悩まされ始めました。徐々にご症状が悪化してゆくことに心配になって婦人科を受診すると直径約3cmの子宮筋腫(粘膜下筋腫)が発見されました。ご症状を引き起こしていた部分の子宮筋腫は手術によって取り除きましたが、それ以外にも切除困難な小さい筋腫がいくつか残っているとのこと。


生理痛はピークほどではないが、寒い時期になるとやはりつらいという。ホルモン療法も追加的に行いましたがほてりとイライラ感の副作用が強く中止へ。鎮痛剤だけでは痛みは緩和されず、以前から漢方薬に興味があったこともあり当薬局にご来局。


お話を伺うと子宮筋腫による生理痛以外にも不正出血や貧血による立ちくらみも気になっているとのこと。さらに顔色の悪さやアザができやすいことなどからこの方は血の滞りである瘀血が原因で強い痛みが起こっていると考えました。そこで当帰、牡丹皮、紅花などの血の流れを改善する生薬にくわえて痛みを抑える働きもある延胡索を含んだ漢方薬を服用して頂きました。


服用から4ヵ月が経過した頃にはやや早めの20日周期だった生理が安定して、痛みもだいぶ緩和されていました。あまり鎮痛剤を使わなくてもすんでいるとのこと。しかし、まだ出血がしばしばあるということで血を補う地黄、芍薬、出血を抑える艾葉などから構成される漢方薬を併用して頂くことにしました。


そうして7ヵ月が経つ頃には不正出血もおさまり、それに伴って貧血傾向も改善。問題であった子宮筋腫も大きくなることなく安定しており、痛みもすっかり無くなっていました。この方は再発予防と健康維持の意味合いも含めて漢方薬の服用を継続されています。


おわりに


子宮筋腫はつらい生理痛や不正出血などが定期的に訪れることから、日常生活において支障が大きい病気といえます。症状だけではなく子宮筋腫は不妊症の原因にもなる代表的な病気でもあるので、顕著な症状がなくてもお子様をご希望の方には大きな問題です。


当薬局では生理痛を中心とした子宮筋腫の症状が漢方薬の服用によって好転する方がとても多くいらっしゃることから、子宮筋腫と漢方薬とは「相性」が良いと実感しています。是非一度、子宮筋腫にお悩みの方は当薬局にご来局くださいませ。

【 子宮内膜症(子宮腺筋症を含む) 】と漢方薬による治療

子宮内膜症とは


子宮内膜とはしばしば「受精卵のベッド」と表現され、受精卵を子宮内に安定して維持し、成長させるために必要なものです。子宮内膜症では子宮内膜組織が本来あるべき子宮内以外の部分(子宮筋層、卵巣、腹腔、大腸、小腸、膀胱、肺など)で発生し、増殖してしまう病気です。一般的に20~40代の女性に多い病気といわれて、妊娠可能な女性の約10%ほどが患っているといわれています。


通常、子宮内膜は受精卵がなければ不要なものとされ周期的に子宮から剥がれおちます。これが生理の際の出血であり経血です。子宮内膜症においては子宮外に子宮内膜組織が増殖してしまうため、うまく経血として体外に排出できません。異常な出血や他臓器などへの癒着、さらには子宮本来の働きを悪くさせてしまうので子宮内膜症は不妊症やつらい生理痛(月経困難症)を引き起こしてしまいます。


子宮内膜症の原因


なぜ子宮内膜症が起こるのか明確な原因はわかっていません。しかし、有力な説としては経血に含まれている子宮内膜組織がうまく体外に排出されず子宮内外に残留してしまうことが原因とされています。


子宮内膜症の原因が不明な一方で、女性ホルモンのエストロゲン分泌量と子宮内膜症の発生は正比例することが知られています。初経の低年齢化にくわえて出産回数の減少による月経回数の増加は子宮内膜症患者の増加と関連が指摘されています。


子宮内膜症の症状


子宮内膜症の主な症状は生理痛(月経困難症)、性交痛、排便痛、下痢や軟便、不正出血、出血過多、不妊症などが挙げられます。これら子宮内膜症の症状は子宮内膜組織がどの部位で増殖するかによって異なりますが、生理痛(月経困難症)はほぼすべての女性に共通している症状です。


子宮腺筋症とは


子宮腺筋症は子宮内膜組織が子宮筋層において異常増殖した場合の病名です。つまり子宮腺筋症は子宮内膜症の仲間のような病気ということができます。子宮筋層で子宮内膜組織が無秩序な増殖と出血を繰り返すことでつらい痛みを起こし、経血過多や生理期間が延びやすくなります。一方で子宮内膜症と比較すると不妊症の原因にはなりにくい傾向があります。


子宮腺筋症は30~40代の出産経験者、つまり子宮内膜症患者よりも好発年齢がやや高い年齢層に多いとされています。さらに生理回数が増えるごとに症状(生理痛など)が悪化しやすく、その傾向は子宮内膜症よりも顕著です。子宮腺筋症はしばしば子宮筋腫を合併することもわかっています。子宮筋腫に関しては 子宮筋腫と漢方薬による治療もご覧ください。


チョコレート嚢胞(のうほう)とは


子宮内膜組織が卵巣において増殖と出血を繰り返した結果、徐々に卵巣内部に固まった血液がたまりチョコレートのような塊が生まれることがあります。この血液の塊がチョコレート嚢胞です。チョコレート嚢胞は卵巣機能を低下させる原因となるので不妊症の原因のひとつといえます。チョコレート嚢胞に関しては卵巣嚢腫(チョコレート嚢胞などを含む)と漢方薬による治療もご覧ください。


子宮内膜症の西洋医学的治療法


子宮内膜組織は女性ホルモンのエストロゲンの支配をうけながら増殖と出血を繰り返します。したがって、子宮内膜症の治療にはエストロゲンの分泌量を下げる低用量ピルなどを用いたホルモン療法が一般的です。


しかしながら、ホルモン療法は人工的に更年期を生み出すようなものなのでのぼせやほてり、発汗、動悸、めまい、イライラ感などの更年期障害のような副作用が起こることもあります。さらにホルモン療法を含めた薬物療法で対応が難しい場合は子宮の一部や全体を切除する手術も選択されます。


子宮内膜症の漢方医学的解釈


漢方医学的には強い生理痛(月経困難症)をもたらす子宮内膜症は瘀血(おけつ)と呼ばれる血の滞りによって生まれるものと考えます。瘀血が生じるとその部分に刺すような痛みや不正出血などが起こりやすくなります。


この血の滞りが起こる原因はいくつか考えられます。まず血を動かして身体中を循環させているのは気の働きです。気が何らかの影響で不足したり気も滞ってしまった場合、気が持っている力が充分に発揮されず血も滞って瘀血が生まれてしまいます。気のトラブル以外にも冷えによっても血の流れは悪くなってしまうので、冷え性(冷え症)を改善することは非常に大切です。


さらに津液の滞りや血の不足なども瘀血の形成には関与しますので、子宮内膜症には十人十色の複合的な原因があるといえるでしょう。したがって、個々人の体質や症状などから慎重に原因と治療法を決定する必要があります。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いた子宮内膜症の治療


子宮内膜症治療の中心になるのは血の流れを改善する生薬(活血薬)を含む漢方薬になります。活血薬には桃仁、当帰、川芎、牡丹皮、紅花、延胡索などが挙げられます。特に延胡索は優れた鎮痛効果を発揮し、当帰は血を補う力も強いので血が不足している方の子宮内膜症にとても有効です。


血を動かしているのは気でしたので、気に対応した漢方薬も子宮内膜症治療に用いられます。疲労感、身体の重だるさ、食欲不振、息切れなどの気の不足が顕著なら気を補う生薬(補気薬)である人参、黄耆、大棗、白朮、甘草などが用いられます。精神的ストレスなどを受けて気の流れが悪くなっている場合、気の流れを改善する生薬(理気薬)である柴胡、枳実、陳皮、半夏、厚朴、香附子なども必要になってきます。


さらに冷え性(冷え症)があると血の流れが悪くなるので身体を温める生薬(散寒薬)である桂皮、乾姜、細辛、呉茱萸、附子も検討されます。このように子宮内膜症に用いられる漢方薬は活血薬を中心としつつ、その方の症状や体質によって様々に変化してゆきます。


生活面での注意点と改善案


当薬局にご来局される子宮内膜症を患っている女性のほぼすべてに共通しているのが冷え性(冷え症)です。冷えは血流を悪くしてしまうのでつらい生理痛を起こしやすくなります。まずはこれ以上身体を冷やさないようにすることが大切になります。


服装に関しては特に冬の服装、ファッション重視の薄着は問題になりがちです。以前、「ファッションは我慢」という言葉を聞いて妙に納得したことを記憶しています。しかし、金銭面の我慢ならともかく、健康に問題が出てきては我慢している場合ではありません。


しばしば、「生足」「へそ出し」「ノースリーブ」という「冷え性(冷え症)・三種の神器」を携えてご来局される方も多くいらっしゃいます。そうなるといくら漢方薬で対応しても、薬効を相殺されてしまい十分な効果が期待できなくなってしまいます。


まず、冷え性(冷え症)の方は「毛糸の靴下」「下着の上に毛糸のパンツ」「腹巻」という「保温・三種の神器」がお勧めです。その他にもカーディガンや毛布などを持ち歩くと外出時のクーラー対策にもなります。これは夏場の予期せぬクーラーにも有効です。


他にもぬるめのお風呂に長く浸かるといった方法も冷え性(冷え症)には有効です。熱過ぎるお風呂は長く浸かっていられないので結果的には身体の芯まで温まらなくなってしまいますので注意してください。さらにシャワーは身体の汚れを落とすものであり、温めるものではありませんので冬だけではなく夏もしっかりと湯船に浸かることをお勧めいたします。


子宮内膜症の改善例


患者は30代後半の女性・塾講師。生理痛は学生時代から強く経血量も多いと思ってはいましたが、なかなか友人などと比較する機会もないので社会人になっても「こんなものだろう」と思い放置していました。


しかし、結婚後に受けた自治体の検診で子宮内膜症(厳密には子宮腺筋症でした)とチョコレート嚢胞が発見されました。両者とも手術の適応ほどではなかったのでホルモン療法を勧められましたが、妊娠を希望していたので鎮痛剤で様子を見ることに。しかし、結婚4年目でも妊娠できず、依然としてつらい生理痛と不正出血に不安となり当薬局にご来局。


この方の顔色は青白く、貧血のために立ちくらみや疲労感も目立っていました。そこでまず血を補う地黄や芍薬、血を巡らす当帰、出血を抑制する阿膠や艾葉などから構成される漢方薬を服用して頂きました。漢方薬を服用し始めて約4ヵ月が経過する頃には以前より疲労感が軽減し、生理痛や出血量が落ち着いてきました。


さらに数ヵ月が経つと延びがちだった生理周期もほぼ30日周期に安定化し、病院での定期検診でもチョコレート嚢胞の縮小が見られました。この頃から妊娠しやすい身体づくりにシフトしたいという要請があり、漢方薬の基本形はそのままに、妊娠に必要な精を補う鹿茸を含んだ生薬製剤を追加。その後、季節やご症状を見ながら調節を繰り返し、漢方薬服用から約2年が経過した頃に妊娠されました。


この方は悪阻(つわり)がとても強かったので、それに対応する漢方薬を頓服で服用しながら無事に出産。出産を機に子宮内膜症の症状自体もさらに軽減しましたが、現在も体力維持の目的もかねて漢方薬を継続服用されています。


おわりに


子宮内膜症はつらい生理痛や不正出血など、日常生活に支障をきたしやすい症状が多いという特徴があります。それ以外にも卵巣機能を低下させるチョコレート嚢胞などは不妊症の原因にもなりますので将来を考えて放置は危険です。


当薬局では子宮内膜症の症状が漢方薬の服用によって好転する方がとても多くいらっしゃることから、子宮内膜症と漢方薬とは「相性」が良いと実感しています。子宮内膜症でお悩みの方は是非一度、当薬局にご来局くださいませ。

【 卵巣嚢腫(チョコレート嚢胞などを含む) 】と漢方薬による治療

卵巣嚢腫とは


卵巣嚢腫(らんそうのうしゅ)とは卵巣になんらかの液体が溜まって腫れている状態であり、その経過は比較的良好なものと定義されます。卵巣嚢腫の「嚢腫」とは良性腫瘍の影響で水分がたまり嚢胞状になったものを指します。


「嚢腫」と似た言葉に「嚢胞(のうほう)」が存在ます。嚢胞とは腫瘍が関与していない出血なども含めて、何らかの液体がたまって嚢胞状となったものとされます。したがって、それぞれ似てはいますが厳密には異なった病態といえます。


しかし、両者が「卵巣になんらかの液体が溜まって腫れている状態」であり、経験的に両者とも「経過は比較的良好」であることが知られています。このような経緯から、卵巣嚢腫には嚢胞性腫瘍である漿液(しょうえき)性嚢胞腺腫、粘液性嚢胞腺腫、成熟嚢胞性奇形腫、さらに非腫瘍であるチョコレート嚢胞や多嚢胞性卵巣も含まれることになります。


卵巣嚢腫なのに「嚢腫」ではない「嚢胞」も含まれてしまうことに違和感を覚えますが、上記のややアバウトな定義に従うならこのようなことになってしまいます。なお、卵巣で起こる悪性の腫瘍はしばしば卵巣癌と呼ばれ区別されます。


卵巣嚢腫の症状


卵巣嚢腫の主な自覚症状は下腹部痛、腹部の張り感、腹部の肥大化、腹水、腰痛、性器不正出血、便秘、頻尿などが挙げられます。しかし、人によってはこれらの自覚症状があまり出てこないケースもあり、婦人科系疾患の定期検診ではじめて卵巣嚢腫が発見されることもしばしばです。


卵巣嚢腫の西洋医学的治療法


基本的には手術が選択されます。卵巣嚢腫のサイズが小さいものならば腹腔鏡を用いた摘出手術が可能であり、ある程度の大きさ以上の場合は開腹による手術が適用されます。


卵巣嚢腫の漢方医学的解釈


漢方医学的に卵巣嚢腫は瘀血(おけつ)と呼ばれる血の滞りと津液の停滞である水湿が絡んだ病気と考えることができます。瘀血が生じるとその部分に刺すような痛みや不正出血などが起こりやすくなります。水湿が顕著な場合は重く鈍い痛みが現れやすいです。


卵巣嚢腫の元凶ともいえる血の滞り、瘀血が起こる原因はいくつか考えられます。まず血を動かして身体中を循環させているのは気の働きです。気が何らかの影響で不足したり気も滞ってしまった場合、気が持っている力が充分に発揮されず血も滞って瘀血が生まれてしまいます。気のトラブル以外にも冷えによっても血の流れは悪くなってしまうので、冷え性(冷え症)を改善することは非常に大切です。


さらに水湿や血の不足なども瘀血の形成には関与しますので、卵巣嚢腫には十人十色の複合的な原因があるといえるでしょう。したがって、個々人の体質や症状などから慎重に原因と治療法を決定する必要があります。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いた卵巣嚢腫の治療


卵巣嚢腫治療の中心になるのは血の流れを改善する生薬(活血薬)を含む漢方薬になります。活血薬には桃仁、当帰、川芎、牡丹皮、紅花、延胡索などが挙げられます。特に延胡索は優れた鎮痛効果を発揮し、当帰は血を補う力も強いので血が不足している方の卵巣嚢腫にとても有効です。


血を動かしているのは気でしたので、気に対応した漢方薬も卵巣嚢腫治療に用いられます。疲労感、身体の重だるさ、食欲不振、息切れなどの気の不足が顕著なら気を補う生薬(補気薬)である人参、黄耆、大棗、白朮、甘草などが用いられます。精神的ストレスなどを受けて気の流れが悪くなっている場合、気の流れを改善する生薬(理気薬)である柴胡、枳実、陳皮、半夏、厚朴、香附子なども必要になってきます。


水湿に対してはそれらを除去する生薬である蒼朮、沢瀉、猪苓、茯苓などの利湿薬が用いられます。さらに冷え性(冷え症)があると血の流れが悪くなるので身体を温める生薬(散寒薬)である桂皮、乾姜、細辛、呉茱萸、附子も検討されます。


このように卵巣嚢腫に用いられる漢方薬は活血薬や利湿薬を中心としつつ、その方の症状や体質によって様々に変化してゆきます。


生活面での注意点と改善案


当薬局にご来局される卵巣嚢腫を患っている女性のほぼすべてに共通しているのが冷え性(冷え症)です。冷えは血流を悪くしてしまうのでつらい生理痛を起こしやすくなります。まずはこれ以上身体を冷やさないようにすることが大切になります。


服装に関しては特に冬の服装、ファッション重視の薄着は問題になりがちです。以前、「ファッションは我慢」という言葉を聞いて妙に納得したことを記憶しています。しかし、金銭面の我慢ならともかく、健康に問題が出てきては我慢している場合ではありません。


しばしば、「生足」「へそ出し」「ノースリーブ」という「冷え性(冷え症)・三種の神器」を携えてご来局される方も多くいらっしゃいます。そうなるといくら漢方薬で対応しても、薬効を相殺されてしまい十分な効果が期待できなくなってしまいます。


まず、冷え性(冷え症)の方は「毛糸の靴下」「下着の上に毛糸のパンツ」「腹巻」という「保温・三種の神器」がお勧めです。その他にもカーディガンや毛布などを持ち歩くと外出時のクーラー対策にもなります。これは夏場の予期せぬクーラーにも有効です。


他にもぬるめのお風呂に長く浸かるといった方法も冷え性(冷え症)には有効です。熱過ぎるお風呂は長く浸かっていられないので結果的には身体の芯まで温まらなくなってしまいますので注意してください。さらにシャワーは身体の汚れを落とすものであり、温めるものではありませんので冬だけではなく夏もしっかりと湯船に浸かることをお勧めいたします。


卵巣嚢腫の改善例


患者は20代後半の女性・団体職員。中学生の頃から生理痛が強く悩んでいましたが、特に婦人科を受診することなく過ごしていました。社会人になっても市販の鎮痛薬を服用していましたが、下腹部痛だけではなく生理後に必ず性器不正出血も起こるようになりあわてて婦人科を受診。そこで卵巣嚢腫の一種であるチョコレート嚢胞と診断されました。


くわしい検査の結果、チョコレート嚢胞の大きさはまだ小さかったので手術は行わずまずは経過を見ることに。高校時代にニキビ治療の漢方薬を服用してうまくいったことを思い出し、漢方薬を使ってみようと考えて当薬局にご来局。


詳しくご症状を伺うと生理痛にくわえて生理不順、不正出血による貧血、それによると考えられる立ちくらみもあるとのこと。顔色が悪いでだけではなく、声に元気がなく全体的に弱々しい印象。


この方にはまず血を補う生薬と血をうまく流す生薬から構成される漢方薬を服用して頂きました。漢方薬を服用し始めてから5ヵ月が経った頃には生理痛も緩和され、不正出血も減少したので立ちくらみも無くなっていました。薄暗かった顔色もすこし紅みのある鮮やかな肌色へ。


この頃からチョコレート嚢胞を局所的な水湿と捉えて余分な水分の代謝を促す生薬をより含んだ漢方薬に変更しました。この判断はこの方が下肢に強いむくみがあり、慢性的に両脚に重だるさを感じていたことも後押ししました。新しい漢方薬に変更して8ヵ月が経過した頃には生理周期もほぼ28日周期に固定され、むくみと一緒に生理痛も無くなっていました。


その後の定期検診でもチョコレート嚢胞は縮小して自然に消滅が期待できるレベルにまで落ち着いていたとのこと。この方はその後も予防的に漢方薬を体調に合わせて微調節しながら継続服用して頂いています。


おわりに


卵巣嚢腫はつらい生理痛や不正出血など日常生活に支障をきたしやすい症状が多いという特徴があります。それ以外にも卵巣機能を低下させるチョコレート嚢胞などは不妊症の主要な原因にもなりますので放置は将来を考える上で危険です。


当薬局では卵巣嚢腫の症状が漢方薬の服用によって好転する方がとても多くいらっしゃることから、卵巣嚢腫と漢方薬とは相性が良いと実感しています。卵巣嚢腫を患われている方は是非一度、当薬局にご来局くださいませ。

【 腰痛(坐骨神経痛などを含む) 】と漢方薬による治療

腰痛とは


つらい腰の痛みは老若男女問わず、誰しも一度は経験したことがあるのではないでしょうか。実際、日本において腰痛は最も多い病気の一つといわれています。しかし、腰痛と一言で表現してもその内容は腰の筋肉の捻挫から疲労骨折まで多彩です。本ページではそのなかでも慢性的に続いている腰痛について解説してゆきます。


腰痛の原因と症状


ここではよく見られる腰痛の原因別に症状の特徴などを解説してゆきます。


姿勢の悪さによって起こる腰痛

机に向かってパソコンを扱う仕事が多い今日の日本において、姿勢の悪さはなかなか避けられないかもしれません。そもそも、良い姿勢とは背骨が縦に緩やかにS字カーブを描いている状態です。猫背や腰が反り過ぎているとS字カーブは描けず、腰椎(背骨の下部、腰のあたりの背骨です)付近の筋肉や靭帯が疲労して痛みが生じてしまいます。


姿勢の偏りや運動不足に起因する腰痛の多くはレントゲンといった画像診断でも異常は発見されません。したがって、西洋医学的な治療は鎮痛効果のある貼り薬の使用といった対処療法に限定されてしまいます。


ぎっくり腰(急性腰痛症)

腰痛で最も有名なのはこのぎっくり腰ではないでしょうか。西洋医学的には急性腰痛症、欧米では「魔女の一撃」とも表現されます。ぎっくり腰は腰を使った急な動き(重いものを一気に持ち上げる、バットを思いっきり振るなど)によって腰の筋肉や靭帯に起こる捻挫とされます。捻挫が起こった部分には炎症が起こり、つらい痛みが発生します。


坐骨神経痛

坐骨神経痛もぎっくり腰と並んで腰痛の代表格といえる存在です。その一方で坐骨神経痛は症状に対する名前であって病名ではありません。坐骨神経痛とはなんらかの原因で坐骨神経が刺激されて起こる痛みの総称なのです。したがって、下記で解説している椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、腰椎変性すべり症などを含めた幅広い腰痛をまとめて「坐骨神経痛」と呼称しています。


この坐骨神経とは腰から足にまで続く長く太い神経であり、坐骨神経痛を患うと神経に沿って下肢にしびれや痛み、麻痺などが生じるという特徴があります。つまり、腰のみではなく下半身に幅広く不快症状が現れることになります。


椎間板ヘルニア

腰椎を構成する椎骨(ついこつ)と椎骨の間にはクッション材の役割を担っている椎間板が存在します。椎間板ヘルニアはこの椎間板が何らかの原因で飛び出してしまい、神経を圧迫することで痛みが生じます。


椎間板ヘルニアの特徴としては神経圧迫によって起こる下肢のしびれや麻痺を伴う点です。椎間板ヘルニアはしばしば高齢者の病気と思われがちですが、若い方が重い荷物を急に持ち上げた際などにも起こります。


脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)

脊柱とは簡単にいえば背骨のことです。この脊柱の中には脊柱管という空洞があり、そこには馬尾(ばび)などの神経や靭帯が収められています。狭窄とは狭くなることであり、脊柱管狭窄症は脊柱管の空洞が狭くなって起こる腰痛ということになります。


より詳しく説明すると、主に加齢によって椎間板が弱くなったり、靭帯の弾力性が低下したりすると徐々に脊柱管が狭くなってしまいます。そして、脊柱管が狭くなったことで、そのなかに収められていた神経が圧迫され、痛みが生じるのが脊柱管狭窄症です。椎間板ヘルニアと同じように腰痛だけではなく下肢のしびれや麻痺が特徴です。


腰椎変性すべり症

しばしば略されて「すべり症」と呼ばれます。その名の通り、椎間板というクッション材を挟んで積み上がっている腰椎同士がすべるようにずれてしまう病気です。多くは腰椎が前にすべってしまい、脊柱管内に収められている神経が圧迫されることで腰痛が起こります。脊柱管狭窄症と同様に加齢によって起こりやすくなる腰痛の一つです。


圧迫骨折

加齢によって骨密度が減少する病気を骨粗鬆症(こつそしょうしょう)といいます。椎骨は特に骨粗鬆症を患いやすく、圧迫骨折が起こりやすい部分とされています。椎骨の圧迫骨折による腰痛は背中の中央部から上にかけて発生しやすい特徴もあります。


腰痛の西洋医学的治療法


西洋医学的な治療はその原因によって大きく異なります。一方、多くの場合において非ステロイド性消炎鎮痛薬の貼り薬や飲み薬が用いられます。上記でも挙げた椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、腰椎変性すべり症などには鎮痛薬を用いて痛みを抑えつつ運動療法で改善を目指します。


下肢のしびれなどの神経障害が顕著な場合は手術が選択されます。骨粗鬆症による圧迫骨折に対しては手術の他にカルシウムやビタミンDを使用して骨形成を促します。


広く用いられている飲み薬の非ステロイド性消炎鎮痛薬、有名なものはロキソニン(一般名:ロキソプロフェン)やボルタレン(一般名:ジクロフェナク)は痛みを取り除く力に優れている反面、胃腸障害の副作用が起こりやすいことが知られています。長期服用している場合は胃潰瘍や十二指腸潰瘍に注意する必要があります。


非ステロイド性消炎鎮痛薬でもセレコックス(一般名:セレコキシブ)、モービック(一般名:メロキシカム)、ハイペンやオステラック(ともに一般名:エトドラク)、異なる分類の解熱鎮痛薬であるカロナール(一般名:アセトアミノフェン)などは比較的、胃腸への負担が少ないといわれています。しかし、負担が無いわけではないので漫然とした長期服用は避けるべきです。


「生活面での注意と改善案」でより詳しく解説しますが、腰痛に対しては適度な運動(特に腹筋を鍛えるような運動)が非常に重要です。過度に腰痛を気にするあまり、横になってばかりいると筋肉が弱まり回復を遅らせてしまうこともあります。


腰痛の漢方医学的解釈


漢方医学的に見ても腰痛の原因はいくつか考えられます。そのなかでも頻繁に遭遇するのが血(けつ)の滞りである瘀血(おけつ)が関与しているもの、うまく利用されていない水分の塊である水湿(すいしつ)が関与しているもの、そして加齢に伴う腎虚(じんきょ)が関与しているものです。


漢方医学的に痛みが起こるメカニズムは、身体の機能維持や活動に不可欠な気や血の流れがせき止められた場合に発生すると考えます。腰痛以外にも生理痛や頭痛などにおいて刺すような鋭い痛みは瘀血が絡んでいることが多いです。他にも腰痛にくわえて高血圧、静脈瘤、多発するアザ、顔色の黒色化などが見られるようならば瘀血の存在が疑われます。


水湿の場合、何らかの原因で水湿が発生してしまうとそれが気や血の流れを悪くして痛みを発生させます。水湿が絡んだ痛みは鈍く重いという特徴があります。しばしば、夏場の高温多湿な状態で悪化する腰痛や関節リウマチなどは水湿が絡んでいるケースが多いです。


そして、腎虚とは現代風にいえば加齢によって起こる諸症状の原因とされます。腎虚になると腰痛以外にも足腰の弱り、下肢の冷え、歩行障害、排尿障害などの症状が引き起こされます。腎虚由来の痛みはマッサージや温めることで一時的に回復しやすい傾向があります。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いた腰痛の治療


漢方薬による腰痛の治療は主に瘀血、水湿、そして腎虚の改善を目指すことになります。しかし、多くの場合はこれらが重なり合って痛みを起こしているので特にどの病因が色濃いのか判断し、臨機応変な対応が必要になります。


まず、瘀血によるケースでは血の流れを促す活血薬(かっけつやく)である当帰、桃仁、川芎、牡丹皮、紅花、延胡索などが使用されます。血は気の力によって巡っているので、気の滞りによっても血の流れは悪くなってしまいます。そこで気の流れをスムーズにする理気薬(りきやく)の柴胡、厚朴、半夏、薄荷、枳実、香附子なども併用されます。


水湿が気や血の流れを止めているなら、水湿を除去する利水薬(りすいやく)である白朮、蒼朮、沢瀉、猪苓、茯苓などが使用されます。水湿はしばしば脾胃(消化器)の不調が原因で生まれやすいので、脾胃の状態を向上させる人参、大棗、甘草などの補気薬(ほきやく)も併せて用いられることが多いです。


腎虚による腰痛の場合、腎の力を補う補腎薬(ほじんやく)である鹿茸、地黄、山茱萸、山薬、枸杞子などが用いられます。腎虚による下肢の冷えなどが顕著な場合は身体を温める作用に優れている桂皮、乾姜、細辛、呉茱萸、附子などの散寒薬(さんかんやく)も追加されます。


腎虚に限らず、散寒薬によって患部が温められると瘀血や水湿も取り除きやすくなります。したがって、散寒薬は秋から冬にかけて悪くなる、つまり冷えによって悪化しやすい腰痛にしばしば使用されます。


これら以外にも主訴や体質が微妙に異なる場合はそれに合わせて漢方薬を対応させる必要があります。したがって、実際に調合する漢方薬の内容もさまざまに変化してゆきますので、一般の方が自分に合った漢方薬を独力で選ぶのは非常に困難といえるでしょう。

 


生活面での注意点と改善案


腰痛が発生した直後、つまり急性期は基本的に患部を冷やして安静にすることが基本です。しかし、慢性になった腰痛に関しては患部を温めて軽い運動をすることで症状の緩和に繋がります。


運動の注意点としては腰に負担をかけやすい深くお辞儀をするような、大きく前かがみになる運動(体勢)は避けるべきです。しかし、逆にいえばそれ以外の運動はそれほど問題になりません。むしろ、家事やウォーキングといった軽運動は筋肉が硬直化するのを防ぐためにも積極的に行うべきです。


普段から正しい姿勢を意識することも大切です。直立姿勢の場合、頭が腰より前に出ている猫背の姿勢や、腰が反り過ぎてお腹が出ている姿勢は要注意です。耳、手の指先、かかとが地面に対して垂直に一直線上に並ぶ姿勢を意識しましょう。


机に向かってパソコンなどを使う仕事を長時間する場合、頭部が首の骨の上にまっすぐ「載っている」状態を意識しましょう。頭部が前のめりになると腰痛だけではなくつらい肩凝りの原因にもなります。


腰痛の改善例


改善例1

患者は30代前半の男性・建築士。学生時代は腰痛と無縁の生活を送っていましたが、建築士の仕事を始めた頃から慢性的な腰痛に悩まされてきました。病院を受診しても明確な原因は不明で鎮痛作用のある貼り薬を使用しても症状は緩和されませんでした。


建築士という仕事柄、椅子に長時間座ったままの姿勢が悪いと考えて適度な運動や色々なタイプの椅子を試してみるも効果は出ませんでした。腰痛の症状は徐々に悪化して、30代になった頃には立ち上がるたびに針を刺し込まれたような痛みが出るようになってしまいました。


詳しくお話を伺うと、腰痛以外の症状としては首と肩の凝りや疲労時の頭痛がありました。くわえて「どうしても平日は椅子に座っていることが多いので、休日は散歩に出たりしていますが、長時間歩いたり立っていると腰がつらくなる」とのこと。この方にはまず、筋肉の緊張を取り除く芍薬を中心に血の巡りを改善する牡丹皮や延胡索を含む漢方薬を服用して頂きました。


服用から3ヵ月が経過した頃には以前よりも腰の動かせる範囲が広がりましたが、やはりつらい痛みは残っているとのこと。この頃、建築士として独立開業した頃から腰痛は特に悪化したというお話を伺いました。設計の仕事だけではなく営業や会計などまで一人でやらなければならないことに強いストレスを感じているともおっしゃっていました。


このお話を受けて痛みの原因はストレスによる気の流れの滞りにもある考え、柴胡や枳実といった気の流れを改善する生薬を含んだ漢方薬を併用して頂きました。新しい漢方薬の組み合わせにしてから約4ヵ月がたった頃には痛みは半分以下になり、痛み自体が出る頻度も大幅に減少していました。


痛みが緩和したことでストレスも軽減され、充分な睡眠もとれるようになったことも良い循環に繋がっていると感じました。腰痛だけではなく、首肩の凝りや頭痛を訴えられることも少なくなりました。この方は徐々に気の流れを緩和する漢方薬のみで痛みがコントロールできるようになったので、この漢方薬を柱に現在も服用を継続されています。


改善例2

患者は60代前半の男性・税理士。50代前半に腰椎変性すべり症を発症して以来、腰痛と左足のしびれに悩まされるようになりました。病院の治療で仕事や日常生活を送るうえで問題ない程度まで回復はしましたが、冬になると痛みは強くなりとても辛いという。


詳しくお話を伺うと痛みは冷えによって顕著に悪くなり、温かいお風呂に入ると少し良くなる。それ以外にもしびれと頻尿(特に夜間尿)が目立ち「夕食後から冷たい水分を摂るのは控えているけれども、夜中に2回はトイレで起きる」とのこと。腰は痛みだけではなく重だるさと、他の部位よりも冷えがある。


これらのご症状からこの方の腰痛には腎虚が強く関与していると考えて、腎虚を回復する地黄や鹿茸を中心に身体を温める生薬を含む漢方薬を服用して頂きました。一般的に加齢とともに腎虚の症状は悪化しやすいので、まずは根気強い漢方薬の服用も併せてお願いしました。


漢方薬を服用し始めて4ヵ月が経った頃には下肢の冷えはだいぶ緩和して、厚着をして蒸れることも無くなったと喜ばれました。痛みは依然として残っているとのことでしたが、しびれも含めて回復を感じられるとおっしゃられました。


この年の冬は寒さが厳しかったので身体を温める生薬を追加するなどして微調整を行いました。それからさらに半年強が経過した頃には腰痛の症状が大きく改善し、軽い登山に行けるまでになっていました。夜間尿の回数も明け方の1回だけになり、睡眠も充分にとれているとのこと。しびれ感も下肢の冷えの緩和とともに気にならなくなっていました。


腎虚を回復する漢方薬はいわば「抗老化薬」といえるものなので、この方には強く継続をすすめて現在も季節性も考慮しながら微調節を行いつつ服用して頂いています。腎虚には老化によって起こる諸症状(この方のような腰痛や腰の重み、冷え、頻尿、その他にも体力の低下や視力や聴力の低下など)が含まれているのでそれを回復する漢方薬は、そのひとつで多くの症状を改善することが期待できます。


おわりに


近年、腰痛を患われている方がとても多くなった印象を受けます。特に病院に行っても原因不明で処理されてしまう腰痛が目につきます。やはり長時間労働による運動不足や同じ姿勢のままでいることが主な原因と考えられます。このタイプの腰痛を患っている方の割合は多い一方、西洋医学的な治療が難しいといわれています。


漢方薬は西洋薬では対応しきれないより根本的な原因に対応することができるものです。当薬局では西洋薬を服用してもなかなか改善が見られなかった方がしばしば来局されます。そして漢方薬を服用し始めてから、症状が好転する方がとても多くいらっしゃることから、腰痛と漢方薬は「相性」が良いと実感しています。是非一度、腰痛にお悩みの方は当薬局にご来局くださいませ。

【 過敏性腸症候群 】と漢方薬による治療

過敏性腸症候群とは


過敏性腸症候群(かびんせいちょうしょうこうぐん)とはその名の通り、腸がさまざまな刺激によって過敏に反応し、下痢や便秘、腹痛などを起こしてしまう病気です。しばしば過敏性腸症候群の英語名である「Irritable Bowel Syndrome」の頭文字をとってIBSとも呼ばれます。


専門書や病気の解説サイトなどにおいて過敏性腸症候群は「器質的な異常が見られない」「機能性の疾患である」というように紹介されます。この表現は一般の方にはわかりにくいですが、簡単にいえば「腸に炎症や傷があるわけではないのに、しっかりとはたらいていない状態」を指しています。このことから過敏性腸症候群は機能性ディスペプシアと並んで、代表的な機能性消化管障害に位置付けられます。


しばしば、漢字が並んだ長い病名であり同じ「腸」の字が入ることから潰瘍性大腸炎(かいようせいだいちょうえん)と混同されている方もいらっしゃいます。潰瘍性大腸炎とは大腸(多くは大腸の直腸)に原因不明の炎症が起こり下痢や血便を起こす、過敏性腸症候群とはまったく異なった病気です。やや脱線してしまいますが、まれにネット上などで「過敏性大腸炎」と表記されているのを目にします。これは過敏性腸症候群と潰瘍性大腸炎の両病名を混ぜこぜにしてしまった完全な誤用です。


過敏性腸症候群の原因


過敏性腸症候群を引き起こす明確な原因は不明であり、個人差も大きいといわれています。そのなかでも通勤や通学の前、テストやスピーチの際などで高まる緊張状態が過敏性腸症候群の引き金になりやすいといわれています。


精神的な緊張以外にも脂肪分の多い高カロリー食品、乳製品、コーヒーを含むお茶類、柑橘類、香辛料、アルコールなども症状を悪化させることが示唆されています。もし、「朝の通勤前には症状が起こりやすい」といった傾向がわかっているようなら、上記のような食品を朝食では摂らない工夫も病状緩和に有効です。


過敏性腸症候群には性差も認められており、男性の方が女性よりも約3倍もかかりやすいという報告もあります。その一方で生理前や生理中に症状が悪化する女性も少なくありません。したがって、過敏性腸症候群は遺伝子レベルから患っている方が置かれている社会的な背景、心理的な状態まで幅広い原因が潜んでいる可能性があります。


過敏性腸症候群の症状


過敏性腸症候群はさまざまな刺激によって消化管(小腸や大腸)が強い収縮を起こし、痛みをともなった下痢や便秘などを起こす病気です。男性は下痢型、女性は便秘型が多いといわれています。さらに下痢と便秘を繰り返してしまう混合型、どれにも当てはまらない分類不能型も存在します。


上記以外にも腹痛、腹鳴、腹部の不快感もしばしばみられます。さらに便意や腹痛は突然現れることが多いので「また下痢になってしまうのではないか」という不安感にも苦しめられることになります。


過敏性腸症候群はしばしば同じ機能性消化管障害である機能性ディスペプシアを併発します。機能性ディスペプシアとは過敏性腸症候群と同様に、胃に炎症のようなトラブルがないのに食後のもたれ、胃痛、胸やけ、吐気、満腹感による食欲不振といった症状が現れる病気です。


過敏性腸症候群の西洋医学的治療法


過敏性腸症候群の中心的な症状は下痢や便秘といった便通のトラブルです。過敏性腸症候群の第一選択(最初にもちいるべき薬)であるポリカルボフィルカルシウムを有効成分とするコロネルやポリフルは便の水分バランスを整えることで下痢にも便秘にも使用されます。


コロネルやポリフルにくわえて、腸のはたらきを調整することで下痢にも便秘にも有効なセレキノン(一般名:トリメブチン)、下痢と腹痛の改善を得意とするイリボー(一般名:ラモセトロン)もしばしば使用されます。


上記の他には腸内環境を整える乳酸菌製剤、腸管の収縮をやわらげて腹痛を除くトランコロン(一般名:メペンゾラート)、生薬のアカメガシワを含んだマロゲンなどが頻用されます。憂うつ感や不安感といった精神的な症状が目立つ場合は抗うつ薬であるパキシル(一般名:パロキセチン)なども検討されます。


過敏性腸症候群は精神面の影響を無視できない病気なので、パキシルやベンゾジアゼピン系の抗うつ薬も有力な治療薬候補となります。一方で抗うつ薬はふらつき、眠気、吐気などの副作用も現れやすいので注意が必要です。薬物治療以外にも精神的ストレスが原因として明白な場合はカウンセリングを中心とした認知行動療法が行われることもあります。


過敏性腸症候群の漢方医学的解釈


漢方医学的に過敏性腸症候群を考えると、その原因は大きく分けて2つ考えられます。ひとつは脾胃(ひい)の問題です。脾胃とは簡単に表現してしまえば腸を含めた消化器のことを指します。そしてもうひとつが肝(かん)の問題です。肝とはアルコールを解毒したりする西洋医学的な肝臓のことではなく、気の流れをコントロールしたり血をたくわえるはたらきをもつとされる漢方医学的な肝を指します。


ではまず、脾胃と過敏性腸症候群について説明いたします。繰り返しになってしまいますが脾胃は西洋医学的には消化器であり、この消化器のはたらきが弱くなってしまった状態を脾気虚(ひききょ)と表現します。


脾胃は食べ物から人間に必要な気(き)、血(けつ)、津液(しんえき)の生産に関わる「エネルギー工場」のような存在です。このエネルギー工場が何らかの原因で「操業停止」になってしまうと下痢を中心とした消化器症状だけではなく、疲労感、倦怠感、息切れ、めまいやふらつきなどの多彩な症状が現れます。脾気虚の方は普段から疲れやすくて体力がない虚弱体質気味といえるでしょう。脾気虚に陥ってしまう原因としては栄養不足、慢性病後の体力消耗、過労などが挙げられます。


それでは脾胃につづいて肝についてです。肝は気の円滑な流れをコントロールしており、正常に気が流れていれば心身ともに健康な状態が保たれます。しかしながら、この肝は精神的ストレスに敏感であり、比較的簡単にダメージを受けてしまいます。その結果、肝がしっかりと働けなくなってしまうと気の流れが滞り、イライラ感や怒り、胸や喉に閉そく感を覚えるなどの症状が出てきます。


このような精神不安を中心とした症状を肝気鬱結(かんきうっけつ)と呼びます。そして、肝気鬱結をほっておくと気の滞りは脾胃にも悪影響を及ぼします。このような肝の悪影響が脾胃に及ぶことを肝脾不和(かんぴふわ)や肝胃不和(かんいふわ)と呼びます。


脾胃は人間のエネルギー源である気、血、津液を作り出しますが、脾胃自体もはたらくために気が必要です。したがって、気の滞りによって脾胃もしっかりと働かなくなり下痢や便秘、下腹部痛、下腹部の張り、食欲不振、ゲップ、吐気、嘔吐などの症状が現れてしまうのです。


他にも漢方医学的な過敏性腸症候群の原因はいくつも考えられますが、大筋で精神的ストレスと過労が主な原因と考えて良いでしょう。この点は西洋医学な観点とほぼ共通していると考えられます。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いた過敏性腸症候群の治療


上記で紹介したとおり、過敏性腸症候群の原因は漢方医学的に考えると大きく分けて脾気虚と肝気鬱結が挙げられました。したがって、気を補ったり気の巡りを改善することが過敏性腸症候群の治療につながります。


消化器の力が低下している脾気虚は気の不足なので、気を補う漢方薬を使用することになります。気を補う生薬である補気薬(ほきやく)には人参、黄耆、大棗、白朮、甘草などが挙げられます。これらから構成される漢方薬を服用することで脾胃の力が増し、食べ物からしっかりと気、血、津液が生まれるようになります。そして、気が充実してくれば消化器がしっかりはたらくようになり、下痢や疲労は回復してゆきます。


そして消化器の力を鈍くしてしまう肝気鬱結の解消には、肝のはたらきを助けてあげる必要があります。より具体的には気が流れやすくすることが重要になります。気の巡りを改善する代表的な生薬である理気薬(りきやく)には柴胡、枳実、陳皮、半夏、厚朴、香附子などが挙げられます。


これらにくわえて肝に血を与えることでその力を回復させるために地黄、当帰、芍薬、阿膠、酸棗仁、竜眼肉などの血を生み出す生薬(補血薬)もしばしば使用されます。しかし、血を補う生薬は胃に負担をかけることもあるのでその方の体質にしたがって使用は慎重に行われます。


このように漢方薬は同じ過敏性腸症候群であっても症状や体質によって大きく内容が変わってきます。漢方薬を継続的に服用することで悩まれている症状だけではなく、病気のより根本的な原因までも取り除くことができるようになります。身体は元来、病気に打ち勝つための力とバランスを保つ能力が備わっています。漢方薬はそれらの力を根本から底上げする「お手伝い」ができるのです。


生活面での注意点と改善案


漢方薬の服用は過敏性腸症候群に打ち勝つ力になると説明しましたが、日々の生活面を見直すこともこの病気に対抗するための有効な手段となります。過敏性腸症候群は西洋医学的にも漢方医学的にもストレス、特に精神的なストレスの影響を強く受けていると考えます。


ストレス社会といわれる今日において精神的ストレスを完全に消し去ることは非常に困難です。その一方で過敏性腸症候群が身体にかかっている負担に対する「警報」を鳴らしているということは覚えておいて頂きたいと思います。過剰な仕事を抱え込まない、趣味の時間を大切にする、しっかりと睡眠をとるといった基本的なことが重要となってきます。


さらに過敏性腸症候群は消化器の病気ということもあり食事面の改善も有効です。まず、強いアルコールや辛いものなどの刺激物は炎症を悪化させる可能性があるので控えた方が良いとされています。脂肪が多い食品や乳製品も人によっては症状を悪化させることがあるので注意が必要です。


食事の回数を多くして食べる量を減らすことも有効です。しかしながら、多忙な生活を送る方が多い今日、なかなか実現は困難だとも感じられます。ですが「朝食を抜いて一日二食、夕飯は大食いの早食い」という状況は見直すべきです。一日三食でゆっくり質量ともにバランスをとることが大切です。


すでに述べた刺激物だけではなく冷たい食べ物や水分を多く含んだ食べ物は脾胃の力を弱めてしまうので控えた方が良いでしょう。具体的にはサラダ、フルーツ、清涼飲料などです。サラダやフルーツは食物繊維を豊富に含んでいるので便通改善に良いのですが、多くの場合は冷えたまま摂ることが多くなってしまいます。


サラダは温野菜へ、フルーツはせめて常温にして食べることが望ましいです。しばしば、胃腸が弱い方はその改善を目的としてヨーグルトを多く摂られていますが、やはり上記と同じ理由で常温またはすこし温める方が良いです。


過敏性腸症候群の改善例


改善例1

患者は30代前半の男性・高校教師。子どもの頃から体力はあまり無い方で、しばしば下痢や軟便を起こしていました。年齢が上がるにつれて便通異常は落ち着いてきましたが、教師としてはたらきだしてから腹痛を伴う下痢と軟便の症状が再発。特に授業中、トイレに行けないと考えると余計にお腹が張り腹痛と便意が強くなってしまうとのこと。


より詳しくお話を伺うと、下腹部はいつも冷えており食欲も落ち気味で全体的に元気がない印象でした。この方にはまず脾胃の状態を立て直す補気薬である人参や黄耆、そして気の流れを改善する柴胡や陳皮を含む漢方薬を調合しました。


服用から2ヵ月が経った頃には腹部の張りと痛みはだいぶ鎮まり、便通も我慢できるようになったとのこと。この頃から気温が下がり始めたので身体を温める生薬である散寒薬の乾姜や山椒を含んだ漢方薬に微調整を行いました。


服用開始から通算で約半年が経過すると、便通は1日2回ほどに落ち着き、腹痛は完全に消えたとのこと。この方は部活顧問にも携わり仕事量が増加したことを受けて、体力増進の意味で補気を中心とした漢方薬を継続して頂いています。


改善例2

患者は20代後半の女性・会社員。半年前の転職をきっかけに緊張時の下痢や腹痛に襲われるようになってしまいました。転職先の条件や人間関係は良好とのことですが、頻繁に社外へ赴き大勢の前で発表を行わなければならず、発表当日の朝は出勤前から3回ほどトイレに行く状態になってしまいました。


勤務への支障が出ることを心配し、病院を受診して過敏性腸症候群と診断されました。受診した病院でいくつかの薬を服用するも大きく改善はされなかったとのこと。心療内科の受診も進められましたが抵抗があり、当薬局へご来局。


過敏性腸症候群についてより細かいご症状を伺うと、下痢と腹痛の他にグルグルという腹鳴や常に便意があるという。「お腹の音が誰かに聞かれていないか心配になり、そうすると余計に便意が強くなる」という。過敏性腸症候群以外の症状としては寝つきの悪さがありました。


この方には気の巡りを改善する柴胡、筋肉の緊張をやわらげる芍薬、水分代謝を改善する白朮や茯苓から構成される漢方薬を調合いたしました。日常生活面ではコーヒーをオフィスにいる間に3杯以上は飲むと伺ったので、ノンカフェインの温かいお茶に切り替えてもらいました。


漢方薬服用から3ヵ月が経つと、服用前と比較して入眠がしやすくなり体力に余裕が出てきたとのこと。プレゼンの前の便通回数も半分程度に減っていました。その一方で便意とガスが腸を移動しているような腹鳴はまだ残っていました。同じ漢方薬で継続していただくか悩みましたが、厚朴や陳皮を含んだ漢方薬に変更しました。


新しい漢方薬にして2ヵ月ほどが経過するとガスによる腹部の張り感や便意も鎮まり、とても気にされていた腹鳴も気にならなくなったとのこと。便通も1日1~2回程度で安定し、睡眠の調子も引き続き悪くないという。この方は毎年、冬になると腹痛や軟便が起こりやすくなるということで、季節に合わせて内容を調節して継続服用して頂いています。


おわりに


近年、過敏性腸症候群を患われている方がとても多くなった印象を受けます。やはりストレス社会と呼ばれる今日の世相を反映しているのかもしれません。過敏性腸症候群による症状自体が新たなストレス源となって、さらに症状が悪化する悪循環に陥っている方も少なくありません。


漢方薬は西洋薬では対応しきれないより根本的な原因に対応することができるものです。当薬局では西洋薬を服用してもなかなか改善が見られなかった方がしばしば来局されます。そして漢方薬を服用し始めてから、症状が好転する方がとても多くいらっしゃることから、過敏性腸症候群と漢方薬は「相性」が良いと実感しています。是非一度、過敏性腸症候群にお悩みの方は当薬局にご来局くださいませ。

【 潰瘍性大腸炎 】と漢方薬による治療

一二三堂薬局と潰瘍性大腸炎


当薬局では長年、さまざまな潰瘍性大腸炎に有効な漢方薬の研究を重ねてまいりました。その主な理由としては潰瘍性大腸炎に対して有効な西洋医学的治療法が確立されていないことが挙げられます。


その一方で下記でご紹介するような漢方薬は潰瘍性大腸炎に対してとても有効であることを経験的にも実績面からも知っているからです。このページでは潰瘍性大腸炎に対する漢方治療について解説させて頂きます。当薬局の情報につきましてはページ上段のアイコン、または下記のリンクをご覧ください。


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潰瘍性大腸炎とは


潰瘍性大腸炎はその名の通り、大腸に慢性的な炎症が起こり、びらんや潰瘍を形成する疾患です。びらんとは大腸表面の粘膜が炎症によって傷つけられている状態であり、潰瘍はさらに深く粘膜よりも下まで凹状に侵されている状態です。したがって、潰瘍はびらんが悪化した病態といえるでしょう。


潰瘍性大腸炎は炎症が起こる部位によって大きく3つに分けられます。炎症が肛門に近い直腸に限定される直腸型、さらに直腸からS状結腸や下行結腸にまで炎症が広がる左側大腸炎型、そして大腸全体に炎症が拡大した全大腸炎型です。病態としてはより後者の方が重いといえます。


潰瘍性大腸炎は近年、大きく増加傾向のある病気のひとつです。日本において患者数は10万人以上といわれており、決して「マイナーな病気」ではありません。欧米ではさらに日本より患者数が多く、発症率は10倍近いというデータもあります。


潰瘍性大腸炎の発症年齢は男女ともに10~30歳代の若年者に多い傾向はありますが、中高年以降でもしばしば発症します。潰瘍性大腸炎の発症に関して目立った男女比は認められていません。


しばしば、同じ炎症性腸疾患ということで潰瘍性大腸炎はクローン病と比較されます。一方でクローン病は大腸だけではなく口から肛門まであらゆる場所に非連続的な炎症ができるという点などで異なります。


潰瘍性大腸炎の原因


潰瘍性大腸炎の明確な発症原因は不明ですが、有力なのが自己免疫疾患説です。自己免疫疾患とは本来ならば攻撃する必要がない身体(潰瘍性大腸炎の場合は大腸)に対して誤って攻撃を行ってしまう抗体ができてしまう病気の総称です。


潰瘍性大腸炎の発症率は日本よりも欧米において高いことが知られています。その点から潰瘍性大腸炎の発症には欧米式の食習慣や環境が関与しているという説が挙げられています。他にも精神的なストレスや腸内細菌叢の乱れによって症状が悪化しやすいといわれています。


潰瘍性大腸炎の症状


潰瘍性大腸炎の主な症状としては頻回の下痢、下腹部の痛み、発熱、体重の減少が挙げられます。潰瘍性大腸炎の下痢には膿や血液、粘液を含むことがあり、多い方では1日に10回以上の便通がある場合もあります。


便意と一緒に痛みをともなう場合も多く、排便後も残便感が生じるケースもしばしばです。このような症状をしぶり腹やテネスムスと呼びます。他の症状としては出血による貧血、慢性的な疲労感、食欲不振、下腹部の張り感、頻脈などが挙げられます。


潰瘍性大腸炎の合併症には大腸の穿孔(「せんこう」と読み、穴が開くことです)による大出血、大腸がん化、結腸の巨大化、胆管炎、関節炎による関節痛、肌の紅斑や壊疽性膿皮症、眼の虹彩における炎症などが挙げられます。このように潰瘍性大腸炎の合併症は消化器のみに限定されず、多岐にわたるケースもあります。


潰瘍性大腸炎の西洋医学的治療法


上記の通り、潰瘍性大腸炎の発症原因は不明であり、西洋医学的治療法も対処療法に限られてしまいます。具体的には薬物療法、血球成分除去療法、そして手術が挙げられます。


薬物療法は炎症を鎮めるサラゾピリンやアザルフィジンEN(ともに一般名:サラゾスルファピリジン)、ペンタサ(一般名:メサラジン)が代表的です。有効成分にペンタサと同じメサラジンを含むアサコールは特に大腸で薬効を発揮しやすいように工夫されており、潰瘍性大腸炎の治療に特化されています。同じくメサラジンを含むリアルダは服用回数が1日1回で済むように設計されています。


上記の他に非常に強い抗炎症作用を持つ副腎皮質ステロイド薬のプレドニン(一般名:プレドニゾロン)も使用されますが、副作用も強いので使用には慎重さが求められます。一般的にはより軽症の場合は坐薬の副腎皮質ステロイド薬、より重症の場合は内服薬が用いられます。


免疫のはたらきを抑えることで改善を目指す免疫抑制薬のイムランやアザニン(ともに一般名:アザチオプリン)、サンディミュンやネオーラル(ともに一般名:シクロスポリン)も用いられます。炎症を起こす物質を中和する抗体を製剤化したレミケード(一般名:インフリキシマブ)やヒュミラ(一般名:アダリムマブ)は副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制薬がうまく効かない場合などに選択されます。


血球成分除去療法とは血中に存在する免疫を担っている白血球(特に顆粒球)を特殊なフィルターやカラムで除去した後、再び身体に戻す治療法です。しばしば副腎皮質ステロイド薬が無効なケースに用いられます。


手術は薬物治療や血球成分除去療法がうまくゆかない場合、穿孔による大出血を起こしている場合に選択されます。つまり、手術は重症の方に選択されるものであり、手術方法は基本的に大腸の全摘出となります。


潰瘍性大腸炎の漢方医学的解釈


漢方医学的に考える、潰瘍性大腸炎特有の症状は単一の原因ではなくいくつかの要因が複雑に絡み合って生み出されているものだと考えられます。そのなかでも下痢を起こす根本的な病的状態が脾胃気虚(ひいききょ)です。


脾胃とは消化器機能全般を指しており、それら機能が弱まっている状態が脾胃気虚といえます。
脾胃気虚の代表的な症状としては食欲がない、食べると腹部が張る、軟便や下痢が何回も続くといったものが挙げられます。このように潰瘍性大腸炎を患っている方の根本には脾胃気虚があると考えられます。


しかしながら、脾胃気虚には激しい炎症や腹痛は見られません。これらの激しい症状は多くの場合、湿熱(しつねつ)が関与していると考えます。湿とは身体内において有効活用されない余分な水分のようなものであり、脾胃気虚などによって生み出されやすい病的物質です。


この湿が何らかの要因(湿の長期間の放置、暴飲暴食、ストレスなど)によって熱を帯びたものが湿熱です。湿熱が引き起こす症状としては激しい下痢(場合によっては血便)や腹痛、腹部の張り感、食欲不振、吐気、口の中の粘り、口の中の苦みや酸み、身体の重だるさと疲労感などが挙げられます。


出血はしばしば熱が暴れることによって起こると考えるので、湿熱における「熱」の性質が強く出ている場合に粘血便の症状が現れると考えられます。したがって、基本的に潰瘍性大腸炎の根本には脾胃気虚があり、さらに脾胃気虚などによって生み出された湿熱が潰瘍性大腸炎特有の症状を起こしていると考えられます。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いた潰瘍性大腸炎の治療


上記で説明したとおり、潰瘍性大腸炎の根本には脾胃気虚があると考えられますが、特有の症状を起こしているのは湿熱でした。したがって、漢方薬を用いた根治療法としては脾胃の気を補い、対処療法としては湿と熱を除去する必要があります。実際に漢方薬を調合する場合にはこれら根治療法と対処療法を上手く組み合わせる必要があります。


基本的には症状が激しく出ている場合はそれらを抑えることに比率を置き、ある程度、症状が鎮まってきた段階で根治療法を開始するというのが「定石」です。まず、根治療法の核になるのは脾胃気虚を解消するために気を補う補気薬(ほきやく)たちです。具体的には人参、黄耆、大棗、白朮、甘草などが挙げられます。


これらは消化器のはたらきを改善するはたらきに優れていますが、下痢症状が目立つ場合は湿の影響が強いと考えて水分代謝を促進する利水薬(りすいやく)である茯苓、猪苓、沢瀉、蒼朮などが追加されます。その他に山薬、蓮肉、薏苡仁、山査子は止瀉作用が優れているので潰瘍性大腸炎にしばしば用いられます。


対処療法としては潰瘍性大腸炎特有の激しい症状を起こしていた熱を鎮める清熱薬(せいねつやく)が用いられます。主に黄連、黄芩、黄柏、山梔子などが中心となります。これら清熱薬は湿を乾燥させるはたらきもあるので湿熱対策には一石二鳥です。


これら以外にも精神的ストレスが強い場合、それらが気の流れを滞らせることで脾胃を弱め、湿を生み出す原因にもなります。適宜、気の流れを円滑にする理気薬(りきやく)である柴胡、枳実、陳皮、半夏、厚朴、香附子などを検討する必要があります。このように潰瘍性大腸炎に対する漢方薬は複数の要素をカバーしながら、症状の現れ方なども考慮に入れて構築してゆくことになります。


潰瘍性大腸炎の改善例


患者は30代前半の男性・司法書士。子どもの頃から身体は丈夫で体力も人一倍あると自信を持っていましたが、社会人生活4年目に突然の腹痛と下痢に襲われるようになりました。最初の頃は仕事で頑張り過ぎてストレスが溜まっているくらいに考えていたということですが、血便やドロッとした粘膜がついた便も出るようになり、急いで病院を受診。


そこで初めて潰瘍性大腸炎と診断されました。最初の頃は「病名から慢性胃炎の腸バージョンくらいに思っていた」とのこと。ペンタサなどを中心に病院で処方された炎症を抑える坐薬を継続使用したおかげで一時的に症状は緩和しました。


しかし、薬の使用をおろそかにして、さらに仕事の増加も重なり発症から3年が経った頃に再び症状が悪化。S状結腸で大規模な炎症が起こっており、服薬を再開するもしばしば出血をともなう軟便、腹痛、発熱、疲労感が続き西洋医学以外の治療も試したい考えて当薬局に来局。


詳しくお話を伺うと、食欲はあるということでしたが顔色が色白から黄色でとても線の細い方だと感じたことをよく覚えています。ご本人曰く、昔はもっとふっくらしていたが、この5~7年間でとても痩せてしまったという。便通は1日6~8回くらいで出血があるとのこと。


この方には病院の薬のしっかりとした服用をお願いしつつ、炎症を抑える生薬である黄連、黄芩、山梔子、さらに血を補う生薬である地黄、当帰、出血を抑える生薬である艾葉、筋肉の緊張を緩和して痛みを和らげる芍薬などから構成される漢方薬を胃腸の負担を考慮して食後に服用して頂きました。


服用から4ヵ月が経過した頃には貧血によるものと考えられた疲労感は軽減。顔色もやや赤みが見て取れました。高熱や腹痛が出て事務所の仕事を休むこともほぼ無くなったとのこと。服薬中、心配していた漢方薬による食欲不振や胃もたれも起こりませんでした。便通はまだ緩さはあるということですが、出血は無し。


良い傾向だと感じ、同じ漢方薬を数ヵ月服用して頂き、半年が過ぎる頃には多少の軟便傾向以外のほとんどの自覚症状はなくなりました。その一方で事務所の繁忙期になると疲労感と比例して腹痛と下痢が起こるということで、人参、黄耆、白朮などの気を補い消化器機能を底上げする漢方薬に変更を行いました。


新しい漢方薬にして3ヵ月程度が過ぎた頃には午前8時~午後9時くらいまで勤務が長引く時も体力と集中力が持続するようなったとおっしゃられていました。潰瘍性大腸炎の症状自体も昔のように体力が付いてからは出なくなっていました。しかし、潰瘍性大腸炎は慢性に推移しやすい病気でもあるので、予防と体力増進の意味も込めて継続服用中して頂いています。


おわりに


潰瘍性大腸炎の原因は自己免疫疾患説が有力ですが、高脂肪食、過剰なアルコールや香辛料、食物繊維の不足、そしてストレスなどが症状を悪化させることも知られています。潰瘍性大腸炎は年間、約8000人ずつ患者数が増えているともいわれており、今日の日本におけるストレス社会の一面を反映しているのかもしれません。


潰瘍性大腸炎の症状は波のように好不調を繰り返しながら慢性的に推移しがちです。長期間にわたり続く腹痛や頻回の便通は大きく生活の質を落とし、それ自体が強いストレスを生み出す悪循環に陥りがちです。


当薬局では生活習慣の改善と漢方薬の服用によって潰瘍性大腸炎の状態が好転する方がとても多くいらっしゃることから、潰瘍性大腸炎と漢方薬とは「相性」が良いと実感しています。是非一度、潰瘍性大腸炎でお悩みの方は当薬局にご来局くださいませ。

【 クローン病 】と漢方薬による治療

一二三堂薬局とクローン病


当薬局では長年、さまざまなクローン病に有効な漢方薬の研究を重ねてまいりました。その主な理由としてはクローン病に対して有効な西洋医学的治療法が確立されていないことが挙げられます。その一方で下記でご紹介するような漢方薬はクローン病に対してとても有効であることを経験的にも実績面からも知っているからです。


このページではクローン病に対する漢方治療について解説させて頂きます。当薬局の情報につきましてはページ上段のアイコン、または下記のリンクをご覧ください。


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クローン病とは


クローン病(Crohn’s Disease)は口腔から肛門まで消化管のあらゆる場所に炎症が起こる炎症性腸疾患です。クローン病という病名のなかの「クローン」とは1932年に米国の医師であるクローンらによって報告されたことに由来します。


クローン病は消化器のなかでも小腸の後半部分、大腸へとつながる部分である回腸に炎症が起こりやすいです。その点から限局性腸炎、肉芽腫性回腸炎、回結腸炎などとも呼ばれますがクローン病という呼び名が一般的です。


クローン病の発症年齢は男女ともに10~20歳代の若年者に多いという特徴があります。男女比も確認されており、その比率は約2:1で男性がかかりやすい病気といえます。


同じ炎症性腸疾患ということでクローン病と潰瘍性大腸炎としばしば比較されます。潰瘍性大腸炎は患部が病名の通り大腸に限定的であり、消化管全体に炎症が起こりえるクローン病と異なります。


クローン病の原因


クローン病の根本的な発症原因は不明です。しかしながら、より男性に発症が多い点から遺伝因子が関係している可能性が高いです。他にも自己免疫疾患説、喫煙、ウイルスや細菌の感染などが発症に関与していると考えられています。


現代日本においてクローン病の発症率は10万人当たりで約20人といわれていますが、顕著な増加傾向にあります。欧米諸国ではさらに日本よりも発症率が高く、約10倍の頻度といわれています。この点からクローン病の発症には欧米式の生活習慣(食習慣や環境)と相関があるといえそうです。


クローン病の症状


クローン病の主な症状は出血をともなうこともある下痢、腹痛、発熱、体重減少が挙げられます。その他にも合併症として腸の狭窄、大腸の穿孔(「せんこう」と読み、穴が開くことです)による大出血、口内炎、胃潰瘍、肛門病変、関節炎、肌の紅斑、眼の虹彩における炎症などが存在します。


上記に挙げた肛門病変には痔ろう(あな痔)や肛門周囲膿瘍、裂肛(切れ痔)などが含まれます。特に痔ろうと肛門周囲膿瘍は慢性的に下痢が続いた場合に起こりやすく、クローン病の合併症としてしばしばみられます(くわしくは 痔ろう(あな痔)(肛門周囲膿瘍を含む)と漢方薬による治療をご参照ください)。


クローン病の西洋医学的治療法


クローン病の根本的な治療法はありません。そのため、消化管で起こっている炎症を抑えることが西洋医学的な治療の中心となります。具体的には栄養療法、薬物療法、血球成分除去療法、そして手術が挙げられます。


栄養療法は炎症のために消化管が栄養素をうまく吸収できない時などに行われます。アミノ酸、ミネラル、ビタミンといった栄養素を含んだエレンタールのような液状の内服薬を口から摂ったり、鼻からチューブを入れて胃に送る経腸栄養療法が挙げられます。消化管を介しての吸収が難しい場合は静脈に直接的に栄養素を送る完全静脈栄養と呼ばれる方法もあります。


薬物療法は炎症を鎮めるサラゾピリンやアザルフィジンEN(ともに一般名:サラゾスルファピリジン)、ペンタサ(一般名:メサラジン)が代表的です。他に非常に強い抗炎症作用を持つ副腎皮質ステロイド薬のプレドニン(一般名:プレドニゾロン)も使用されますが、副作用も強いので使用には慎重さが求められます。一般的にはより軽症の場合は坐薬の副腎皮質ステロイド薬、より重症の場合は内服薬が用いられます。


免疫のはたらきを抑えることで改善を目指す免疫抑制薬のイムランやアザニン(ともに一般名:アザチオプリン)、ロイケリン(一般名:メルカプトプリン)も用いられます。炎症を起こす物質を中和する抗体を製剤化したレミケード(一般名:インフリキシマブ)やヒュミラ(一般名:アダリムマブ)は副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制薬がうまく効かない場合などに選択されます。


血球成分除去療法とは血中に存在する免疫を担っている白血球(特に顆粒球)を特殊なフィルターやカラムで除去した後、再び身体に戻す治療法です。しばしば副腎皮質ステロイド薬が無効なケースに用いられます。


手術は薬物治療や血球成分除去療法がうまくゆかない場合、穿孔による大出血を起こしている場合に選択されます。つまり、手術は重症でその他の治療法では対応が難しいケースに選択されるものとなります。


クローン病の漢方医学的解釈


漢方医学的に考える、クローン病特有の症状は単一の原因ではなくいくつかの要因が複雑に絡み合って生み出されているものだと考えられます。そのなかでも下痢を起こす根本的な病的状態が脾胃気虚(ひいききょ)です。


脾胃とは消化器機能全般を指しており、それら機能が弱まっている状態が脾胃気虚といえます。
脾胃気虚の代表的な症状としては食欲がない、食べると腹部が張る、軟便や下痢が何回も続くといったものが挙げられます。このようにクローン病を患っている方の根本には脾胃気虚があると考えられます。


しかしながら、脾胃気虚には激しい炎症や腹痛は見られません。これらの激しい症状は多くの場合、湿熱(しつねつ)が関与していると考えます。湿とは身体内において有効活用されない余分な水分のようなものであり、脾胃気虚などによって生み出されやすい病的物質です。


この湿が何らかの要因(湿の長期間の放置、暴飲暴食、ストレスなど)によって熱を帯びたものが湿熱です。湿熱が引き起こす症状としては激しい下痢(場合によっては血便)や腹痛、腹部の張り感、肛門周囲の化膿、口内炎、食欲不振、吐気、口の中の粘り、口の中の苦みや酸み、身体の重だるさと疲労感などが挙げられます。


出血はしばしば熱が暴れることによって起こると考えるので、湿熱における「熱」の性質が強く出ている場合に粘血便の症状が現れると考えられます。したがって、基本的にクローン病の根本には脾胃気虚があり、さらに脾胃気虚などによって生み出された湿熱がクローン病特有の症状を起こしていると考えられます。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いたクローン病の治療


上記で説明したとおり、クローン病の根本には脾胃気虚があると考えられますが、特有の症状を起こしているのは湿熱でした。したがって、漢方薬を用いた根治療法としては脾胃の気を補い、対処療法としては湿と熱を除去する必要があります。実際に漢方薬を調合する場合にはこれら根治療法と対処療法を上手く組み合わせる必要があります。


基本的には症状が激しく出ている場合はそれらを抑えることに比率を置き、ある程度、症状が鎮まってきた段階で根治療法を開始するというのが「定石」です。まず、根治療法の核になるのは脾胃気虚を解消するために気を補う補気薬(ほきやく)たちです。具体的には人参、黄耆、大棗、白朮、甘草などが挙げられます。


これらは消化器のはたらきを改善するはたらきに優れていますが、下痢症状が目立つ場合は湿の影響が強いと考えて水分代謝を促進する利水薬(りすいやく)である茯苓、猪苓、沢瀉、蒼朮などが追加されます。その他に山薬、蓮肉、薏苡仁、山査子は止瀉作用が優れているのでクローン病にしばしば用いられます。


対処療法としてはクローン病特有の激しい症状を起こしていた熱を鎮める清熱薬(せいねつやく)が用いられます。主に黄連、黄芩、黄柏、山梔子などが中心となります。これら清熱薬は湿を乾燥させるはたらきもあるので湿熱対策には一石二鳥です。


これら以外にも精神的ストレスが強い場合、それらが気の流れを滞らせることで脾胃を弱め、湿を生み出す原因にもなります。適宜、気の流れを円滑にする理気薬(りきやく)である柴胡、枳実、陳皮、半夏、厚朴、香附子などを検討する必要があります。


他にも痔ろう(あな痔)や肛門周囲膿瘍が顕著な場合はこちらの治療を優先させることもしばしばです。このようにクローン病に対する漢方薬は複数の要素をカバーしながら、症状の現れ方なども考慮に入れて構築してゆくことになります。


クローン病の改善例


患者は20代後半の男性・税務署勤務の公務員。20代前半のときから口内炎が多くできるようになりました。「一人暮らしを始めた時期と重なっていたので、最初の頃は食生活の乱れやビタミン不足かと考えてサプリメントを服用していました」がなかなか症状は鎮まりませんでした。


それから毎朝1日1回、順調だった便通が徐々に多くなり出血を伴う下痢も起こり始めました。右下腹部に刺し込むような痛みも起こるようになり、とうとう仕事にも支障が出るようになってしまいました。忙しさなどから病院には行っていませんでしたが「血便があまりにもショックで急いで消化器内科に行きました」とのこと。


受診した病院でクローン病と診断。ペンタサやプレドニンを中心に炎症を抑える薬が処方され、仕事も含めた日常生活はギリギリこなせるまで回復しました。その一方で消化器の不調と同じくらい倦怠感が強く、その改善を望まれて当薬局へご来局されました。


ご症状についてお話を伺うと、少しは軽減したものの下腹部の痛み、下痢、消化管からの出血が原因と考えられる貧血、そして疲れやすさなどに悩まされているとのこと。鉄剤を服用して貧血の数値自体は改善したとのことですが、顔色はすぐれませんでした。


クローン病のご症状は過労によって悪化しやすいので、繁忙期の年度末になると仕事を休んでしまうこともあるという。繁忙期での欠勤は同僚に大きな迷惑をかけてしまうので何とかしたいとおっしゃられていました。


この方のご症状は貧血によると思われる疲労感が顕著なため、まずそれに対応する方針を立てました。漢方薬の内容としては炎症を抑える生薬である黄連、黄芩、黄柏、山梔子、血を補う地黄、当帰、芍薬などから構成される漢方薬を服用して頂きました。血を補う漢方薬は胃に負担をかけることもあるので、食欲はあるとのことでしたが慎重に食後服用をお願いしました。


漢方薬を服用しはじめて4ヵ月くらいが経過した頃には右側の下腹部痛も緩和され、トイレに立つ回数も減少。顔色もご来局当時と比較すると徐々に良くなってこられました。しかしながら、「仕事が繁忙期を迎えて、その上さらに相続税絡みの仕事も増えてしまい大変……。ストレスも多く食欲が落ちてきている」ということで漢方薬に変更を行いました。


具体的には精神的なストレスを緩和し、さらに炎症を抑えるはたらきもある柴胡、気を補う白朮や甘草、血を補う当帰や芍薬などを中心とする漢方薬へチェンジ。体力の消耗を抑えるため可能な限り、睡眠不足にはならないようにお願いしました。


新しい漢方薬に切り替えてから2ヵ月が経った頃には「空腹感は無いけれど作業のようにとりあえず食事をしていた」という状態からは脱し、食欲は普段通りに戻りました。消化器に負担をかけない和食中心の食事を心がけたことも手伝って、腹痛や下痢だけではなく疲労感も気に病むレベルではなくなりました。


その後、繁忙期も含めて連続して欠勤することも無くなり、心配していた貧血症状はまれに立ちくらみはあるものの特に問題はないという。これは脾(消化器)の状態が安定したことで食べ物から生まれた気や血が充実し、気虚や血虚から改善したからと推察されます。この方は現在、体力強化の意味も含めて漢方薬の服用を継続されています。


おわりに


クローン病の主症状である頻回の下痢や腹痛は仕事や学生生活に大きな支障となってしまいます。下痢が長く続いてしまうと痔ろうや肛門周囲膿瘍のリスクも高まります。近年、免疫の過剰反応を抑える西洋薬が充実してきたことでクローン病治療の幅は大きく広がりました。その一方でそれらを使用しても改善が見られない方も少なくありません。


クローン病の原因はまだはっきりとしませんがストレスの多い生活、高脂肪食、過剰なアルコールや香辛料、食物繊維の不足などが症状を悪化させることも知られています。当薬局へはこれら生活習慣の改善と漢方薬の服用によって状況が好転する方がとても多くいらっしゃることから、クローン病と漢方薬とは「相性」が良いと実感しています。是非一度、クローン病でお悩みの方は当薬局にご来局くださいませ。

【 膀胱炎(間質性膀胱炎を含む) 】の漢方薬による治療

膀胱炎とは


膀胱炎とは主に細菌感染によって膀胱の粘膜に炎症が起こる病気です。原因菌はいくつか種類がありますが、そのなかで最も多いのが大腸菌によるものです。大腸菌は主に便や肛門に存在し、そこから尿道を経て膀胱へ感染します。


膀胱炎はしばしば女性に多い病気とされます。その理由として女性の身体は構造的に尿道口、膣、肛門が近くに存在するため、大腸菌などの原因菌が肛門から尿道口へ移りやすいためと考えられます。さらに女性の尿道は男性と比べて短いので、尿道口から膀胱へ細菌が広がりやすいことも女性に膀胱炎が多い理由です。


一方の男性は女性よりも尿道が長いので原因菌が膀胱に到着する前に尿で洗い流されやすいです。つまり、男性はより膀胱炎になりにくい身体構造といえます。一方で尿道が長いので細菌が膀胱に至る前に尿道で尿道炎を起こし、そこから前立腺炎になってしまうケースが多いです。


間質性膀胱炎とは


上記において膀胱炎は主に細菌感染によって起こると説明しましたが、細菌が検出されない間質性膀胱炎というタイプの膀胱炎が存在します。間質性膀胱炎はしばしば無菌性膀胱炎とも呼ばれ、中年以降の女性により多いことが知られています。何らかのアレルギー反応や膀胱粘膜の異常が関与していると考えられていますが詳しい原因が不明なため、西洋医学的に治療が困難な膀胱炎といわれています。


間質性膀胱炎の症状は下記で示す一般的な膀胱炎とほぼ共通しています。しかし、間質性膀胱炎は治療が困難なために頻尿や排尿痛が慢性化しやすく、QOL(生活の質)を大きく低下させてしまう病気といえます。


膀胱炎の症状


膀胱炎で最も多い症状は排尿時に起こる下腹部の痛みやヒリヒリとした不快感です。それ以外にも尿量の少ない頻尿、残尿感、炎症が激しい場合は血尿が出ることもあります。間質性膀胱炎の場合、尿の回数や排尿への切迫感が細菌性の膀胱炎よりも多い傾向があります。さらに間質性膀胱炎が慢性化すると膀胱が萎縮、つまり小さくなってしまうことが知られています。


膀胱炎の西洋医学的治療法


西洋医学的な膀胱炎治療は抗生物質による原因菌の除菌が基本となります。一般的な膀胱炎の場合は除菌でほぼ改善しますが、間質性膀胱炎には無効です。間質性膀胱炎に対しては主に抗炎症薬、抗けいれん薬、筋弛緩薬、抗うつ薬などが使用されます。萎縮してしまった膀胱に対しては外科的に膀胱へ生理食塩水を注入する膀胱水圧拡張術も検討されます。しかしながら、間質性膀胱炎に対して明確な治療法は確立していないというのが現状です。


膀胱炎の漢方医学的解釈


漢方医学的に膀胱炎の原因は主に湿熱(しつねつ)によるものと捉える場合が多いといえます。湿熱とは身体において流動性を失ってしまった余分な水分である水湿(すいしつ)が、さらに熱を帯びた病的物質といえます。


湿熱の「原料」ともいえる水湿は主に、暴飲暴食や精神的ストレスなどによって消化器のはたらきが悪くなると生まれやすくなります。さらに水湿が長時間放置されたり、アルコールや脂肪分の多い食事を摂り続けると、徐々に水湿が熱を帯びて湿熱となります。


湿熱はその性質上、身体のより下部に溜まる傾向があります。したがって、湿熱が生じると身体下部へ移行し、脚を除けば最も下部に当たる膀胱に溜まりやすいです。膀胱に到った湿熱は膀胱が持つ本来の正常なはたらき(尿を作る、尿をためる、尿を出す)を妨害してしまいます。結果として膀胱炎特有の頻尿や残尿感、ひどくなると激しい痛みや出血も現れます。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いた膀胱炎の治療


膀胱炎の原因が湿熱だった場合、水湿を除く利水と熱を鎮める清熱を同時に行う漢方薬が治療の中心となります。水湿を除く生薬としては白朮、蒼朮、沢瀉、猪苓、茯苓、車前子、木通などの利水薬(りすいやく)が挙げられます。熱を鎮める清熱薬(せいねつやく)は黄連、黄芩、黄柏、山梔子、石膏などが代表的です。


上記のような利水薬と清熱薬をバランスよく含んだ漢方薬が間質性膀胱炎も含めた膀胱炎の治療にもちいられます。特に沢瀉、車前子、木通は利水作用と清熱作用があるので膀胱炎治療に適した生薬といえます。


湿熱以外に膀胱炎は、過労や加齢によって五臓における腎(じん)のはたらきが低下し、それに引っ張られて腎と関連深い膀胱の機能も低下してしまうことで発症することもあります。そのような場合は腎の力を底上げする鹿茸、地黄、山茱萸、山薬、枸杞子などの補腎薬を含んだ漢方薬の使用も検討されます。


生活面での注意点と改善案


細菌感染による膀胱炎を防ぐ手段として陰部を清潔に保つことは基本中の基本になります。毎日の入浴にくわえて女性の場合、生理時にはナプキンをこまめに交換するよう心がけましょう。


意外な感染経路としては性交が挙げられます。性交時は手などに付着していた雑菌から感染が起こりやすいので、必ずその後に入浴しましょう。新婚性膀胱炎や蜜月(ハネムーン)膀胱炎という言葉があるほどですので油断はできません。入浴が難しい場合は排尿により雑菌を押し流すことも有効とされています。


入浴は清潔な状態を保つだけではなく、冷えによる膀胱付近の血流悪化を防いでもくれます。膀胱への血流が悪くなると免疫力が低下し、細菌が繁殖しやすい環境となってしまいます。衛生面と免疫面の両面から入浴は優秀な膀胱炎対策といえます。


しっかりとした睡眠時間と休息日を設けることも大切です。充分な休みをとることも細菌に対する免疫を維持するために大切です。他には排尿を我慢し過ぎるとその間に膀胱内で細菌が繁殖しやすいので控えましょう。


間質性膀胱炎の場合はアルコール、香辛料などの刺激物、カフェインを含んだコーヒーやお茶類、柑橘類やそれを原料としたジュース、チーズ類、豆類、煙草などによって症状が悪化しやすいといわれています。個人差は大きいとされていますが、これらを多く取り過ぎないように気を付けましょう。間質性膀胱炎に限らず、細菌性の膀胱炎を患っている間も炎症を助長させないために刺激物とアルコールは控えましょう。


膀胱炎の改善例


改善例1

患者は40代前半の女性・高校教師。昔から冷え性(冷え症)体質でトイレが近かったが、40代になってからは授業が終わるたびにトイレに行くようになってしまいました。ひどいときには1日に10~15回も小水が出るようになってしまい、排尿後もスッキリとした感覚がありませんでした。


その後、排尿後には決まってピリピリとした痛みが残り、下腹部にはいつも違和感を抱えている状態になってしまいました。さらに冬になるとこの傾向は一層顕著に。当薬局へは病院の治療でも症状が改善しなかったので、それなら漢方薬を試してみようと思い立ちご来局。


詳しくお話を伺うと病院で抗生物質を処方され、服用後は症状が改善するもすぐに再発を繰り返す状態でした。膀胱炎以外に冷え性はとても深刻で毎年、冬には手と足にしもやけができてしまうほど。授業中はストーブの近くからあまり動かず授業を進めているという。


この方には出来る限り下腹部を冷やさないように腹巻きとカイロの使用をまずお願いしました。舌の状態や足にむくみがあることなどから水湿の存在を疑い、湿を取り除く沢瀉や茯苓に熱を鎮める山梔子や滑石を含む漢方薬を服用して頂きました。


漢方薬を服用し始めて2ヵ月が経過した頃には1回の尿量が増えてトイレに行く回数や痛みの強さがだいぶ減ってきました。この頃から本格的な冬が始まり、より一層の防寒対策をお願いしつつ同様の漢方薬を継続。


それから5ヵ月が経った頃には頻尿や排尿痛などの症状はほぼ消えていました。その後は完璧に膀胱炎の症状がなくなるまで同じ漢方薬を維持しましたが、完治後は膀胱炎の発症予防を兼ねて身体を温めて血行を改善する漢方薬に変更。冷え性(冷え症)も改善に向かい、その後に繰り返す膀胱炎を再発することなく継続服用されています。


改善例2

患者は30代後半の女性・自営業。20代後半から生鮮食品の市場で品質管理の仕事に携わっていました。仕事柄、大きな冷凍庫や冷蔵庫に向かって作業をしていることが多く、身体は冷やしがちに。その頃から秋から冬にかけて頻尿が目立ち始め、しばしば膀胱炎にかかるようになってしまいました。


30代になると徐々に膀胱炎が治りにくくなっていると感じていましたが、その都度、病院の抗生物質などで治療を行っていました。しかし、ひどいと1日に15~20回くらいトイレに行くように。衛生に携わる仕事でもあるので頻繁にトイレに行くことも難しく、心配にもなり大病院で検査を受けて間質性膀胱炎と診断されました。一方でなかなか治療の効果が出ず、当薬局へご来局。


ご症状などを伺うと、間質性膀胱炎による頻尿やすぐ膀胱に尿が溜まるような不快感はありましたが、特に痛みはなし。頻尿以外の症状としては下半身の冷え、腰の痛みと重だるさ、そして疲労感が顕著でした。この方は五臓における腎の力が弱まっていると考え、腎のはたらきを底上げする地黄や山茱萸から構成される漢方薬を調合しました。


漢方薬を服用して3ヵ月が経過すると冷えや腰痛が緩和され、仕事中に立ったり荷物を持ち上げたりするのが楽なったとのこと。足先が水に浸かっているような冷えによる不快感も緩和されてきました。一方の頻尿には大きな変化はなし。漢方薬の変更を考えましたが、ご本人も季節の割には(当時は年始で雪がちらつくこともある寒い時期でした)体調が上向いているとの言葉もあり継続へ。


漢方薬服用から半年が経ち、春を感じられる頃になると徐々にトイレの回数も1日10回程度まで減り、一番悩まれていた仕事への影響も減ってきました。切迫した尿意もトイレの頻度と比例して落ち着き、常に意識が下腹部に向いているようなことはなくなりました。


初めての漢方薬を服用してから1年が経った秋には泌尿器系の症状とそれ以外の冷えや疲れやすさも、日常生活と仕事に支障がないレベルに。その後にこの方はご妊娠され、その間は漢方薬と中断。出産後に漢方薬の服用を再開されましたが、引き続き安定した状態を維持されています。


おわりに


膀胱炎の原因の多くは細菌感染によるものですが、その背景には冷え性(冷え症)を放置してしまったり、トイレを我慢し過ぎてしまうなどの問題もあります。換言すれば生活習慣などを見直せば大きく改善が見込める病気ともいえます。一方で生活面を見直してもたびたび膀胱炎を繰り返すようならば積極的に漢方薬を服用することをお勧めします。


漢方薬は西洋薬では対応しきれないより根本的な原因に対応することができるものです。当薬局では西洋薬を服用してもなかなか改善が見られなかった方がしばしばご来局されます。そして漢方薬を服用し始めてから、頻尿や下腹部の不快感などの症状が好転する方がとても多くいらっしゃることから、膀胱炎と漢方薬は「相性」が良いと実感しています。是非一度、慢性的に膀胱炎にお悩みの方は当薬局にご来局くださいませ。

【 顎関節症 】と漢方薬による治療

顎関節症とは


顎関節症(がくかんせつしょう)とは顎(あご)の関節や顎を動かす筋肉である咀嚼筋(そしゃくきん)のトラブルによって起こる病気です。主な症状は顎の痛み、口が大きく開けられない、口を開閉するたびにカックンと音がするといったものが挙げられます。顎関節症で最も訴えの多い痛みの症状は顎だけではなく、こめかみなど頭部のさまざまな部位でも起こります。


顎関節症の特徴として女性の方が患いやすく、その中でも若年から中年にかけてが多いことがわかっています。顎関節症を引き起こす原因は単一的なものではありません。しかし、睡眠中の歯ぎしりや食いしばりによって顎に過度な負担がかかっていることが主要因と考えられています。


顎関節症の原因


顎関節症の発症はいくつもの要因が絡んだ結果として起こると考えられています。具体的には強い力を伴った歯ぎしりや食いしばり、左右のどちらかに偏った咀嚼の癖、歯のかみ合わせ不良、精神的ストレスによる全身の力みなどが挙げられます。


このように顎関節症を引き起こす原因は無意識のうちに顎の関節部分に過度な負担をかけてしまっているという共通点があります。さらに睡眠や食事といった生活習慣に関係が深いという点も特徴的です。


顎関節症の症状


顎関節症の症状は大きく3つに分けられます。顎の周辺を中心とした顎関節痛、大きく口が開けられないといった開口障害、そして開閉のたびに音が鳴る関節雑音が顎関節症の主要な症状です。 これら以外にも顎のだるさ、熱感、頭痛、首肩の凝り、眠りの浅さによる疲労の蓄積などもしばしば伴います。


上記のような症状の結果として長時間の会話ができない、集中力の低下、イライラ感、食欲不振なども起こりえます。このように顎関節症は「顎のトラブル」ではなく、心身全体に影響を及ぼしかねない病気といえます。


顎関節症の西洋医学的治療法


基本的に西洋医学的な顎関節症の治療は非外科的なものが中心であり、痛みに対しては内服の鎮痛薬を用いて対応することが一般的です。くわえて歯の摩耗の跡などによって歯ぎしりや食いしばりが確認できる場合は睡眠時のマウスピース装着も行われます。これらの効果が上がらなかった場合、歯や骨を削る外科的治療が選択肢となります。


顎関節症の漢方医学的解釈


漢方医学において「痛み」という症状は気血の流れが滞った結果として起こると考えます。顎関節症の中心症状であるつらい関節痛は漢方医学的に考えると痺証(ひしょう)とみることができます。痺証とは何らかの病邪によって気血の流れが阻まれ、その結果として痛みが起こるというものです。主な病邪としては風邪(ふうじゃ)、寒邪(かんじゃ)、熱邪(ねつじゃ)、湿邪(しつじゃ)が挙げられます。


痺証以外にも精神的なストレスによっても気の流れは悪くなりますし、気の力で身体を巡っている血も、気の状態が悪くなると引きずられるように滞ってしまいます。このように顎関節症は病名からすぐに原因などが導かれるものではなく、個々人によって大きく病態も異なります。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いた顎関節症の治療


顎関節症の痛みが痺証による場合、痛みの現れ方や悪化する要因からどのようなタイプの病邪の影響が大きいかを理解することがとても大切です。具体的には冷えや高い湿度によって顎関節痛が悪化する場合は風寒湿痺、患部に熱感があり腫れが顕著なケースでは熱痺の可能性が高いです。


風寒湿痺の絡んだ顎関節痛には温性の麻黄、桂皮、防風、独活、蒼朮などの祛風湿薬を多く含んだ漢方薬が用いられます。熱痺の痛みに対しては寒性の薏苡仁や防已などの祛風湿薬に石膏や知母といった熱を冷ます力が優れている生薬(清熱薬)が組み合わされた漢方薬が適しています。


一方で顎関節痛がストレスで悪化する場合などは五臓六腑における肝のはたらきが乱れ、筋肉が過緊張状態に陥っている可能性もあります。このようなケースでは気の巡りをスムースにする柴胡、厚朴、半夏、薄荷、枳実、香附子などの理気薬を含んだ漢方薬が選択されます。


上記以外にも血の滞りによる瘀血(おけつ)も痛みを起こす原因となりますので充分に考慮するべきでしょう。このように顎関節症という病名だけではなく、治療にはどのような原因で顎に痛みや不快感が生じているのかを考える必要があります。


生活面での注意点と改善案


顎関節症は生活習慣の影響を受けやすい病気でもあります。歯が食いしばりなどによって削れている痕跡があるようなら睡眠時にマウスピースの着用も検討するべきでしょう。食いしばりが長く続くと顎関節症だけではなく、歯に亀裂が入り知覚過敏の原因にもなります。


食事中も知らず知らずのうちに左右のどちらかで噛む癖があると、顎のバランスが崩れて負荷がかかりやすくなります。こちらも右側で10回噛んで、左側でも10回噛むというように意識して均等にするべきでしょう。くわえて顎関節痛が強い時はあまり固いものを食べるのは避けるべきです。


そして日頃から「自分は無意識に力みやすい」という体質(癖)を自覚して、意識的に筋肉の力を抜く時間を設けることも大切です。肩や首の凝りが目立つ、気が付くと肩がいつも高い位置にあるような方は要注意です。


顎関節症の改善例


患者は30代前半の女性・薬剤師。数年前からハンバーガーなどを食べるために大きく口をあけるとカコンッと音がしたり、軽い痛みがあった。当時はご症状も頻繁ではなかったのであまり気にしてはいなかったとのことですが、残業やデスクワークが増えると食事中以外の時も顎やこめかみの部分に強い痛みが起こり始めた。


仕事への支障も出てきたので歯科医院へ行くと奥歯の摩耗から日常的な食いしばりの癖を指摘されマウスピースも作成。しかしながら、なかなかご症状は良くならず鎮痛薬の服用回数ばかりが増えることに心配となり当薬局へご来局。


お話を伺うと顎関節症による痛みと顎のだるさがいつも気になってしまうとのこと。それ以外のご症状としては首や肩の凝りと痛みも目立ち、気が付くと数分おきに首肩を自分でマッサージしているという。冷え性(冷え症)もつらく、冬場の外出はいつも着込んで「重装備」で対応している。


この方の顎関節痛には寒邪が関係していると考えて桂皮、麻黄、附子などの身体を温める生薬を中心とした漢方薬を服用してもらいました。服用から3ヵ月が経つと声が出てしまうほどの鋭い痛みのご症状はだいぶ緩和されたとのこと。一方でまだ違和感と首肩の凝りは続いていました。そこで時期的にも暖かくなってきたこともあり、柴胡や薄荷を含んだ心身の緊張を取り除く漢方薬に軌道修正しました。


新しい漢方薬を服用して2ヵ月ほどで効果は現れ、肩の力がうまく抜けるようになったとのこと。朝起きた時に目立っていた顎やこめかみの不快感も緩和されていました。この漢方薬を服用していると生理前の気分の沈みや生理痛も緩和されるということで、この方には継続して服用して頂いています。


おわりに


顎関節症を中心とした顎に関わるトラブルは軽度の方も含めると相当数に上るといわれています。その中でも慢性化したつらい痛みを伴う顎関節症は食事の際を筆頭に生活の質を大きく下げてしまいます。痛みだけではなく、会話中にも痛みや凝り感がある場合はなおさらです。


顎関節症は単独ではなく肩こり、頭痛、心身の緊張など複数の症状をしばしば伴います。漢方薬を用いた顎関節症の治療はこれらも含めた全身症状の改善を目指すものです。顎関節症にお困りの方は是非一度、当薬局へご来局ください。

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