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【 ニキビ(吹き出物) 】と漢方薬による治療

ニキビ(吹き出物)とは


ニキビとは毛穴で起こった炎症によってできる凸状の丘疹を指します。しばしばニキビは吹き出物とも呼ばれますが、専門的には尋常性痤瘡(じんじょうせいざそう)という同一の病気です。ニキビは性別や年齢を問わず幅広く起こる肌トラブルですが、特に思春期に多くみられる傾向があります。発症する場所としては主に額、両頬、顎の下などの顔面部が多く、他にも背中や胸部にも起こります。


ニキビ(吹き出物)の原因


ニキビができる原因は毛穴における皮脂の過剰分泌とそれによるアクネ菌の増殖です。思春期にニキビができやすい理由は、この時期に盛んに分泌される男性ホルモン(女性でも男性ほどではありませんが分泌されています)の影響で、毛穴の近くにある皮脂腺細胞から盛んに皮脂が分泌されているからです。


皮脂が多く分泌されると額の周辺などに複数の膨らみが生まれ、肌が皮脂でテカテカとしているのがわかるようになります。毛穴に皮脂がたまるとそれを好むアクネ菌が繁殖して炎症を起こし、毛穴が赤く凸状に盛り上がったニキビができてしまいます。


ニキビ(吹き出物)の症状


ニキビは炎症が強くなると患部に痛みやかゆみを生じやすくなります。そうなるとつい気になって触れたり、強引に皮脂を出そうとすると手についている雑菌が移り症状が悪化しやすいです。ニキビが長期化するとアクネ菌が生み出す酵素によって皮膚が深く傷つき色素が沈着した目立つニキビ痕(ニキビ跡)ができてしまいます。

ニキビには「肌の病気」という面以外に、ニキビを起点とした二次的症状も問題となります。具体的にはニキビができることでお化粧の幅が制限されたり、気持ちが後ろ向きになってしまう、ニキビが気になって集中力が低下してしまうといったケースです。


ニキビ(吹き出物)の西洋医学的治療法


西洋医学的なニキビの治療はアクネ菌を除くための抗生物質、毛穴の皮脂のつまりを防ぐレチノイド製剤、皮脂の分泌を抑える硫黄製剤などがもちいられます。その他にも男性ホルモンが優位な状態を抑える低用量ピルも使用されることがあります。


ニキビ(吹き出物)の漢方医学的解釈


漢方の視点からニキビを考えると、その原因は大きく分けて3つ挙げられます。まずひとつは辛いものや脂っこいもの、アルコールなどを多く摂る生活を送ったことで身体内に過剰な熱がこもってしまうケースです。生活の不摂生などで蓄積された熱は肌に炎症を起こし、赤みやかゆみの強いニキビになります。


もうひとつはクーラーの使い過ぎなどで身体を冷やしたり、もともと冷え性の方に外邪の一種である風寒邪が取り付いてきたケースです。風寒邪が肌を侵すと気血の流れが妨害され、炎症はあまりみられない白いニキビができやすくなります。


最後に血の滞りである瘀血(おけつ)によってもニキビ、特に赤黒いニキビができやすくなります。瘀血があると赤黒いニキビの他に顔色は暗色化し、肌にはアザができやすくなります。女性の場合は生理痛が強かったり、生理不順が目立つようになります。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬(吹き出物)を用いたニキビの治療


赤みが強くかゆみも強いニキビには過剰な熱を鎮める清熱薬を含んだ漢方薬がもちいられます。清熱薬には黄連、黄芩、黄柏、山梔子、石膏などが代表的です。赤いニキビにくわえて便秘もあるようなら便通促進作用と熱を抑える力に優れた大黄を含んだ漢方薬も検討されます。


白く化膿が目立つニキビには風寒邪を発散させる辛温解表薬を配合した漢方薬が使用されます。繁用される辛温解表薬には麻黄、桂枝、生姜、荊芥、防風、細辛などが挙げられます。しばしばここに排膿作用を持った桔梗もあわせてもちいられます。


瘀血による赤黒いニキビに対しては血の巡りを改善する活血薬を中心とした漢方薬がもちいられます。具体的な活血薬には桃仁、川芎、牡丹皮、紅花、延胡索などが挙げられます。すでに挙げた大黄は熱を鎮める力にくわえて、血を巡らす作用もあるので瘀血によるニキビにもしばしば使用されます。


代表的なニキビのパターンを3つ挙げて解説してきましたが、実際の漢方薬をもちいたニキビの治療はここまで単純なものではありません。多くの場合はニキビの状態とそれ以外の症状なども考慮して、異なる性格の生薬をバランスよく含んだものが使用されます。


生活面での注意点と改善案


ニキビは生活習慣と関係が深い肌トラブルといえます。特に食生活において辛いもの、脂っこいもの、砂糖が多く含まれているもの、さらにアルコール度数の強いお酒も炎症を助長させやすいので控えましょう。睡眠不足やストレスの蓄積もホルモンの分泌異常を引き起こしやすくなるので注意が必要です。


生活習慣以外の注意点としては、できるだけニキビに触れないようにすることが大切です。まず手で無理やり皮脂を押し出したりすると、手についている雑菌によって患部の炎症が悪化してしまいます。念のためにニキビがあるときはいつも以上に手洗いを心がけてください。手以外にも髪がニキビにあたるのも刺激を避ける意味で避けましょう。


最後に洗顔ですが、基本的には1日1回、あまりゴシゴシと洗うのではなく洗顔フォームを軽く泡立てて優しく洗いましょう。1日に何回も洗うのは過剰な刺激なる可能性もあるのでお勧めできません。


ニキビ(吹き出物)の改善例


患者は20代後半の女性・会社員。慢性的なニキビが大学生の頃から続いている。皮膚科も受診して抗生物質やビタミンCを服用してもなかなか改善がみられなかったとのこと。テレビCMで有名な洗顔フォームなどを試すも赤みの強いニキビは減らなかった。社会人になるとニキビ以外にも生理前のイライラ感も目立ち始めたことをきっかけに当薬局にご来局。


ご来局当時のニキビの状態は両頬から顎の下にかけて赤い炎症の目立つニキビと白く化膿したニキビが混在していました。そこでまずは熱を鎮める力に優れている黄芩や膿を出す作用がある桔梗などを含んだ漢方薬を服用して頂きました。


服用開始から3ヵ月が経過すると、目に見えて活発だった炎症は鎮まっていました。同じ漢方薬の継続を考えましたが、生理前の情緒不安定が現れると一緒にニキビも増える傾向がありました。そこで柴胡や薄荷といった気の巡りを改善する漢方薬へ変更を行いました。


変更から2ヵ月が経つと月経前症候群(PMS)による不快感とニキビは大幅に改善されました。変更後の漢方薬を服用していると仕事が忙しい時もあまりカリカリしなくなったということで、この方には同じ漢方薬を継続して頂いてきます。


おわりに


ニキビはアトピー性皮膚炎や乾癬などの他の肌の病気と比較して軽く扱われがちですが、慢性化すると大きなニキビ痕(ニキビ跡)が残ることもありますので軽視はできません。女性の場合はお化粧に制限ができてしまうなど美容上の問題も生じやすいです。


漢方薬をもちいたニキビの治療は肌のみをみるのではなく、心身全体のバランスの崩れなどを考えて治療がおこなわれます。したがって、漢方薬を服用するとニキビとは一見すると関係のなさそうな症状(たとえば生理不順や生理痛など)もあわせて改善することもできます。ニキビでお悩みの方は是非一度、当薬局へご来局ください。

【 むくみ(浮腫) 】と漢方薬による治療

むくみ(浮腫)とは


身体の組織は心臓から送り出された動脈血から栄養素や水分を得ています。同時に組織から排出された不要な成分や水分は静脈やリンパ管に送られて回収されます。むくみとは静脈やリンパ管に回収されるべき水分が、皮下にそのまま停滞してしまう症状を指します。専門的には浮腫と呼ばれます。


静脈を流れる静脈血やリンパ管を流れるリンパ液は筋肉の収縮によって押し出され、身体内を循環しています。女性は男性と比較して筋肉量が少ないので、むくみはより女性に起こりやすい症状といえます。


むくみ(浮腫)の原因


一般的なむくみは不要になった水分が静脈やリンパ管へうまく回収されなかったことで起こります。特定の病気が絡んでいない場合、むくみは運動不足、同じ姿勢で長時間を過ごす、アルコールや水分の摂り過ぎ、塩分や糖分の過剰摂取、冷え、寝不足などによって起こりやすくなります。女性の場合、生理の前に多く分泌される女性ホルモンのプロゲステロンの影響で、この時期はむくみが起こりやすくなります。


むくみを起こす病気としては心臓、腎臓、肝臓の機能低下、静脈血の停滞(静脈瘤)、橋本病に代表される甲状腺機能低下症などが挙げられます。もし長期間、1日のサイクルに関係なくむくみが起こっているようなら一度、医療機関を受診されることをお勧めします。


むくみ(浮腫)の症状


むくみは慢性化すると身体の重だるさ、むくんでいる部分の動かしにくさや冷えなどをともなうことがあります。そこまで顕著なものではなくても、同じ靴が夕方になるときつく感じられたり、靴下の跡がなかなか消えないような方はむくみがあると考えられます。


むくみが現れやすい場所として、起床時は顔やまぶた、日中は下半身に起こりやすい傾向があります。これは睡眠中は横になっているので全身にまんべんなく水分が分布するのに対して、起床後は立っていたり座っていることが多いので重力によって水分が下半身へ移動するからです。


むくみ(浮腫)の西洋医学的治療法


むくみを起こしている特定の病気があればその治療がまず優先されます。それにくわえて余分な水分を尿として排出させる利尿薬が主にもちいられます。他には一般用医薬品(病院ではなく薬局で直接購入する薬)の赤ブドウ葉乾燥エキス混合物を含んだ薬は静脈血の流れを改善してむくみを除きます。


むくみ(浮腫)の漢方医学的解釈


漢方の視点に立って考えるとむくみには水湿が強く関係しています。水湿とは流れが滞って有効利用されない津液のことを指します。津液は気の力によって全身を循環しています。その気が不足したり、滞ってうまくはたらかなくなると津液も停滞してしまいます。


気の不足や停滞の他にも血の滞りである瘀血(おけつ)の存在や脾(消化器)の調子を崩しても水湿は発生してしまうので、その方の症状と体質からどのような原因で水湿が生まれたのかを考える必要があります。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いたむくみ(浮腫)の治療


漢方薬をもちいたむくみの治療は水湿を取り除く漢方薬が中心となります。水湿を除去するには白朮、茯苓、猪苓、沢瀉、蒼朮などの利水薬を多く含んだ漢方薬が使用されます。疲労感や食欲不振といった気の不足や脾の不調による症状が目立つ場合は人参、黄耆、大棗、甘草などの補気薬を配合した漢方薬も検討されます。


瘀血による生理痛や生理不順などの症状がみられる場合は桃仁、川芎、牡丹皮、紅花、延胡索といった活血薬、気分の沈みや息苦しさといった気滞の症状が顕著なら柴胡、枳実、陳皮、半夏、厚朴、香附子などの理気薬を含んだ漢方薬もそれぞれ検討されます。


このようにむくみがあるから利水薬をもちいれば良いというものではなく、その方のむくみ以外の症状や体質にも着目して適切な漢方薬を選択する必要があります。


生活面での注意点と改善案


足を中心とした下半身のむくみ解消には軽いウォーキングが有効です。足の筋肉を動かすことによって静脈の流れが良くなり、余分な水分が停滞するのを防ぎます。仕事などで長時間、同じ姿勢でいるのも良くありませんので、定期的な屈伸運動などを行うのが好ましいです。適度に引き締まった着圧ストッキングやタイツを使用するのも良いでしょう。


むくみにくわえて冷え性(冷え症)もある方はしっかりとお風呂に入って、足首から股側に向かってマッサージを行いましょう。お風呂に入ることで足に水圧がかかり、効率的にむくみが解消できます。


むくみ(浮腫)の改善例


患者は30代後半の女性・看護師。仕事柄、運動不足にはならないものの立っていることが多いので勤務後半になると足のむくみが強くなるとのこと。特に病院から帰宅する際に靴を履きかえる時に足がパンパンになっているのがわかるという。


くわしくお話を伺うとむくみの他に手足の冷え、首と肩の凝り、生理痛があることがわかりました。そこでこの方には水湿を除く茯苓や沢瀉、血の巡りを改善する当帰や川芎を含んだ漢方薬を服用して頂きました。くわえて日頃からシャワーのみで過ごしていると伺ったので、しっかりと湯船につかるようお願いしました。


服用から3ヵ月が経つと顕著だった足のむくみは大きく改善されていました。帰りの際に外履きの靴に変えるのも靴べらがなくてもスムーズに行えているとのこと。その一方で冷えが気になりだしたということで身体を温める桂皮や細辛を含んだ漢方薬に変更しました。


新しい漢方薬にして2ヵ月が経過すると冷え性(冷え症)と一緒に生理痛や不快な凝り感も軽くなっていました。漢方薬を変更してもむくみが悪くなることはなく、こちらも順調に改善されました。この方は季節によって内容を微調節しながら漢方薬を継続して頂いています。


おわりに


むくみに悩んでいる方は女性を中心にとても多いです。くわえてむくみによる身体の重だるさや血行の悪化による冷えなどをともなうケースもみられます。そうなると不快感も含めて日常生活に支障が出てしまいます。


漢方薬はむくみの除去のみを行うのではなく、むくみを起こしている原因やそれ以外の諸症状の改善にも力を発揮します。慢性的なむくみでお悩みの方は是非一度、当薬局へご来局ください。

【 片頭痛 】と漢方薬による治療

片頭痛とは


片頭痛はその名前の通り、頭部の片側に起こる痛みを指します。しかしながら、両側頭部に痛みが現れることもしばしばです。ときに「偏頭痛」と表記されている場合もありますが、正式には「片頭痛」がもちいられます。片頭痛は首や肩の凝りから起こる緊張型頭痛と並んでよくみられる頭痛であり、若年から中年の女性に起こりやすいといわれています。片頭痛の痛みは脈を打つリズムで現れやすいという特徴があり、その痛みは日常生活に支障をきたすほどになるケースもあります。


他の片頭痛の特徴としては前兆や随伴症状(片頭痛と一緒に現れる症状)の存在が挙げられます。代表的な片頭痛の前兆として、実際には存在しない独特の光が視界や視界の欠損が現れる閃輝暗点(せんきあんてん)が挙げられます。しばしば起こる片頭痛の随伴症状としては吐気や嘔吐、感覚過敏などが存在します。


片頭痛の原因


片頭痛の原因はまだ完全にはわかっていません。しかし、何らかの影響で血管が広がり、その血管を取り巻いている神経が刺激されて痛みが起こると考えられています。血管を広げてしまう要素、片頭痛を起こしやすくしてしまう要素としては精神的・肉体的ストレス、過労、睡眠不足や過眠、過度の空腹や満腹、雨や台風の接近といった天候変化、人混み、強い音や光などが代表的です。女性の方が片頭痛の起こる頻度が高いため、女性ホルモンや遺伝の影響も指摘されています。


片頭痛の症状


片頭痛の主な症状は片側の側頭部に生じる強い痛みです。「片」頭痛という病名ではありますが、実際には両側頭部や眼の奥に痛みを感じることもあります。片頭痛の痛みは脈拍のリズムでズキズキと痛むことが多く、このような痛みを拍動性(はくどうせい)の痛みといいます。この痛みは緊張型頭痛などと比較すると強く、仕事や日常生活に支障をきたしてしまうほどです。


片頭痛の特徴に閃輝暗点(せんきあんてん)と呼ばれる独特の前兆症状が挙げられます。閃輝暗点は自分にしか見えない光や視野の欠損が現れるというものです。シンプルに表現すれば、片頭痛が現れる前に目の前が光でチカチカしたり一部が見えなくなったりするというものです。多くの方は閃輝暗点の光を「ギザギザがつながったような光」「トゲのような光が連続して見える」「光の歯車が現れる」などと表現されます(「閃輝暗点」の画像検索結果はこちら)。閃輝暗点以外にも片頭痛が起こる前に身体の重だるさ、眠気、感情の乱れ、過食衝動などが現れることもあります。


片頭痛にはしばしば随伴症状がみられる点も特徴といえます。片頭痛の主な随伴症状としては吐気や嘔吐、胃もたれ、頭痛がないときは気にならないような音・光・臭いなどに対して過敏になるといったものが挙げられます。 随伴症状とはやや異なりますが、片頭痛の痛みは身体を動かすとより強くなる傾向があるので寝込んでしまったり、活動の積極性が低下する傾向があります。


片頭痛の西洋医学的治療法


西洋薬を使用した片頭痛の治療は大きく分けて2種類の薬が使用されます。まずは一般的に市販もされている鎮痛薬が挙げられます。代表的な鎮痛薬はロキソニン、バファリン、カロナール、ボルタレンなどが代表的です。そしてもうひとつはトリプタン製剤と呼ばれる片頭痛に特化したタイプの薬です。トリプタン製剤は主に血管を収縮させたり、痛みを感じさせる物質を抑制させることで効果を発揮します。


両者は優秀な薬ですが、鎮痛薬の多くは胃腸の粘膜に負担をかけて胃潰瘍や十二指腸潰瘍の原因にもなってしまいます。トリプタン製剤は血管を収縮させるはたらきがあるので高血圧症、脳血管障害、心筋梗塞や狭心症などを患っている方には基本的に使用できません。くわえて、これらの薬は高頻度に使用すると下記で解説します薬物乱用頭痛を引き起こす可能性があるので、慎重に使用されます。


薬物乱用頭痛について


薬物乱用頭痛は鎮痛薬を日常的に使い過ぎることによって起こる頭痛です。薬物乱用頭痛はしばしば鎮痛薬誘発性頭痛、反跳性頭痛、薬物誤用頭痛などとも呼ばれます。「薬物乱用」と聞くと覚醒剤や脱法ドラッグのようないわゆる禁止薬物を連想しがちですが、この場合の薬物は一般的な頭痛にもちいられる鎮痛薬を指しています。


薬物乱用頭痛のくわしいメカニズムはまだわかっていませんが、鎮痛薬を使用し過ぎることで耐えられる痛みのラインが徐々に下がってしまい、些細な痛みにも敏感になってしまうと結果と考えられています。薬物乱用頭痛の危険性が高まる状況として、鎮痛薬を1ヵ月のうちに10~15日以上服用し、それを3ヵ月以上継続すると起こりやすいといわれています。


慢性的な頭痛を患っている方でついつい気軽に鎮痛薬を服用されている方、痛みが起こる前から予防的に鎮痛薬を服用される方などは薬物乱用頭痛も混在しているタイプの頭痛となっている可能性もありますので充分な注意が必要です。


片頭痛の漢方医学的解釈


漢方の立場から片頭痛を考えるとその原因は大きく分けて3つが考えられます。ひとつは外邪の影響を受けて現れるケース。もうひとつは気の流れが悪くなって起こるケース。そして気の不足が原因となるケースです。この3つの原因以外にも片頭痛の引き金となる要素はありますが、どのようなケースでもこれらは少なからず片頭痛に関与していると考えられます。


まず外邪とは簡単に表現すれば寒さや暑さといった環境要因といえます。外邪は身体に侵入すると気血の流れを妨げて痛みを起こします。片頭痛において問題となりやすいのは風寒邪や風熱邪です。


気の流れが悪い状態、つまり気滞の状態は主に精神的なストレスが積み重なることで起こります。気滞による頭痛は側頭部に起こりやすい傾向があるので、片頭痛の場合は気滞の有無をしっかりチェックする必要があります。


気は巡りが悪くなる他に不足しても痛みが生じます。気が不足した気虚と呼ばれる状態になると頭部を充分に栄養することができずシクシクとした鈍い痛みが繰り返し起こるようになります。


解説しきれませんでしたが、これら以外にも血や津液の巡りが悪くなってしまったことによる頭痛も存在します。しかし、多くの場合において片頭痛は上記3つのケースが複雑に関連し合って起こっています。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いた片頭痛の治療


漢方薬による片頭痛の治療は痛みを起こしている原因によって大きく異なってきます。風寒邪などの外邪が繰り返し侵入していると考える場合は外邪を発散させる漢方薬。精神的なストレスによって片頭痛が悪化するようなら気の巡りを改善する漢方薬。そして、疲労によって痛みが現れるようなら気を補う漢方薬がそれぞれ適しています。各原因による痛みはその現れ方が異なりますので、それらを手掛かりに治療法を導いてゆきます。


秋から冬の寒い季節に片頭痛が起こりやすい、首や肩のこわばりや凝りも強い場合は風寒邪を追い出す麻黄、桂枝、細辛、生姜、紫蘇葉といった辛温解表薬を多く含む漢方薬が選択されます。頭の痛みにくわえてほてり感や張り感、眼の充血などがみられるなら風熱邪を追い出す葛根、柴胡、薄荷、連翹、升麻といった辛涼解表薬を配合した漢方薬が有効です。


精神的なストレスが溜まっている方、イライラ感とともに顔面の紅潮、ほてり、めまい、そして割れるような強い拍動性の痛みが現れるケースでは気の巡りを改善する柴胡、厚朴、半夏、薄荷、枳実、香附子などの理気薬を豊富に含む漢方薬が適しています。


疲れがたまる夕方から夜にかけて痛みが目立つ、昔から食が細く風邪をひきやすいような方には気を補う人参、黄耆、白朮、大棗、甘草に代表される補気薬を中心とした漢方薬を服用するのがよいでしょう。


現実的には単一の原因で片頭痛が起こっているケースは稀であり、患っている方の状態をしっかりと把握してバランスよく漢方薬を調合する必要があります。さらに生活環境や季節の変化も考慮する必要があります。


生活面での注意点と改善案


片頭痛は血管が広がることで痛みが起こるので、血管を収縮させることと血管を広げないようにすることが大切になります。実際に痛みが起こっているときは強い光や音といった強い刺激のない場所で休みましょう。


安静にしつつこめかみの部分を保冷材などで冷やしたり、手で押さえることが有効です。コーヒーや日本茶に含まれているカフェインは血管収縮作用があるのでこれらを飲むのもよいでしょう。逆に入浴や運動は痛みを強くしてしまうので控えましょう。


片頭痛を起こしやすくする食品としてはチョコレート、アルコール(特に赤ワイン)、チーズやヨーグルトに代表される乳製品、ハムやソーセージ、かんきつ類などが有名です。生活面においては睡眠不足や過眠、空腹や満腹、刺激の強い人混みなどが片頭痛を引き起こす要因になりえます。


一方ですべての人が挙げてきた要因で片頭痛が誘発されるわけではなく、とても個人差が大きいことが知られています。したがって、自身でどのようなケースにおいて片頭痛が起こりやすいかを日ごろから意識しておくことが大切です。


片頭痛の改善例


患者は50代前半の男性・会社役員。管理職として主に人事を担当しており、5~6年前から異動の計画を練るころになると細い釘が刺し込まれるような片頭痛が起こるようになった。度重なる面接など神経を使う仕事が重なる時期でもあるので「半ば、仕方がないと思っていた」という。しかし、年齢とともに体力の低下もあり、片頭痛によって仕事への影響が無視できなくなった。


当薬局へご来局されたときはすでに病院から薬が処方されており、その薬である程度は痛みのコントロールができていました。そのために片頭痛が出やすい繁忙期以外にも予防的に服用するようになっていました。しかしながら、完全に痛みを除くことはできず医師からも薬に頼り過ぎないように注意も出ていました。


くわしくご症状をうかがうと片頭痛は繁忙期以外にも強い日差しに当たった後にも起こりやすいという。片頭痛以外にも眼の疲れや充血も顕著で、いつも複数の目薬を鎮痛薬と一緒に持ち歩いているのだと薬専用のポーチを見せてくれました。


この方には精神的ストレスを緩和する、気の巡りを改善する柴胡や熱を鎮める山梔子などを含む漢方薬を服用していただきました。漢方薬以外ではどんなに忙しくても睡眠時間を最優先で確保するようにお願いしました。


漢方薬を服用して1ヵ月で眼の充血や疲れがなくなり、目薬を使う頻度がとても減ったとのこと。同じ漢方薬で4ヵ月が経過すると病院の薬を服用しなくても「痛みが現れてもなんとか仕事に支障が出ない、ギリギリのラインまで痛みが弱くなってきた」とのこと。


しかしながら、完全には痛みは除かれず「痛みの雰囲気が変わり、鋭さより鈍いような重いような痛みがある」という。痛みが現れやすいタイミングはやはり日に当たった外出後でした。そこで痛みの引き金が疲労、つまり気の低下と考え直して気を補う人参や黄耆を中心とした漢方薬へ変更。


新しい漢方薬にして3ヵ月程度が経つと重だるいような痛みも1/4程度にまで改善されていました。一方で面接や書類作成が積み重なる繁忙期になると「釘が刺さるような痛み」が出やすくなるので、最初に調合した気を巡らす漢方薬と後の気を補う漢方薬を時期や痛みの種類によって使い分けて頂くことにしました。


漢方薬を開始してほぼ1年が経つと病院の片頭痛の薬をほとんど服用せず、眼のトラブルも含めて漢方薬のみでご症状を抑えることが出来るようになりました。肉体的な体力の衰えを感じる頻度も減ったということもあり、この方には引き続き2種類の漢方薬を継続して頂いています。


おわりに


片頭痛の痛みは肩や首の凝りから起こる緊張型頭痛と比較して重く鋭いものといわれています。痛みによって仕事や家事に支障が出てしまうケースも多く、生活の質を大きく下げてしまう病気といえます。


近年、病院でもちいられる新型の薬によって片頭痛の治療は大きく進歩しました。その一方で新型の薬でも効果が出ない方や副作用によって継続的な使用が難しい方もいらっしゃいます。そのような方を中心に漢方薬は有力な選択肢といえます。慢性的な片頭痛にお困りの方は是非一度、当薬局へご来局ください。

【 のぼせ(ホットフラッシュを含む) 】と漢方薬による治療

のぼせ(ホットフラッシュを含む)とは


のぼせとは気温や室温が高くないにもかかわらず顔を中心とした上半身に不快な熱感を覚える状態です。のぼせと似た言葉にホットフラッシュがあります。ホットフラッシュとはのぼせにくわえて発汗過多、顔の紅潮などを含めた状態です。しかしながら、実際にはのぼせもホットフラッシュもほぼ同じ意味でもちいられています。上半身におけるのぼせだけではなく、下半身や手足の冷えが同時にみられるケースは冷えのぼせと呼ばれます。


のぼせやホットフラッシュは更年期障害の代表的な一症状でもあります。更年期障害以外にも血行不良や自律神経の乱れものぼせを引き起こす原因となります。特に冷えのぼせは血行の悪さに加えて身体の冷やし過ぎから起こりやすいと考えられています。


のぼせ(ホットフラッシュを含む)の原因


のぼせは一時的に上半身の血管が広がり急激な血流増加が起こることによって現れると考えられています。更年期障害は閉経期に起こるエストロゲンの減少がきっかけとなります。このエストロゲンは適度に血管を拡張させる作用を持っています。エストロゲンが閉経期に少なくなることでこの作用がうまく機能しなくなり、のぼせが起こるとされています。


のぼせは更年期障害以外の病気でもしばしばみられます。具体的には身体が過剰に活性化してしまうバセドウ病に代表される甲状腺機能亢進症、高血圧症、狭心症、自律神経失調症などです。しかし、のぼせを起こしている原因がわからないケースもしばしばです。


冷えのぼせの場合、その根本にあるのは冷えと血行不良です。もともと冷え性(冷え症)の方が薄着や冷えた食べ物の摂り過ぎ、クーラーのかけ過ぎなどによって身体を冷やし過ぎると血管が収縮し、冷えがより悪化してしまいます。その一方で身体は生命維持のために頭や身体の中心部は温かい状態を保とうとします。結果的にのぼせと冷えの偏在が起こってしまいます。


のぼせ(ホットフラッシュを含む)の西洋医学的治療法


のぼせを起こしている疾患が明確な場合はその治療が間接的にのぼせ症状の緩和に繋がります。更年期障害のケースではエストロゲンを中心としたホルモン補充療法、バセドウ病の場合は甲状腺ホルモンの生成を抑える薬がもちいられます。しかしながら、のぼせを起こしている病気が不明なケース、そもそものぼせを起こしている病気はなく体質的・生活習慣的なものだと西洋医学的な治療を行うのは難しいです。


のぼせ(ホットフラッシュを含む)の漢方医学的解釈


漢方医学の視点からのぼせを考えると、主に瘀血(おけつ)と陰虚(いんきょ)がその原因として考えられます。瘀血とは身体を栄養している血の流れが悪くなった状態といえます。瘀血に陥るとのぼせの他に末端の冷え、肩こり、頭痛、女性の場合は生理痛や生理不順などが起こりやすくなります。瘀血は精神的なストレスを慢性的に受けたり、身体を冷やし過ぎたりすると生じやすいです。


のぼせの原因と考えられるもう一つの状態である陰虚とは、身体を適度にクールダウンする血や津液(しんえき)が不足した状態です。血と津液が不足すると相対的に熱性の性質を持つ気が優位となり、のぼせが起こりやすくなります。陰虚によって起こる症状としては口渇、目や肌の乾燥、ふらつき、動悸、息切れ、寝汗(発汗過多)などが挙げられます。発汗をともなうホットフラッシュは陰虚によることが多いです。陰虚になってしまう原因としては発熱をともなう病気、長期にわたる闘病、過労などが代表的です。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いたのぼせ(ホットフラッシュを含む)の治療


のぼせの原因が瘀血と考えられる場合は、血の巡りを改善する漢方薬がもちいられます。具体的には桃仁、川芎、牡丹皮、紅花、延胡索などの活血薬(かっけつやく)を含む漢方薬がのぼせ治療の中心となります。特に婦人科系のトラブルがのぼせに加えて目立つようなら瘀血の存在が強く疑われます。


この他にも気の巡りが悪い状態、つまり気滞(きたい)があるようなら柴胡、厚朴、半夏、薄荷、枳実、香附子といった理気薬(りきやく)を含む漢方薬との併用も検討されます。気滞は精神的なストレスによって起こりやすく、気の巡りが悪くなると憂うつ感、喉や胸の圧迫感、胃や腹部の張り感といった症状が現れやすくなります。


のぼせに加えて口の渇き、動悸、そして発汗過多があるようなら陰虚の可能性が高いです。陰虚は血と津液が不足した状態でしたので、それぞれを補う漢方薬がもちいられます。したがって、血を補う地黄、芍薬、当帰、酸棗仁、竜眼肉などの補血薬(ほけつやく)や麦門冬、天門冬、枸杞子といった滋陰薬(じいんやく)を豊富に含んだ漢方薬が検討されます。のぼせがとても強いなら熱を冷ます黄連、黄芩、黄柏、山梔子、石膏などの清熱薬(せいねつやく)が多く配合された漢方薬との併用が効果的です。


このように「のぼせ」といってもそれを起こしている背景は個々人によって異なります。したがって、ただ熱を冷ます漢方薬をもちいるのではなく、のぼせ以外の症状(具体的には発汗や冷えがあるかなど)や体質をしっかりと把握することが漢方治療の鍵となります。


生活面での注意点と改善案


のぼせ感が顕著な部分はできるだけ外気と接するような服装を心がけましょう。短時間ならタオルを巻いた保冷剤を当てるのも良いでしょう。しかし、長時間冷やし過ぎると血行が悪化して凝りなどが起こりやすくなりますので注意が必要です。


冷えのぼせの場合は冷えているところは温め、のぼせているところは冷やすことが基本となります。一方で冷えのぼせの方は基本的に冷え性(冷え症)が土台にあるので積極的に冷やすことは勧められません。上記の通り、あくまでものぼせる部分を外気にさらす程度が良いでしょう。温めたい部分としては腹部、首から肩にかけて、手首や足首が挙げらえます。他にも冷たい飲み物や生ものを摂り過ぎるのは控えましょう。


のぼせ(ホットフラッシュを含む)の改善例


改善例1

患者は40代後半の女性・専業主婦。子育てがひと段落した40代前半から一時的にのぼせが起こるようになりました。最初の頃はすぐに治まるのであまり気にしていませんでしたが、徐々に頻度と症状の強さが目立つようになりました。もともと冷え性(冷え症)体質で、冬場にはヒーターが欠かせませんでしたがのぼせが悪化してしまうのでとても困っているとのこと。


詳しくお話を伺うとのぼせに加えて喉の渇きと咳、ドライアイ、肌の乾燥、そして下半身の冷えが気になっているという。婦人科系のトラブルはやや生理周期が長くなってきたくらいで特に問題はないとのこと。最近、受診した病院では更年期障害の可能性は低いと言われ、治療は行われませんでした。


この方はご症状から血と津液の不足によるのぼせと考え、まずは血を補う地黄や熱を鎮める黄柏や知母などから構成される漢方薬を服用していただきました。漢方薬の服用から2ヵ月が経過すると、顔が真っ赤になるようなのぼせが起こることはほぼ無くなりました。着実に改善していると考え、その後の数ヵ月間は同じ漢方薬を継続していただきました。


季節は秋になり、空気の乾燥が始まると空咳と乾燥肌が気になるということで潤いを与える麦門冬と咳を鎮める五味子などから構成される漢方薬に変更を行いました。新しい漢方薬に変更して2ヵ月が経つと、喉のカサカサした不快感と咳も鎮まり、残っていたのぼせ感も現れなくなっていました。


雪がちらつく時期になり、ヒーターを入れても以前のような強烈なのぼせが現れることはなくなり、一方で足を中心とした冷えもあまり気にならなくなっていました。冬から春になり、陽気が強いと少しのぼせが出るということで最初に調合していた漢方薬へ再度変更。この方はその後、季節や体調に合わせて継続的に漢方薬を調合しています。


改善例2

患者は30代後半の女性・会社員。社会人になってからそれまでは順調だった生理のリズムが崩れ、生理痛やのぼせが起こるようになりました。お仕事はドリンクの自動販売機の設置交渉を行うことだったので基本的には外出していることが多く、夏場はのぼせが悪化して強い吐き気を覚えるほどでした。ご自身でのぼせに効くというプラセンタやローヤルゼリーといったサプリメントを使用しても効果はなく、市販されている漢方薬でやや好転。それをきっかけに漢方に興味を持ち、当薬局へご来局。


ご症状やご体質を伺うとのぼせ、生理不順、生理痛、さらに生理前のイライラ感や不快な胸の張り感も気になるという。唇は赤黒く、気付かないうちに肌にアザができやすいという点などから、この方は瘀血によるのぼせが起きていると考えました。そこで漢方薬は桃仁や牡丹皮などから構成される、瘀血を除くものを調合しました。


漢方薬を4ヵ月ほど服用するとのぼせの強さは半分程度になり、生理期間中は毎日服用していた鎮痛薬のロキソニンもあまり服用せずに過ごせるようになっていました。同じ漢方薬でも良いと感じていましたが、この時期は仕事によるストレスが強く、イライラ感がいつもあるという訴えがあったので気の巡りを改善する柴胡、熱を鎮める山梔子などから構成される漢方薬に変更しました。


変更から2ヵ月が経つと生理前に顕著だった気分の上下や胸の張りもなくなり、日頃からもイライラで集中力が低下することもなくなったとのこと。最も困っていたのぼせが現れる頻度も夏の猛暑日など極わずかなりました。この方は服用していると生理周期も安定するということで、変更後の漢方薬を継続服用して頂いています。


おわりに


のぼせが起こる状態は健康体と病気の間に位置する未病(みびょう)の状態といえます。未病の状態は西洋医学的な治療が難しい反面、漢方薬が得意とする領域でもあります。のぼせ以外にも発汗過多などがみられるホットフラッシュにも漢方薬は有効です。


病院で行われるホルモン補充療法、大豆イソフラボンやプラセンタといった様々なサプリメントを使用してもなかなか改善しないのぼせが、漢方薬の服用によって好転することもしばしばです。慢性的なのぼせにお困りの方は是非、当薬局へご来局ください。

【 舌痛症 】と漢方薬による治療

舌痛症とは


舌痛症(ぜっつうしょう)とは舌に器質的な異常がないのに痛みが起こる病気です。「器質的な異常がない」とは舌に傷や潰瘍などの眼に見える異常が存在しない状態という意味です。くわえて、炎症を感知するような臨床検査値にも異常は現れないため、舌痛症は客観的に有無や程度を把握するのが困難な病気といえます。


舌痛症の発症には男女比がみられ、更年期を迎える40~50代の女性に多いことが知られています。研究によって幅はありますが、女性の方が男性に比べて10倍近く発症しやすいという報告もあります。


舌痛症の原因


舌痛症の明確な原因はまだ明らかになっていません。一方で更年期の女性に多い点などからホルモンとの関連や遺伝的な要因が関係しているという説が挙げられています。くわえて精神的なストレスや歯科治療(入れ歯の挿入や矯正など)をきっかけに症状が悪化したり慢性化しやすいことが知られています。


純粋な舌痛症とは異なり、舌に痛みを起こす病気などは多岐にわたります。具体的には亜鉛や鉄分といったミネラル不足、ビタミンB12に代表されるビタミン不足、薬の副作用によるドライマウス、口の中が乾燥してしまうシェーグレン症候群や糖尿病、口内炎を起こすベーチェット病、帯状疱疹ウイルスやヘルペスウイルスへの感染、口腔カンジダ症などが挙げられます。舌痛症の診断を確定させるためにはこれらの可能性を排除する必要があります。


舌痛症の症状


舌痛症の痛みの現れ方やその表現には大きな個人差があります。そのなかでも焼けるようなヒリヒリ感と表わす方が多く、このことから舌痛症は口腔内灼熱症候群(こうくうないしゃくねつしょうこうぐん)、バーニングマウス症候群とも呼ばれます。


他にも針で刺されるようなチクチク感やピリピリ感があったり、痛む場所がコロコロと変わるケースもしばしばです。痛み以外にも味覚の低下、舌の乾燥感、しみるような感覚、しゃべりにくさ(ろれつが回らない)、食欲の低下、吐気、漠然とした違和感などを訴えられる方もいらっしゃいます。


痛みの強度も持続的であり日常生活や仕事が困難になるようなケースから、たまに痛む程度まで様々です。その一方で食事を摂っている時、睡眠時、発声時、午前中などでは痛みが軽快しやすいことが知られています。痛む場所は舌の先端である舌尖(ぜっせん)から側面の舌縁(ぜつえん)に到る「Uの字」に現れやすいです。


慢性的に痛みが強く現れる方の場合、精神的に追い込まれてうつ病を患われてしまうケースもあります。しかしながら、舌痛症からガンといった重篤な病気に繋がったり、他者にうつる(感染する)といった報告はないので過度な心配は禁物といえます。


うつ病ほどではなくても痛みによるストレスで胃痛や腹痛、首肩の凝り、頭痛、頭重感、眼精疲労、めまい、不眠、疲れやすさといった自律神経失調症と考えられる症状を訴えられる方もいらっしゃいます。


舌痛症の西洋医学的治療法


舌痛症の原因が不明なため、西洋医学的な治療法は確立されていません。一方で精神的なストレスで悪化する傾向が顕著な方に対しては、抗うつ薬や抗不安薬が持つ鎮痛効果を期待してしばしば用いられます。


具体的にはエビリファイ(一般名:アリピプラゾール)、ジェイゾロフト(一般名:セルトラリン)、ソラナックス(一般名:アルプラゾラム)、デパス(一般名:エチゾラム)、ランドセンやリボトリール(ともに一般名:クロナゼパム)、リーゼ(一般名:クロチアゼパム)、リフレックスやレメロン(ともに一般名:ミルタザピン)、ルボックス(一般名:フルボキサミン)などが挙げられます。


他にも神経のトラブルによって生じる痛みである神経障害性疼痛を鎮めるリリカ(一般名:プレガバリン)、ビタミンB12製剤であり末梢神経の傷を回復させるメチコバール、亜鉛を含んだ胃粘膜保護薬であるプロマック(一般名:ポラプレジンク)、その他にも胃酸を抑制する薬や副腎皮質ステロイド薬の軟膏剤などもしばしば使用されます。


舌痛症の漢方医学的解釈


漢方医学的な視点から舌痛症を考えると、何らかの原因で身体の内部で発生した熱が関与していると考えます。この熱は西洋医学的な体温計で測れる「熱(発熱)」を指しているのではなく、漢方独自の概念である「熱」となります。


具体的には精神的なストレスの蓄積、辛い物やアルコールの摂り過ぎ、感染症などによって引き起こされた熱が五臓六腑(ごぞうろっぷ)を侵し、結果的に舌の痛みを生じさせます。このケースの熱は実熱(じつねつ)に分類され、舌痛症にくわえてどの五臓六腑が障害されているかによって舌の痛み以外の症状が発生します。


他にも身体を適度にクールダウンする津液(しんえき)や血(けつ)といった物質が過労、慢性病に対する闘病、加齢などによって減少することで発生する熱も存在します。この場合の熱は身体に必要なものが虚したことで起こる熱なので虚熱(きょねつ)と呼ばれます。


さらに熱以外にも消化器の力が低下している脾虚(ひきょ)の状態でも舌に痛みが現れることがあります。経験的に舌痛症の痛みは挙げてきた複数の原因が重層的に絡んだ結果として起こっているという印象を受けます。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いた舌痛症の治療


舌痛症の原因が熱による場合、その熱を鎮める漢方薬をもちいることで痛みを除くことが出来ます。もし熱が虚熱の場合、津液や血を補う漢方薬が舌痛症の根本治療につながります。多くの場合、虚熱であっても少量の熱を鎮める生薬をもちいて、積極的に熱によって生じている痛みの軽減を図ります。


熱を抑える代表的な清熱薬(せいねつやく)としては黄連、黄芩、黄柏、山梔子、石膏などが挙げられます。これらの生薬を含む漢方薬は舌の灼熱感が強く、色は赤々としている実熱の舌痛症に有効であることが多いです。


津液を補う代表的な滋陰薬(じいんやく)には麦門冬、天門冬、枸杞子などが挙げられます。血を満たす補血薬(ほけつやく)には地黄、芍薬、当帰、酸棗仁、竜眼肉などが使用されます。これらを含む漢方薬は虚熱による舌痛症治療の中心となります。虚熱による舌痛症の特徴としては口腔内の乾燥感、舌がV字に痩せている、舌に深い溝がある点などが挙げられます。


他にも疲労感が強くて食が細い方には消化器の調子を改善する補気薬(ほきやく)を多く含んだ漢方薬も使用されます。このように舌痛症の治療には原因ごとに内容が異なった漢方薬が使用されることになります。


舌痛症の改善例


改善例1

患者は50代前半の女性・パート勤務。40代後半頃からしばしば舌の先にヒリヒリする違和感を覚え始めていました。一方で普段の生活に支障が出るわけでもなく、食事や会話に問題はなかったので症状は放置していました。


しかしながら、更年期障害と考えられる強いのぼせ感、イライラ感、寝つきの悪さ、重だるさなどが現れ始めると比例して舌の違和感も増大。徐々に熱感をともなう痛みに変わってゆきました。さすがに家事やパートの仕事をこなすのが辛くなり、婦人科を受診しました。


婦人科からは低用量ピルが処方され、服薬を開始。酷かったのぼせはだいぶ楽になり、その他の症状も緩和されました。一方で舌の痛みは変わらず、逆に食欲の増加と口臭が起こるようになってしまいました。婦人科からは心療内科も勧められましたが抵抗があり、漢方薬での治療を希望し当薬局へご来局。


ご症状を伺うと、舌の痛みは常にある一方で「何かを食べていると痛みが弱まるので、ついつい間食が多くなってしまった」とのこと。結果的に体重は増加傾向で、痛みが強くなり始めてから5~6kgは増えてしまったという。舌の状態は舌尖にやや赤みがあり、黄色くて厚い舌苔(ぜったい)がありました。


この方には過剰な熱を鎮める黄連や黄芩などから構成される漢方薬を調合しました。最初のうちは苦くて服用が大変だとこぼされていましたが、数ヵ月が経つと「逆に苦みで身体が引き締まるような気がする」と慣れられたご様子。舌の痛みは少しずつ軽減され、痛みを感じない時間帯もあるとのこと。間食も減ったので体重は2kgほど減りました。


同じ漢方薬を粘り強く継続して頂き、半年強が過ぎる頃になると舌尖の赤みは弱まり舌苔も薄く白色に変わりました。痛みも順調に緩和し、以前の弱い違和感を覚えるレベルにまで鎮まりました。くわえて「子供たちから口が臭いといわれなくなった」とのこと。


舌痛症が改善された後も漢方薬を服用していると些細なことでイライラすることも減り、睡眠も深くとれるようになったということで継続服用して頂いています。なかなか改善されなかった重だるさも体重が更年期障害発症前の水準まで減ると、大きく軽減されました。


改善例2

患者は40代後半の女性・大学職員。数年前から舌の側面に傷が出来ているような痛みが現れました。最初のうちは知らない間に舌を噛んでしまったかと思い、特にケアもせず過ごしていましたが痛みは消えませんでした。口内炎のたぐいかと考えて市販のビタミン剤を使用しても効果はなし。


定期的に歯のクリーニングで受診している歯科医に相談すると初めて舌痛症の可能性を指摘されました。紹介された内科で血液検査などを行っても異常は見られず、舌痛症と診断されました。内科からは少量の抗不安薬を処方されましたが、服用するとめまいでフワフワしてしまい継続できず、漢方薬での治療を希望し当薬局へご来局。


ご症状を伺うと舌の痛みは一定ではなく、職場で強くなりやすい傾向がある。痛む場所は舌の中央が多く「4~5本の極細の焼けた針でチュンチュンと突かれたような痛みがある」という。舌痛症以外の症状としては喉のつまり感、吐気、食欲の低下、腹部の張り、緊張のしやすさと気分の沈み、疲労感が挙げられました。


くわえて「今の職場は神経質な人が多くて、いつも空気がピリピリとしている」とのこと。さらに仕事以外にも同居している義理の母の介護も重なり、精神的な負担はかなり強い状態。舌の状態はやや厚い白色の舌苔があり、潰瘍や傷のような外観の異常はなし。顔色は青白く、体型はやせ形。


この方は気の滞りにくわえて気自体が不足していると考えました。そこで気をスムーズに巡らす香附子や蘇葉、気を補う人参や白朮などから構成される漢方薬を調合しました。くわえて気の流れを良くするため、疲れを持ち越さない程度にウォーキングをお願いしました。職場でも何か理由を付けて歩いてもらい、座りっぱなしは避けて頂きました。


漢方薬を服用して3ヵ月程が経過すると徐々に食欲が高まり、吐気や喉が塞がったような不快感は薄れてゆきました。一方で痛みに大きな変化はありませんでした。変更も考えましたが、ご本人が「すぐに疲れて横になることも減り、少しずつ体力的にも精神的にも楽になってきている」とおっしゃられたので同じ形で継続。


さらに数ヵ月が経つと舌の真ん中に生じていた痛みの範囲が小さくなり、緊張が高まる場面でも以前ほど痛みが気にならなくなりました。引き続き、消化器を含めた体調全般が安定していたのでその後も同様の漢方薬を服用して頂きました。


最終的には1年半ほど漢方薬を続けて頂き、舌痛症による痛みはほぼ消失。仕事中はいつも緊張して身体に力が入っている不快な感覚がありましたが、そちらも楽になりました。その後は消化器重視のケースと緊張緩和重視のケースで漢方薬を使い分けしつつ、舌痛症を再発することなく過ごされています。


おわりに


舌痛症は視覚的にも血液検査などを受けても異常が発見できない病気です。舌痛症のくわしいメカニズムも明らかにされていないこともあり、西洋医学的な治療が困難な病気のひとつといえます。そのため、様々な医療機関や診療科を受診しても症状が改善されず、途方に暮れている方も少なくありません。


漢方薬の治療は病名や西洋医学的な原因に縛られず、患っている方のご症状と体質からアプローチすることが可能です。漢方薬を服用し始めてからご体調が好転する方がとても多くいらっしゃることから、舌痛症と漢方薬は「相性」が良いと実感しています。是非一度、舌痛症にお悩みの方は当薬局にご来局くださいませ。

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