相談の多い病気

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【 緊張型頭痛 】と漢方薬による治療

緊張型頭痛とは


緊張型頭痛とは首や肩の筋肉が緊張することによって起こる頭痛です。主に首筋から後頭部にかけて締め付けられるような痛みを生じます。 頭痛には本ページで取り上げる緊張型頭痛の他にも片頭痛や群発頭痛などが存在しますが、緊張型頭痛はもっとも一般的であり、多くの方にみられる頭痛といわれています。


高頻度に緊張型頭痛がみられる理由として、発症の原因が長時間のデスクワークや慢性的な運動不足といった現代的な生活スタイルに根差しているためであり、年齢や性別に関係なく発症する恐れのある頭痛といえます。その一方で痛みの強さは片頭痛や群発頭痛と比較すると弱く、吐気や嘔吐をともなうことはあまりありません。


緊張型頭痛の原因


緊張型頭痛は首や肩の筋肉が固くなり、血行が悪くなることが引き金となります。血行が悪くなると酸素といった栄養素の供給不足や老廃物代謝の滞りが発生し、その結果として後頭部を中心とした痛みや凝り感が現れてしまいます。


首や肩の筋肉の過剰緊張を起こしてしまう原因としては長い間、同じ姿勢でいたり過度な力が入りっぱなしになっていることなどが挙げられます。より具体的には同じ姿勢でパソコンをもちいた仕事をすることが多い、首肩の冷やし過ぎ、精神的な緊張のしやすさといったものが挙げられます。


緊張型頭痛の症状


緊張型頭痛の症状は圧迫感や締め付け感をともなう痛みであり、左右両方の首筋から後頭部にかけて現れやすいです。「ベルトで頭の周りを締め上げられているみたい」「重だるく鈍い痛み」と表現されることが多いです。痛みは脈を打つリズムで増したり、吐気や嘔吐をともなうことはあまりありません。緊張型頭痛はしばしば首肩の凝りや眼精疲労がたまる夕方以降に出やすい傾向があります。


緊張型頭痛の西洋医学的治療法


緊張型頭痛に対しては対処療法的に鎮痛薬をもちいるのが一般的です。首や肩の凝りが顕著な場合は筋弛緩薬を併用する場合もあります。精神的な緊張の高まりが肉体的な緊張に波及していることが明らかなケースでは抗不安薬の使用も検討されます。


しかしながら、抗不安薬には依存性の問題、吐気やふらつきといった副作用の問題もあるので慎重に使用されます。くわえて抗不安薬だけではなく鎮痛薬の連用は下記で解説します薬物乱用頭痛や胃腸障害のリスクを高めてしまうので、過度な使用は好ましくありません。


薬物乱用頭痛について


薬物乱用頭痛は鎮痛薬を日常的に使い過ぎることによって起こる頭痛です。薬物乱用頭痛はしばしば鎮痛薬誘発性頭痛、反跳性頭痛、薬物誤用頭痛などとも呼ばれます。「薬物乱用」と聞くと覚醒剤や脱法ドラッグのようないわゆる禁止薬物を連想しがちですが、この場合の薬物は一般的な頭痛にもちいられる鎮痛薬を指しています。


薬物乱用頭痛のくわしいメカニズムはまだわかっていませんが、鎮痛薬を使用し過ぎることで耐えられる痛みのラインが徐々に下がってしまい、些細な痛みにも敏感になってしまうと結果と考えられています。薬物乱用頭痛の危険性が高まる状況として、鎮痛薬を1ヵ月のうちに10~15日以上服用し、それを3ヵ月以上継続すると起こりやすいといわれています。


慢性的な頭痛を患っている方でついつい気軽に鎮痛薬を服用されている方、痛みが起こる前から予防的に鎮痛薬を服用される方などは薬物乱用頭痛も混在しているタイプの頭痛となっている可能性もありますので充分な注意が必要です。


緊張型頭痛の漢方医学的解釈


緊張型頭痛を漢方の視点から考えると、その原因は大きく3つが考えられます。まずは外邪の一種である風寒邪に襲われたケース。さらに気が不足しているケース。そして最後に血の巡りが悪くなっているケースです。 現実的にはこの3つの原因が重なり合って緊張型頭痛を引き起こしていると考えられます。


風寒邪が体表に取り付くと首や背中に痛みや締め付けられるような不快感を起こします。身体を長時間冷やしたり風に当たっていると風寒邪の悪影響を受けやすくなってしまいます。風寒邪は痛み以外にも寒気やふるえ、関節の重だるい痛み、クシャミや鼻水などを引き起こしやすいです。


気が不足してしまうと疲労感や身体の重だるさにくわえて風寒邪に代表される外邪から身体を守るバリア機能も低下してしまいます。したがって、気の不足した状態、つまり気虚の状態では容易に風寒邪による頭痛を誘発してしまいます。なお、気虚に陥ってしまうだけでもシクシクとした鈍い頭痛が起こりやすくなります。


風寒邪が身体に侵入すると血の流れを妨げてしまいます。気は血を巡らす原動力でもあるので気の不足もまた血の流れを悪くしてしまいます。血が滞っている状態、瘀血(おけつ)の状態では決まった同じ部分に鋭い痛みを引き起こします。


これらの原因はそれぞれが独立しているわけではなく強く関連しあっています。したがって、緊張型頭痛を治療の際には各原因の濃淡をしっかりと見極める必要があります。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いた緊張型頭痛の治療


漢方薬による緊張型頭痛の治療には風寒邪を身体から追い払う、気を補って抵抗力を底上げする、そして血の巡りを改善するという複数の方法をバランスよく行う必要があります。 具体的には緊張型頭痛を患っている方の症状の現れ方、緊張型頭痛以外の症状の有無、体質や生活環境などを総合的に考慮して漢方薬が決定されます。


冬や秋といった寒い時期に痛みが顕著になる、首や肩に締め付けられるような不快感が強い場合は風寒邪を発散させる麻黄、桂枝、細辛、生姜、紫蘇葉といった辛温解表薬を多く含んだ漢方薬が適しています。上記以外にも葛根は首や肩の凝りを緩和するはたらきに優れているのでしばしば緊張型頭痛の治療にもちいられます。


日頃から疲労感が抜けにくく、めまいや立ちくらみがあるような気虚の方には人参、黄耆、白朮、大棗、甘草などの補気薬を含んだ漢方薬が有効です。気が充実してくれば風寒邪が身体に侵入しにくくなり、緊張型頭痛に見舞われる頻度も低下してくるでしょう。


首や肩においていつも同じ場所が強く痛む、刺すような鋭い痛みがある、女性の場合は生理痛も重いといった場合は瘀血の悪影響が考えられます。このようなケースでは桃仁、川芎、牡丹皮、紅花、延胡索などの活血薬が豊富な漢方薬を服用するのがよいでしょう。


生活面での注意点と改善案


緊張型頭痛は多くの場合、肩や首の凝りがきっかけとなって発症したり悪化したりします。したがって、首肩の凝り対策が緊張型頭痛の対策となります。凝りを防ぐためには首周りを入浴などで温めたり、外気やクーラーで冷やし過ぎないことが大切になります。


首や肩を長時間、動かさないでいると血行が悪くなり凝りが起こりやすくなります。デスクワークが中心の方は意識をして首を左右に振ったり、回転させて筋肉の緊張をほぐすようにしましょう。首肩を動かすだけではなく、積極的に全身を使った運動を行うことは凝りの解消に有効です。特に水泳は首や肩、そして全身をバランスよく動かすので勧められます。


緊張型頭痛の改善例


患者は30代前半の女性・ファッション関連企業の会社員。一日中、パソコンの前で書類の作成やイベントの進捗状況の確認を行っているために慢性的な両肩の凝りに悩まされていました。特に季節ごとに行われる発表会が近くなると、精神的なストレスの増大もあってか肩凝りは悪化し、後頭部の痛みが現れてしまうという。市販の鎮痛薬を服用すれば痛みは鎮まる一方で、凝り感は解消されませんでした。鎮痛薬を長く飲むことでの胃への負担も心配となり漢方薬の服用を希望され、当薬局へご来局。


くわしくお話を伺うと典型的な緊張型頭痛のご症状にくわえて、生理不順(周期が不規則になり20日や40日で来たりする)や生理痛、そして足先の冷えもありました。全体のご症状からこの方は血の流れが悪くなっていると考え、血を巡らす桃仁や牡丹皮、筋肉の緊張を緩和する葛根や芍薬を含む漢方薬を調合いたしました。


漢方薬を服用されて2ヵ月が経つと、週2回マッサージに行っても残っていた肩の不快感は半分程度になり、頭痛の強さも鎮痛薬を使わなくても済む程度になっていました。その一方で冬のイベントに向けて精神的なプレッシャーが強く、気持ちが沈んでいるとのこと。生理の乱れや生理痛もイベント前はより一層悪くなりやすいということもあり、精神的な緊張を緩和する柴胡や薄荷を含んだ漢方薬に変更しました。


新しい漢方薬に変えて約2ヵ月が経過。冬のイベントも終わった頃にご様子を伺うと精神的には大変ではあったけれど、前回のイベント準備の頃と比較すれば大きく症状は改善されたとのこと。頭痛や肩凝りによって仕事に対する集中力の低下を感じることも少なくなり、強く意識される体調不良はないとのこと。昨年は靴下を二重にしないと耐えられなかった冷えも、頭痛と歩調を合わせるように気にならなくなっていました。


漢方薬を服用していると体力面でも余裕が出てくるということで、引き続き、同じ漢方薬を継続していただくことにしました。漢方薬を開始されて約1年が経つ頃には常に職場、バックの中、そして自宅に常備されていた鎮痛薬も「撤去」され、生理の状態も大きく乱れることはなくなっていました。


おわりに


緊張型頭痛は長時間のデスクワークや慢性的な運動不足が引き金となって起こる病気です。これらは現代人にとってなかなか避けがたいものであり、緊張型頭痛が頭痛の中でも大きな割合を占めている理由でもあります。


痛みは鎮痛薬をもちいることでほぼ確実に鎮めることができます。その一方で鎮痛薬の連用は消化器に負担をかけたり、薬物乱用頭痛に陥ってしまう危険性もあります。漢方薬による緊張型頭痛の治療はその痛みにだけ着目するのではなく、首や肩の凝りも含めた全身のご症状とご体質をもとにして調合されます。慢性的な緊張型頭痛や首肩の凝りにお困りの方は是非一度、当薬局へご来局ください。

【 片頭痛 】と漢方薬による治療

片頭痛とは


片頭痛はその名前の通り、頭部の片側に起こる痛みを指します。しかしながら、両側頭部に痛みが現れることもしばしばです。ときに「偏頭痛」と表記されている場合もありますが、正式には「片頭痛」がもちいられます。片頭痛は首や肩の凝りから起こる緊張型頭痛と並んでよくみられる頭痛であり、若年から中年の女性に起こりやすいといわれています。片頭痛の痛みは脈を打つリズムで現れやすいという特徴があり、その痛みは日常生活に支障をきたすほどになるケースもあります。


他の片頭痛の特徴としては前兆や随伴症状(片頭痛と一緒に現れる症状)の存在が挙げられます。代表的な片頭痛の前兆として、実際には存在しない独特の光が視界や視界の欠損が現れる閃輝暗点(せんきあんてん)が挙げられます。しばしば起こる片頭痛の随伴症状としては吐気や嘔吐、感覚過敏などが存在します。


片頭痛の原因


片頭痛の原因はまだ完全にはわかっていません。しかし、何らかの影響で血管が広がり、その血管を取り巻いている神経が刺激されて痛みが起こると考えられています。血管を広げてしまう要素、片頭痛を起こしやすくしてしまう要素としては精神的・肉体的ストレス、過労、睡眠不足や過眠、過度の空腹や満腹、雨や台風の接近といった天候変化、人混み、強い音や光などが代表的です。女性の方が片頭痛の起こる頻度が高いため、女性ホルモンや遺伝の影響も指摘されています。


片頭痛の症状


片頭痛の主な症状は片側の側頭部に生じる強い痛みです。「片」頭痛という病名ではありますが、実際には両側頭部や眼の奥に痛みを感じることもあります。片頭痛の痛みは脈拍のリズムでズキズキと痛むことが多く、このような痛みを拍動性(はくどうせい)の痛みといいます。この痛みは緊張型頭痛などと比較すると強く、仕事や日常生活に支障をきたしてしまうほどです。


片頭痛の特徴に閃輝暗点(せんきあんてん)と呼ばれる独特の前兆症状が挙げられます。閃輝暗点は自分にしか見えない光や視野の欠損が現れるというものです。シンプルに表現すれば、片頭痛が現れる前に目の前が光でチカチカしたり一部が見えなくなったりするというものです。多くの方は閃輝暗点の光を「ギザギザがつながったような光」「トゲのような光が連続して見える」「光の歯車が現れる」などと表現されます(「閃輝暗点」の画像検索結果はこちら)。閃輝暗点以外にも片頭痛が起こる前に身体の重だるさ、眠気、感情の乱れ、過食衝動などが現れることもあります。


片頭痛にはしばしば随伴症状がみられる点も特徴といえます。片頭痛の主な随伴症状としては吐気や嘔吐、胃もたれ、頭痛がないときは気にならないような音・光・臭いなどに対して過敏になるといったものが挙げられます。 随伴症状とはやや異なりますが、片頭痛の痛みは身体を動かすとより強くなる傾向があるので寝込んでしまったり、活動の積極性が低下する傾向があります。


片頭痛の西洋医学的治療法


西洋薬を使用した片頭痛の治療は大きく分けて2種類の薬が使用されます。まずは一般的に市販もされている鎮痛薬が挙げられます。代表的な鎮痛薬はロキソニン、バファリン、カロナール、ボルタレンなどが代表的です。そしてもうひとつはトリプタン製剤と呼ばれる片頭痛に特化したタイプの薬です。トリプタン製剤は主に血管を収縮させたり、痛みを感じさせる物質を抑制させることで効果を発揮します。


両者は優秀な薬ですが、鎮痛薬の多くは胃腸の粘膜に負担をかけて胃潰瘍や十二指腸潰瘍の原因にもなってしまいます。トリプタン製剤は血管を収縮させるはたらきがあるので高血圧症、脳血管障害、心筋梗塞や狭心症などを患っている方には基本的に使用できません。くわえて、これらの薬は高頻度に使用すると下記で解説します薬物乱用頭痛を引き起こす可能性があるので、慎重に使用されます。


薬物乱用頭痛について


薬物乱用頭痛は鎮痛薬を日常的に使い過ぎることによって起こる頭痛です。薬物乱用頭痛はしばしば鎮痛薬誘発性頭痛、反跳性頭痛、薬物誤用頭痛などとも呼ばれます。「薬物乱用」と聞くと覚醒剤や脱法ドラッグのようないわゆる禁止薬物を連想しがちですが、この場合の薬物は一般的な頭痛にもちいられる鎮痛薬を指しています。


薬物乱用頭痛のくわしいメカニズムはまだわかっていませんが、鎮痛薬を使用し過ぎることで耐えられる痛みのラインが徐々に下がってしまい、些細な痛みにも敏感になってしまうと結果と考えられています。薬物乱用頭痛の危険性が高まる状況として、鎮痛薬を1ヵ月のうちに10~15日以上服用し、それを3ヵ月以上継続すると起こりやすいといわれています。


慢性的な頭痛を患っている方でついつい気軽に鎮痛薬を服用されている方、痛みが起こる前から予防的に鎮痛薬を服用される方などは薬物乱用頭痛も混在しているタイプの頭痛となっている可能性もありますので充分な注意が必要です。


片頭痛の漢方医学的解釈


漢方の立場から片頭痛を考えるとその原因は大きく分けて3つが考えられます。ひとつは外邪の影響を受けて現れるケース。もうひとつは気の流れが悪くなって起こるケース。そして気の不足が原因となるケースです。この3つの原因以外にも片頭痛の引き金となる要素はありますが、どのようなケースでもこれらは少なからず片頭痛に関与していると考えられます。


まず外邪とは簡単に表現すれば寒さや暑さといった環境要因といえます。外邪は身体に侵入すると気血の流れを妨げて痛みを起こします。片頭痛において問題となりやすいのは風寒邪や風熱邪です。


気の流れが悪い状態、つまり気滞の状態は主に精神的なストレスが積み重なることで起こります。気滞による頭痛は側頭部に起こりやすい傾向があるので、片頭痛の場合は気滞の有無をしっかりチェックする必要があります。


気は巡りが悪くなる他に不足しても痛みが生じます。気が不足した気虚と呼ばれる状態になると頭部を充分に栄養することができずシクシクとした鈍い痛みが繰り返し起こるようになります。


解説しきれませんでしたが、これら以外にも血や津液の巡りが悪くなってしまったことによる頭痛も存在します。しかし、多くの場合において片頭痛は上記3つのケースが複雑に関連し合って起こっています。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いた片頭痛の治療


漢方薬による片頭痛の治療は痛みを起こしている原因によって大きく異なってきます。風寒邪などの外邪が繰り返し侵入していると考える場合は外邪を発散させる漢方薬。精神的なストレスによって片頭痛が悪化するようなら気の巡りを改善する漢方薬。そして、疲労によって痛みが現れるようなら気を補う漢方薬がそれぞれ適しています。各原因による痛みはその現れ方が異なりますので、それらを手掛かりに治療法を導いてゆきます。


秋から冬の寒い季節に片頭痛が起こりやすい、首や肩のこわばりや凝りも強い場合は風寒邪を追い出す麻黄、桂枝、細辛、生姜、紫蘇葉といった辛温解表薬を多く含む漢方薬が選択されます。頭の痛みにくわえてほてり感や張り感、眼の充血などがみられるなら風熱邪を追い出す葛根、柴胡、薄荷、連翹、升麻といった辛涼解表薬を配合した漢方薬が有効です。


精神的なストレスが溜まっている方、イライラ感とともに顔面の紅潮、ほてり、めまい、そして割れるような強い拍動性の痛みが現れるケースでは気の巡りを改善する柴胡、厚朴、半夏、薄荷、枳実、香附子などの理気薬を豊富に含む漢方薬が適しています。


疲れがたまる夕方から夜にかけて痛みが目立つ、昔から食が細く風邪をひきやすいような方には気を補う人参、黄耆、白朮、大棗、甘草に代表される補気薬を中心とした漢方薬を服用するのがよいでしょう。


現実的には単一の原因で片頭痛が起こっているケースは稀であり、患っている方の状態をしっかりと把握してバランスよく漢方薬を調合する必要があります。さらに生活環境や季節の変化も考慮する必要があります。


生活面での注意点と改善案


片頭痛は血管が広がることで痛みが起こるので、血管を収縮させることと血管を広げないようにすることが大切になります。実際に痛みが起こっているときは強い光や音といった強い刺激のない場所で休みましょう。


安静にしつつこめかみの部分を保冷材などで冷やしたり、手で押さえることが有効です。コーヒーや日本茶に含まれているカフェインは血管収縮作用があるのでこれらを飲むのもよいでしょう。逆に入浴や運動は痛みを強くしてしまうので控えましょう。


片頭痛を起こしやすくする食品としてはチョコレート、アルコール(特に赤ワイン)、チーズやヨーグルトに代表される乳製品、ハムやソーセージ、かんきつ類などが有名です。生活面においては睡眠不足や過眠、空腹や満腹、刺激の強い人混みなどが片頭痛を引き起こす要因になりえます。


一方ですべての人が挙げてきた要因で片頭痛が誘発されるわけではなく、とても個人差が大きいことが知られています。したがって、自身でどのようなケースにおいて片頭痛が起こりやすいかを日ごろから意識しておくことが大切です。


片頭痛の改善例


患者は50代前半の男性・会社役員。管理職として主に人事を担当しており、5~6年前から異動の計画を練るころになると細い釘が刺し込まれるような片頭痛が起こるようになった。度重なる面接など神経を使う仕事が重なる時期でもあるので「半ば、仕方がないと思っていた」という。しかし、年齢とともに体力の低下もあり、片頭痛によって仕事への影響が無視できなくなった。


当薬局へご来局されたときはすでに病院から薬が処方されており、その薬である程度は痛みのコントロールができていました。そのために片頭痛が出やすい繁忙期以外にも予防的に服用するようになっていました。しかしながら、完全に痛みを除くことはできず医師からも薬に頼り過ぎないように注意も出ていました。


くわしくご症状をうかがうと片頭痛は繁忙期以外にも強い日差しに当たった後にも起こりやすいという。片頭痛以外にも眼の疲れや充血も顕著で、いつも複数の目薬を鎮痛薬と一緒に持ち歩いているのだと薬専用のポーチを見せてくれました。


この方には精神的ストレスを緩和する、気の巡りを改善する柴胡や熱を鎮める山梔子などを含む漢方薬を服用していただきました。漢方薬以外ではどんなに忙しくても睡眠時間を最優先で確保するようにお願いしました。


漢方薬を服用して1ヵ月で眼の充血や疲れがなくなり、目薬を使う頻度がとても減ったとのこと。同じ漢方薬で4ヵ月が経過すると病院の薬を服用しなくても「痛みが現れてもなんとか仕事に支障が出ない、ギリギリのラインまで痛みが弱くなってきた」とのこと。


しかしながら、完全には痛みは除かれず「痛みの雰囲気が変わり、鋭さより鈍いような重いような痛みがある」という。痛みが現れやすいタイミングはやはり日に当たった外出後でした。そこで痛みの引き金が疲労、つまり気の低下と考え直して気を補う人参や黄耆を中心とした漢方薬へ変更。


新しい漢方薬にして3ヵ月程度が経つと重だるいような痛みも1/4程度にまで改善されていました。一方で面接や書類作成が積み重なる繁忙期になると「釘が刺さるような痛み」が出やすくなるので、最初に調合した気を巡らす漢方薬と後の気を補う漢方薬を時期や痛みの種類によって使い分けて頂くことにしました。


漢方薬を開始してほぼ1年が経つと病院の片頭痛の薬をほとんど服用せず、眼のトラブルも含めて漢方薬のみでご症状を抑えることが出来るようになりました。肉体的な体力の衰えを感じる頻度も減ったということもあり、この方には引き続き2種類の漢方薬を継続して頂いています。


おわりに


片頭痛の痛みは肩や首の凝りから起こる緊張型頭痛と比較して重く鋭いものといわれています。痛みによって仕事や家事に支障が出てしまうケースも多く、生活の質を大きく下げてしまう病気といえます。


近年、病院でもちいられる新型の薬によって片頭痛の治療は大きく進歩しました。その一方で新型の薬でも効果が出ない方や副作用によって継続的な使用が難しい方もいらっしゃいます。そのような方を中心に漢方薬は有力な選択肢といえます。慢性的な片頭痛にお困りの方は是非一度、当薬局へご来局ください。

【 痔核(いぼ痔) 】と漢方薬による治療

痔について


痔とは肛門とその周辺で起こる病気の総称であり、主に痔核(いぼ痔)、裂肛(切れ痔)、痔ろう(あな痔)を含んだものといえます。これらは「痔」というひとつの病気にまとめられていますが、その症状や原因は大きく異なります。本ページでは痔核(いぼ痔)について解説を進めてゆきます。


なお、裂肛(切れ痔)については裂肛(切れ痔)と漢方薬による治療、痔ろう(あな痔)については痔ろう(あな痔)(肛門周囲膿瘍を含む)と漢方薬による治療のページをご参照ください。


肛門の構造について


肛門は主に肛門括約筋(こうもんかつやくきん)の開閉によって排便をコントロールしています。肛門括約筋の上部(身体のより内側)には歯状線(しじょうせん)と呼ばれる直腸と肛門を隔てる「境界」のようなくぼみがあります。この歯状線の上部は痛みを感じにくい直腸粘膜になっており、下部の肛門上皮には知覚神経が存在するので痛みに敏感な部分となっています。


痔核(いぼ痔)とは


痔核(いぼ痔)は直腸や肛門の静脈がうっ血することで生じる凸状のいぼを指します。歯状線からより上部にできたものが内痔核、より下部にできたものを外痔核と呼びます。痔核(いぼ痔)は男女ともに多く、3種類の痔のうち最も占める割合が高い痔でもあります。


痔核(いぼ痔)の原因


痔核(いぼ痔)の代表的な原因には慢性的な便秘、排便時の力み過ぎ、長時間の座位などが挙げられます。女性の場合は妊娠や出産をきっかけに発症することも多いです。特に便秘は直腸や肛門に対して継続的に圧力をくわえて血行を悪くしてしまうので、痔核(いぼ痔)だけではなく裂肛(切れ痔)においても主要な発症原因となります。したがって、しばしば痔核(いぼ痔)と裂肛(切れ痔)は併発する傾向があります。


その他にも下半身の冷え、精神的なストレス、長時間の自転車の運転、激しい運動、辛い物やアルコールの摂り過ぎなども血行を悪くしたり炎症を助長させてしまうので痔核の原因となる恐れがあります。


痔核(いぼ痔)の症状


痔核(いぼ痔)の症状はその発症する部分によって異なります。肛門のより奥にあたる直腸に生じる内痔核では痛みを感じることはほとんどありません。したがって、内痔核の主な症状は出血となります。内痔核が慢性化してしまうといぼが大きくなり肛門から脱出することもあります。この状態を脱肛(だっこう)と呼び、いぼが下着に触れるなどして不快感を覚えることで外痔核を患っていると自覚するケースもしばしばです。


外痔核は歯状線からより下部、肛門の近くに生じる痔核(いぼ痔)なので場所によっては初期の段階から指で触れることができます。外痔核の起こる場所は知覚神経が存在するので便の通過といった刺激で強い痛みを生じます。くわえて内痔核と同様に痔核(いぼ痔)に傷が生じるとそこから出血も起こります。


痔核(いぼ痔)の西洋医学的治療法


西洋医学的な痔核(いぼ痔)の治療は薬物療法と手術療法の2つに大別されます。薬物療法は主に痔核(いぼ痔)の原因となる便秘を改善する薬、そして炎症や痛みを抑える薬などがもちいられます。薬物療法は症状の軽い痔核(いぼ痔)に対して選択されます。


手術療法では直接的に痔核(いぼ痔)の除去が行われます。手術方法としては痔核(いぼ痔)の根元をクリップで固定し、血流をせき止めることで壊死を誘発する方法が挙げられます。他にも痔核(いぼ痔)に薬剤を注射して患部の退縮を促す方法もとられます。


痔核(いぼ痔)の漢方医学的解釈


漢方の視点から痔核(いぼ痔)を考えると、血の滞りと便秘が主な原因と考えます。この他にも食生活の乱れ(アルコールや辛いものの摂り過ぎ)は身体内に悪性の熱を生じ、患部の炎症が強まってしまいます。痔核(いぼ痔)を由来とする出血が続くと気血の不足も問題となります。したがって、肛門周辺の症状にばかり注目するのではなく全身的なケアも大切となります。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いた痔核(いぼ痔)の治療


漢方薬による痔核(いぼ痔)の治療は血の滞りである瘀血(おけつ)の除去と便通の改善が中心となります。血の巡りを改善する生薬としては桃仁、川芎、牡丹皮、紅花、延胡索などの活血薬が代表的です。便秘に対しては大黄、芒硝、麻子仁といった便通を促すものが繁用されます。一方で疲労感が強くて胃腸が弱いような方の便秘には、気の力を補って消化器の力を向上させる漢方薬も検討されます。


炎症が目立つ場合には黄連、黄芩、黄柏、山梔子、石膏といった清熱薬を多く含んだ漢方薬を、出血が顕著な場合は阿膠や艾葉といった止血作用の優れた生薬を含む漢方薬をもちいます。すでに貧血によるめまいや立ちくらみがある方には血を補う地黄や芍薬に代表される補血薬を止血作用のある生薬と組み合わせた漢方薬が良いでしょう。


痔核(いぼ痔)の治療は上記のように血の巡りや便秘の改善が中心となります。その一方で痔核(いぼ痔)の症状は意外かもしれませんが個人差が大きいので、患っている方の体質や生活環境も考慮して漢方薬は調合されます。


生活面での注意点と改善案


痔核(いぼ痔)の主な発症原因・悪化原因は便秘です。したがって、便秘対策は痔核(いぼ痔)のケアと直結します。朝食を摂らなかったりダイエットで食事量を極端に減らしてしまうと消化器の動きが鈍り、便秘になりやすくなってしまいます。


日頃から積極的に摂りたい食品としては海藻類や野菜といった食物繊維を豊富に含んだものであり、これらは便通をスムーズにしてくれます。逆にアルコール類や辛い物は患部を刺激してしまうので控えましょう。強いお酒と一緒に辛いキムチを摂るような食生活は痔全般にとって良くありません。


便秘改善にくわえて血行を良くすることも重要です。毎日の入浴は肛門周辺を清潔に保つことで感染を防ぐだけではなく血行改善が期待できます。長時間のデスクワークは肛門周辺を常に圧迫することになるので、意識的に立ち上がり軽運動を行うことが望ましいです。


痔核(いぼ痔)の改善例


患者は30代後半の男性・化粧品会社の研究員。職業柄、机に向かっている時間がとても長く大学院生のころから痔核(いぼ痔)を患っていました。場所は肛門のすぐそばで入浴中に触れることができる位置に「小豆くらいのポコッとした膨らみがあるくらいだった」とのこと。


特に大きな不具合はなく忙しくもあったので放置していましたが、排便後のトイレットペーパーに鮮血が付くようになり病院を受診。診察によって外痔核だけではなく内痔核もあることが分かりました。病院から処方された炎症を鎮める座薬を使用すると一時的には改善するもすぐに再発。手術も検討しましたが、再発する可能性もあると伝えられて一旦保留。当薬局にご来局へ。


ご様子を伺うと肛門に近接している外痔核は徐々に大きくなってしまい、痛みが起こるようにもなっていました。「仕事中は頻繁に座る位置をずらさないと痛みで落ち着かない」という。症状が急に悪化した時期は社内の一時的な異動でストレスがとても強かったとのこと(現在はもとのセクションに戻っている)。


この方には血を巡らすことを得意とする桃仁や牡丹皮を中心とする漢方薬を服用していただきました。くわえて外痔核には傷の回復を促進する軟膏の紫雲膏(しうんこう)を塗っていただくことに。漢方薬をはじめて2ヵ月が経つと外痔核の痛みはなくなり、発症当時の小豆サイズ以下にまで縮んでいました。


順当に回復していると考えて同じ漢方薬を調合していましたが、いぼの退縮と比較してなかなか便通後の出血が治まりませんでした。そこで止血作用に優れている阿膠や艾葉を含んでいる漢方薬に変更を行いました。


新しい漢方薬に変更して3ヵ月程が経過すると内痔核由来の出血は止まり、トイレットペーパーや便器に血が付くことはなくなりました。出血が止まったためか以前と比較して疲労も感じにくくなったとのこと。その後は痔核(いぼ痔)の再発予防の意味を含めて最初に調合した血の巡りをスムーズにする漢方薬に変更。椅子にはクッションを置いたり、意識して身体を動かすなどの改善策も効果を上げ、この方は痔核(いぼ痔)や出血が再び起こることなく過ごされています。


おわりに


痔核(いぼ痔)を含めた痔全般は命にかかわる病気ではありません。その一方で外痔核は特に痛みが強く現れやすく、患ってしまうとデスクワーク中心の方にとってはつらい病気といえます。内痔核が慢性化すると出血によって貧血に陥ってしまうケースもみられます。


漢方において痔核(いぼ痔)治療は患部にのみ着目するのではなく、血の巡りの状態を中心に全身のご症状やご体質をもとにして薬を調合します。このような西洋医学とは異なったアプローチを行うことで慢性的な痔核(いぼ痔)の改善に良い結果が出ております。なかなか改善されない、または再発を繰り返してしまうような痔核(いぼ痔)にお困りの方は是非一度、当薬局へご来局ください。

【 裂肛(切れ痔) 】と漢方薬による治療

痔について


痔とは肛門とその周辺で起こる病気の総称であり、主に痔核(いぼ痔)、裂肛(切れ痔)、痔ろう(あな痔)を含んだものといえます。これらは「痔」というひとつの病気にまとめられていますが、その症状や原因は大きく異なります。本ページでは裂肛(切れ痔)について解説を進めてゆきます。


なお、痔核(いぼ痔)については痔核(いぼ痔)と漢方薬による治療、痔ろう(あな痔)については痔ろう(あな痔)(肛門周囲膿瘍を含む)と漢方薬による治療のページをご参照ください。


肛門の構造について


肛門は主に肛門括約筋(こうもんかつやくきん)の開閉によって排便をコントロールしています。肛門括約筋の上部(身体のより内側)には歯状線(しじょうせん)と呼ばれる直腸と肛門を隔てる「境界」のようなくぼみがあります。この歯状線の上部は痛みを感じにくい直腸粘膜になっており、下部の肛門上皮には知覚神経が存在するので痛みに敏感な部分となっています。


裂肛(切れ痔)とは


裂肛(切れ痔)とは肛門の皮膚(肛門上皮)が切れてしまった状態を指します。肛門上皮には痛みを感じる知覚神経が通っているので、裂肛(切れ痔)の主な症状は痛みと出血になります。裂肛(切れ痔)は便秘が主な原因となり、この点は痔核(いぼ痔)と共通しています。したがって、裂肛(切れ痔)は痔核(いぼ痔)と併発するケースがしばしばみられます。


裂肛(切れ痔)は比較的、女性に起こりやすいタイプの痔です。これは男性よりも女性の方が体質的に便秘になりやすいからと考えられています。くわえて肛門括約筋の力がより強い、肛門がより締まりやすい若年層が患いやすいです。


裂肛(切れ痔)の原因


裂肛(切れ痔)の主な原因は慢性的な便秘です。これは固い便が肛門上皮を通過する際に同部を傷つけてしまうからです。裂肛(切れ痔)は排便時に強い痛みが起こるので、裂肛(切れ痔)を患っている方は排便を我慢しがちになってしまいます。そうなると便秘は悪化し、固い便が肛門上皮によりダメージを与えてしまいます。


裂肛(切れ痔)の主な原因は便秘でしたが、下痢もその原因となります。これは下痢が長く続くと肛門上皮に炎症が起こりやすくなり、結果的に炎症の生じている部分がもろくなってしまうからです。したがって、裂肛(切れ痔)は便秘と下痢を含めた便通トラブル全般によって引き起こされる病気といえます。


裂肛(切れ痔)の症状


裂肛(切れ痔)の特徴的な症状は鋭い痛みと出血です。発症初期のころは痛みが生じるのは排便時や排便直後ですが、慢性化すると排便に関係なく痛みが起こります。裂肛(切れ痔)による出血量は多くはありませんが、長期間放置すると貧血になってしまう恐れもあります。


裂肛(切れ痔)を繰り返してしまうと次第に患部が盛り上がり、肛門ポリープを形成してしまうこともあります。肛門ポリープは通常の肛門上皮と比較して伸縮性が弱く、便の通り道が狭くなってしまいます。結果的に排便をさまたげられ、便秘をより悪化させてしまいます。このような状態を肛門狭窄(こうもんきょうさく)と呼びます。


裂肛(切れ痔)の西洋医学的治療法


裂肛(切れ痔)の西洋医学的な治療は薬物療法と手術療法に分けられます。薬物療法では便秘を改善する薬、痛みや炎症を鎮める薬、そして細菌感染を防ぐ抗生物質などが治療の中心となります。手術療法は主に中程度から重度の裂肛(切れ痔)に対して行われます。その内容としては狭窄が顕著な場合は肛門の拡張、傷が深い場合は患部の縫合が実施されます。


裂肛(切れ痔)の漢方医学的解釈


漢方の視点から裂肛(切れ痔)を考えると、便秘と血の滞りが主な原因と考えます。前者の便秘はイメージ通りだと思いますが、漢方において傷や打撲で生じる病変は血がうまく巡っていない状態ととらえます。裂肛(切れ痔)では高頻度で出血を伴うので、血の消耗も見逃せない問題となります。


この他にも食生活の乱れ(アルコールや辛いものの摂り過ぎ)は身体内に悪性の熱を生じ、患部の炎症が強まってしまい治療を難しくします。したがって、肛門周辺の症状にばかり注目するのではなく全身的なケアも大切となります。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いた裂肛(切れ痔)の治療


漢方薬による裂肛(切れ痔)の治療は便秘の改善と血の滞りである瘀血(おけつ)の除去が中心となります。便秘に対しては大黄、芒硝、麻子仁といった便通を促す生薬を多く含んだ漢方薬が使用されます。一方で胃腸虚弱で疲れやすい体質の方の便秘に対しては気の力を補って消化器の力を向上させる、排便する力を向上させる漢方薬がより適しています。


血の巡りを改善するには桃仁、川芎、牡丹皮、紅花、延胡索などの活血薬を豊富に配合した漢方薬がもちいられます。特に延胡索(えんごさく)は鎮痛作用にも優れているので痛みの強い裂肛(切れ痔)に適しています。


患部の炎症が目立つ場合には黄連、黄芩、黄柏、山梔子、石膏といった清熱薬を多く含んだ漢方薬を、出血が顕著な場合は阿膠や艾葉といった止血作用の優れた生薬を含む漢方薬をもちいます。すでに貧血によるめまいや立ちくらみがある方には血を補う地黄や芍薬に代表される補血薬を止血作用のある生薬と組み合わせた漢方薬が良いでしょう。


裂肛(切れ痔)の治療は上記のように便秘や血の巡りの改善が中心となります。その一方で裂肛(切れ痔)の症状は意外かもしれませんが個人差が大きいので、患っている方の体質や生活環境も考慮して漢方薬は調合されます。


生活面での注意点と改善案


裂肛(切れ痔)の主な発症原因・悪化原因は便秘です。したがって、便秘対策は裂肛(切れ痔)のケアと直結します。朝食を摂らなかったりダイエットで食事量を極端に減らしてしまうと消化器の動きが鈍り、便秘になりやすくなってしまいます。


日頃から積極的に摂りたい食品としては海藻類や野菜といった食物繊維を豊富に含んだものであり、これらは便通をスムーズにしてくれます。逆にアルコール類や辛い物は患部を刺激してしまうので控えましょう。強いお酒と一緒に辛いキムチを摂るような食生活は痔全般にとって良くありません。


便秘改善にくわえて血行を良くすることも重要です。毎日の入浴は肛門周辺を清潔に保つことで感染を防ぐだけではなく血行改善が期待できます。長時間のデスクワークは肛門周辺を常に圧迫することになるので、意識的に立ち上がり軽運動を行うことが望ましいです。


裂肛(切れ痔)の改善例


患者は30代前半の女性・中学校教師。20代後半に出産を経験し、その頃から裂肛(切れ痔)ができやすい体質になってしまいました。最初のうちはあまり気にしていませんでしたが出産から1年が過ぎた頃になると裂肛(切れ痔)による出血がトイレットペーパーにしばしば付着するように。痛みも激しく「トイレのたびにビリリッと電気が走ったような痛みがある」という。次第に長時間座っているのがつらい状態にまで悪化してしまいました。


困り果てて当薬局にご来局される頃には裂肛(切れ痔)だけではなく、ボコッと5ミリくらいの痔核(いぼ痔)が形成され、そこからも出血して下着が汚れてしまうことも。仕方なく勤務中などは生理用パットを常に着用するまでになっていました。


この方は便秘をきっかけに血の巡りが妨げられてしまったと考え、血流を改善する生薬である桃仁や延胡索に加えて止血効果のある阿膠と艾葉から構成される漢方薬を服用して頂きました。それと併せて皮膚の再生を促す紫根を中心とする軟膏剤である紫雲膏(しうんこう)を患部に塗ってもらうことにしまいた。生活習慣の面においては炎症を助長する刺激物(アルコール類や辛い物など)などの摂取を控えるようお伝えしました。


漢方薬を服用し始めて4ヵ月が経過する頃には裂肛(切れ痔)による痛みは半分程度にまで改善されていました。トイレットペーパー越しからもわかる大きさであった痔核も小さくなったとのこと。漢方薬にくわえて職員室でデスクワークを行うときは円形クッションを使うなど生活面の改善も功を奏したと考えられます。一方でまだ出血が残っており、やや貧血気味で立ちくらみがあるとの訴えがあったので血を補う地黄や芍薬などから構成される漢方薬に変更へ。


この漢方薬を服用して約3ヵ月が経った頃には切れ痔(裂肛)からの出血も無くなり、トイレットペーパーがピンク色っぽく変色することもなくなりました。痔核(いぼ痔)自体も凸状に出てくることなく、下着に当たって痛むことはなくなりました。新しい漢方薬の方が便通もスムーズということもあり、現在も予防の意味も込めて同じ服用を継続していただいています。


おわりに


裂肛(切れ痔)になってしまうきっかけは便秘を中心とした便通のトラブルでした。これにくわえて精神的なストレスによって裂肛(切れ痔)になってしまうケースも少なからず見受けられます。ストレスは下痢や便秘を繰り返す過敏性腸症候群に代表される、消化器系の不調を起こす原因となります。結果的に精神的な負担によって裂肛(切れ痔)になりやすい環境が生まれてしまうのです。


慢性的なストレスは現代人にとって避けることのできない問題です。したがって、裂肛(切れ痔)は現代病としての側面もあるといえます。漢方薬をもちいた裂肛(切れ痔)の治療はこのような精神面へのケアも含めて、心身全体を視野に入れて治療を行います。長患いの裂肛(切れ痔)にお困りの方は是非一度、当薬局へご来局ください。

【 痔ろう(あな痔)(肛門周囲膿瘍を含む) 】と漢方薬による治療

痔について


痔とは肛門とその周辺で起こる病気の総称であり、主に痔核(いぼ痔)、裂肛(切れ痔)、痔ろう(あな痔)を含んだものといえます。これらは「痔」というひとつの病気にまとめられていますが、その症状や原因は大きく異なります。本ページでは裂肛(切れ痔)について解説を進めてゆきます。


なお、痔核(いぼ痔)については痔核(いぼ痔)と漢方薬による治療、裂肛(切れ痔)については裂肛(切れ痔)と漢方薬による治療のページをご参照ください。


肛門の構造について


肛門は主に肛門括約筋(こうもんかつやくきん)の開閉によって排便をコントロールしています。肛門括約筋の上部(身体のより内側)には歯状線(しじょうせん)と呼ばれる直腸と肛門を隔てる「境界」のようなくぼみがあります。この歯状線の上部は痛みを感じにくい直腸粘膜になっており、下部の肛門上皮には知覚神経が存在するので痛みに敏感な部分となっています。


痔ろう(あな痔)とは


痔ろう(あな痔)とは細菌感染による化膿によって肛門内と肛門外を結ぶ穴ができてしまう病気です。症状としては患部の腫れと痛み、膿の排出、高熱などが挙げられます。痔ろうの簡単なイメージとしては「肛門以外の穴が化膿によって肛門の近くにできてしまう病気」といえます。なお「痔ろう」という病名の漢字表記は「痔瘻」であり、「瘻」には「腫れ物」という意味があります。


細菌感染は多くの場合、歯状線にある溝に便がたまることをきっかけに起こります。溝にたまった便に潜んでいる大腸菌などが化膿を起こし、そこに膿だまりである肛門周囲膿瘍(こうもんしゅういのうよう)が形成されます。この肛門周囲膿瘍が悪化し、成長してゆくといよいよ皮膚を破って肛門内から肛門外に続く穴ができてしまいます。これが痔ろう(あな痔)ができるまでの基本的な流れとなります。


痔核(いぼ痔)や裂肛(切れ痔)は便秘によって起こりやすくなる痔でした。一方の痔ろう(あな痔)は下痢が主な原因となります。これは液状の下痢の方が歯状線のくぼみに便が残りやすいからです。したがって、日頃から下痢になりやすい方、特定の病気によって下痢が慢性的に続いているような方は注意が必要です。


痔ろう(あな痔)の原因


痔ろう(あな痔)の主な原因は下痢です。慢性的な下痢を引き起こす病気に潰瘍性大腸炎やクローン病が挙げられます。したがって、潰瘍性大腸炎やクローン病を患っている方はしばしば痔ろう(あな痔)を併発してしまうことがあります。その他にもアルコールや辛い物の摂り過ぎ、精神的なストレス、免疫力の低下なども痔ろう(あな痔)の原因となります。


痔ろう(あな痔)が男性に多い理由としては飲酒機会の多さや食生活の乱れをきっかけとする下痢が女性よりも多い点が挙げられます。他にも精神的な緊張の高まりによって起こる過敏性腸症候群においても、女性は便秘の症状が現れやすいのに対して男性は下痢になりやすい傾向があります。


痔ろう(あな痔)の症状


痔ろう(あな痔)の主な症状は肛門周辺の腫れによる痛み、患部からの膿の排出、高熱などが挙げられます。 ある程度の膿が体外に排出されると一時的に症状はやわらぎます。しかし、歯状線付近にくぼむができていることに変わりはないので再び膿がたまってしまうことになります。つまり、痔ろうは一度発症するとなかなか改善の難しい痔といえます。


痔ろう(あな痔)の西洋医学的治療法


西洋医学的な痔ろう(あな痔)の治療はほぼ手術療法に限定されます。この点が痔核(いぼ痔)や裂肛(切れ痔)といった他の痔と異なる点です。手術の方法は直接的に痔ろう(あな痔)によって形成された穴をくりぬく方法や、特殊なゴムをもちいて徐々に穴をふさいでゆく方法などがとられます。


痔ろう(あな痔)の漢方医学的解釈


漢方の立場から痔ろう(あな痔)や肛門周囲膿瘍を考えると、その発症には身体内に生じている悪性の熱や気血の不足が関係しているケースが多いです。「悪性の熱」とは西洋医学的な発熱のことではなく暴飲暴食や精神的ストレスの蓄積などによって生じるものです。このような熱が身体内にこもっているとさまざまな炎症が起こりやすくなってしまいます。気血の不足は抵抗力の低下を引き起こし、感染が容易に広がってしまいます。


その他にも痔ろう(あな痔)と肛門周囲膿瘍による強い痛みには血の流れが悪くなっている瘀血(おけつ)の状態もかかわっています。気血の不足は消化器の不調や痔ろう(あな痔)以外の病気による体力の消耗などが考えられます。


このように個人によって痔ろう(あな痔)発症の原因やその後の経過は異なります。したがって、同じ痔ろう(あな痔)や肛門周囲膿瘍という病名の方でもその対応方法はそれぞれ異なることになります。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いた痔ろう(あな痔)の治療


漢方薬による痔ろう(あな痔)や肛門周囲膿瘍の治療は身体内にこもっている熱を除いたり、気血を補うことで抵抗力を底上げすることが中心となります。その他にも積極的に膿を排出したり、血の巡りを改善したりすることも大切となります。


患部の熱感や痛みが強い場合は熱を鎮める黄連、黄芩、黄柏、山梔子、石膏などの清熱薬を多く含んだ漢方薬がもちいられます。胃腸が弱く、下痢や軟便になりやすい方には消化器の状態を改善して気を補う人参、黄耆、大棗、白朮、甘草といった補気薬が配合されている漢方薬がより適しています。しっかりと気を補うことは痔ろう(あな痔)の再発防止にもつながります。


慢性的な患部からの出血や痔ろう(あな痔)が長患いになっている方は血の不足が心配されます。このようなケースでは地黄、当帰、芍薬、阿膠などの補血薬を必要になります。まだ膿が充分に出ていない場合は排膿作用に優れている桔梗や枳実を含んだ漢方薬をもちいます。


上記の他にも血の流れの改善や傷の回復を促進する漢方薬も状態によっては必要になります。このように痔ろう(あな痔)や肛門周囲膿瘍を患っている方の症状や体質、痔ろう(あな痔)以外のトラブルの有無などによっても治療方針は異なってきます。


生活面での注意点と改善案


一度、痔ろうが完成してしまうと生活習慣を変えるだけで好転させることは困難と言われています。その一方で再発防止の観点から生活の見直しは有効です。まず、痔ろう(あな痔)の主な原因は慢性的な下痢なので下痢対策がとても大切となります。アルコールや冷たい清涼飲料水の摂り過ぎ、野菜不足(食物繊維不足)の食生活には注意が必要です。くわえて過労や睡眠不足は免疫力を低下させ、細菌感染を起こりやすくしてしまいますので余裕を持った生活サイクルを心がけましょう。


痔ろう(あな痔)の改善例


患者は50代前半の男性・製薬会社の会社員。40代前半に一度、痔ろうを患い手術を行っていました。手術後数年間は安定した状態が続いていたとのことですが、地元の福岡を離れて東京に単身赴任をきっかけに痔ろう(あな痔)が再発してしまったという。


ご本人は「接待などでお酒を飲む機会も多くなり、仕事も忙しくて生活全体がやや乱れた時期だった」とのこと。再手術を検討しましたが、病院の提案する手術が3週間ほどの入院が必要ということでいったん保留。入院ができるくらい仕事量が落ち着くまで何かしたいと思いたち当薬局へご来局。


お話を伺うと患部から膿と腫れによる少々の痛みがあるとのこと。強く発熱することはない。最も気になるのは膿が下着を汚してしまうことでした。そこでこの方には膿の排出を促進する桔梗や枳実から構成される漢方薬を服用していただきました。くわえて接待でのお酒の量は極力減らすようお願いしました。


最初の1ヵ月は以前より多く膿が出たとのことですが徐々に量は減り、漢方薬の服用から3ヵ月が経過すると下着を汚してしまうことはなくなったとのこと。患部の痛みもこれに比例して減少。この段階で、もともと緊張すると腹痛や軟便になりやすいと伺っていたので筋肉の緊張を緩和する芍薬と肌の回復を促す黄耆を含む漢方薬を服用していただくことにしました。くわえて患部には傷の回復を促進する紫雲膏(しうんこう)を塗っていただくことに。


漢方薬を変更して4ヵ月程度が経つと、開口部だった部分の腫れも鎮まり痔ろう(あな痔)を自覚するような症状はほぼなくなりました。腹痛にくわえて便通もよくなり、一定の固さの便が1日1回に固定されたとのこと(以前は日によって2~3回の便通があった)。


この頃、季節は夏となり「毎年、梅雨になると夏バテしてお腹の調子も悪くなる」ということだったので、気を補い消化器の力を向上させる人参や白朮を含んだ漢方薬へ再変更。その後、梅雨の時期になっても顕著に身体が重くなったり以前のように軟便に戻ることなく過ごされました。


通算して漢方薬を1年弱服用した頃に単身赴任が終了し、自宅のある九州へ戻ることになりました。仕事も一時期の忙しさではなくなったことを契機に最初の手術を行った地元の病院を受診。すると「現状では特に手術の必要はない」という診断がおりたとのこと。


その後、漢方薬は梅雨の時期になるとご注文が入り福岡へ発送するパターンが続きました。家族のいる自宅からの通勤となり生活環境が好転したのも手伝ってか、肛門の周りに腫れが出ることなく今も過ごされています。


おわりに


痔ろう(あな痔)は痔核(いぼ痔)や裂肛(切れ痔)と比較すると発症の頻度は高くありません。その一方で発症すると治療が難しく再発もしやすいことが知られています。痔ろうに対して西洋医学的な治療法はほぼ確立していますが、場合によっては入院期間が数週間に及んでしまうこともあります。


社会人の場合、数週間とはいえ入院治療がすぐに行えないケースもあるでしょう。手術後も軟便が続き再発を心配されている方も少なくありません。痔ろうの治療は手術療法が最優先されますが、上記のようなケースの方で状態が好転するケースはしばしばです。慢性的な痔ろう(あな痔)や痔ろう(あな痔)手術後の体質改善をご検討の方は是非一度、当薬局へご来局ください。

【 舌痛症 】と漢方薬による治療

舌痛症とは


舌痛症(ぜっつうしょう)とは舌に器質的な異常がないのに痛みが起こる病気です。「器質的な異常がない」とは舌に傷や潰瘍などの眼に見える異常が存在しない状態という意味です。くわえて、炎症を感知するような臨床検査値にも異常は現れないため、舌痛症は客観的に有無や程度を把握するのが困難な病気といえます。


舌痛症の発症には男女比がみられ、更年期を迎える40~50代の女性に多いことが知られています。研究によって幅はありますが、女性の方が男性に比べて10倍近く発症しやすいという報告もあります。


舌痛症の原因


舌痛症の明確な原因はまだ明らかになっていません。一方で更年期の女性に多い点などからホルモンとの関連や遺伝的な要因が関係しているという説が挙げられています。くわえて精神的なストレスや歯科治療(入れ歯の挿入や矯正など)をきっかけに症状が悪化したり慢性化しやすいことが知られています。


純粋な舌痛症とは異なり、舌に痛みを起こす病気などは多岐にわたります。具体的には亜鉛や鉄分といったミネラル不足、ビタミンB12に代表されるビタミン不足、薬の副作用によるドライマウス、口の中が乾燥してしまうシェーグレン症候群や糖尿病、口内炎を起こすベーチェット病、帯状疱疹ウイルスやヘルペスウイルスへの感染、口腔カンジダ症などが挙げられます。舌痛症の診断を確定させるためにはこれらの可能性を排除する必要があります。


舌痛症の症状


舌痛症の痛みの現れ方やその表現には大きな個人差があります。そのなかでも焼けるようなヒリヒリ感と表わす方が多く、このことから舌痛症は口腔内灼熱症候群(こうくうないしゃくねつしょうこうぐん)、バーニングマウス症候群とも呼ばれます。


他にも針で刺されるようなチクチク感やピリピリ感があったり、痛む場所がコロコロと変わるケースもしばしばです。痛み以外にも味覚の低下、舌の乾燥感、しみるような感覚、しゃべりにくさ(ろれつが回らない)、食欲の低下、吐気、漠然とした違和感などを訴えられる方もいらっしゃいます。


痛みの強度も持続的であり日常生活や仕事が困難になるようなケースから、たまに痛む程度まで様々です。その一方で食事を摂っている時、睡眠時、発声時、午前中などでは痛みが軽快しやすいことが知られています。痛む場所は舌の先端である舌尖(ぜっせん)から側面の舌縁(ぜつえん)に到る「Uの字」に現れやすいです。


慢性的に痛みが強く現れる方の場合、精神的に追い込まれてうつ病を患われてしまうケースもあります。しかしながら、舌痛症からガンといった重篤な病気に繋がったり、他者にうつる(感染する)といった報告はないので過度な心配は禁物といえます。


うつ病ほどではなくても痛みによるストレスで胃痛や腹痛、首肩の凝り、頭痛、頭重感、眼精疲労、めまい、不眠、疲れやすさといった自律神経失調症と考えられる症状を訴えられる方もいらっしゃいます。


舌痛症の西洋医学的治療法


舌痛症の原因が不明なため、西洋医学的な治療法は確立されていません。一方で精神的なストレスで悪化する傾向が顕著な方に対しては、抗うつ薬や抗不安薬が持つ鎮痛効果を期待してしばしば用いられます。


具体的にはエビリファイ(一般名:アリピプラゾール)、ジェイゾロフト(一般名:セルトラリン)、ソラナックス(一般名:アルプラゾラム)、デパス(一般名:エチゾラム)、ランドセンやリボトリール(ともに一般名:クロナゼパム)、リーゼ(一般名:クロチアゼパム)、リフレックスやレメロン(ともに一般名:ミルタザピン)、ルボックス(一般名:フルボキサミン)などが挙げられます。


他にも神経のトラブルによって生じる痛みである神経障害性疼痛を鎮めるリリカ(一般名:プレガバリン)、ビタミンB12製剤であり末梢神経の傷を回復させるメチコバール、亜鉛を含んだ胃粘膜保護薬であるプロマック(一般名:ポラプレジンク)、その他にも胃酸を抑制する薬や副腎皮質ステロイド薬の軟膏剤などもしばしば使用されます。


舌痛症の漢方医学的解釈


漢方医学的な視点から舌痛症を考えると、何らかの原因で身体の内部で発生した熱が関与していると考えます。この熱は西洋医学的な体温計で測れる「熱(発熱)」を指しているのではなく、漢方独自の概念である「熱」となります。


具体的には精神的なストレスの蓄積、辛い物やアルコールの摂り過ぎ、感染症などによって引き起こされた熱が五臓六腑(ごぞうろっぷ)を侵し、結果的に舌の痛みを生じさせます。このケースの熱は実熱(じつねつ)に分類され、舌痛症にくわえてどの五臓六腑が障害されているかによって舌の痛み以外の症状が発生します。


他にも身体を適度にクールダウンする津液(しんえき)や血(けつ)といった物質が過労、慢性病に対する闘病、加齢などによって減少することで発生する熱も存在します。この場合の熱は身体に必要なものが虚したことで起こる熱なので虚熱(きょねつ)と呼ばれます。


さらに熱以外にも消化器の力が低下している脾虚(ひきょ)の状態でも舌に痛みが現れることがあります。経験的に舌痛症の痛みは挙げてきた複数の原因が重層的に絡んだ結果として起こっているという印象を受けます。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いた舌痛症の治療


舌痛症の原因が熱による場合、その熱を鎮める漢方薬をもちいることで痛みを除くことが出来ます。もし熱が虚熱の場合、津液や血を補う漢方薬が舌痛症の根本治療につながります。多くの場合、虚熱であっても少量の熱を鎮める生薬をもちいて、積極的に熱によって生じている痛みの軽減を図ります。


熱を抑える代表的な清熱薬(せいねつやく)としては黄連、黄芩、黄柏、山梔子、石膏などが挙げられます。これらの生薬を含む漢方薬は舌の灼熱感が強く、色は赤々としている実熱の舌痛症に有効であることが多いです。


津液を補う代表的な滋陰薬(じいんやく)には麦門冬、天門冬、枸杞子などが挙げられます。血を満たす補血薬(ほけつやく)には地黄、芍薬、当帰、酸棗仁、竜眼肉などが使用されます。これらを含む漢方薬は虚熱による舌痛症治療の中心となります。虚熱による舌痛症の特徴としては口腔内の乾燥感、舌がV字に痩せている、舌に深い溝がある点などが挙げられます。


他にも疲労感が強くて食が細い方には消化器の調子を改善する補気薬(ほきやく)を多く含んだ漢方薬も使用されます。このように舌痛症の治療には原因ごとに内容が異なった漢方薬が使用されることになります。


舌痛症の改善例


改善例1

患者は50代前半の女性・パート勤務。40代後半頃からしばしば舌の先にヒリヒリする違和感を覚え始めていました。一方で普段の生活に支障が出るわけでもなく、食事や会話に問題はなかったので症状は放置していました。


しかしながら、更年期障害と考えられる強いのぼせ感、イライラ感、寝つきの悪さ、重だるさなどが現れ始めると比例して舌の違和感も増大。徐々に熱感をともなう痛みに変わってゆきました。さすがに家事やパートの仕事をこなすのが辛くなり、婦人科を受診しました。


婦人科からは低用量ピルが処方され、服薬を開始。酷かったのぼせはだいぶ楽になり、その他の症状も緩和されました。一方で舌の痛みは変わらず、逆に食欲の増加と口臭が起こるようになってしまいました。婦人科からは心療内科も勧められましたが抵抗があり、漢方薬での治療を希望し当薬局へご来局。


ご症状を伺うと、舌の痛みは常にある一方で「何かを食べていると痛みが弱まるので、ついつい間食が多くなってしまった」とのこと。結果的に体重は増加傾向で、痛みが強くなり始めてから5~6kgは増えてしまったという。舌の状態は舌尖にやや赤みがあり、黄色くて厚い舌苔(ぜったい)がありました。


この方には過剰な熱を鎮める黄連や黄芩などから構成される漢方薬を調合しました。最初のうちは苦くて服用が大変だとこぼされていましたが、数ヵ月が経つと「逆に苦みで身体が引き締まるような気がする」と慣れられたご様子。舌の痛みは少しずつ軽減され、痛みを感じない時間帯もあるとのこと。間食も減ったので体重は2kgほど減りました。


同じ漢方薬を粘り強く継続して頂き、半年強が過ぎる頃になると舌尖の赤みは弱まり舌苔も薄く白色に変わりました。痛みも順調に緩和し、以前の弱い違和感を覚えるレベルにまで鎮まりました。くわえて「子供たちから口が臭いといわれなくなった」とのこと。


舌痛症が改善された後も漢方薬を服用していると些細なことでイライラすることも減り、睡眠も深くとれるようになったということで継続服用して頂いています。なかなか改善されなかった重だるさも体重が更年期障害発症前の水準まで減ると、大きく軽減されました。


改善例2

患者は40代後半の女性・大学職員。数年前から舌の側面に傷が出来ているような痛みが現れました。最初のうちは知らない間に舌を噛んでしまったかと思い、特にケアもせず過ごしていましたが痛みは消えませんでした。口内炎のたぐいかと考えて市販のビタミン剤を使用しても効果はなし。


定期的に歯のクリーニングで受診している歯科医に相談すると初めて舌痛症の可能性を指摘されました。紹介された内科で血液検査などを行っても異常は見られず、舌痛症と診断されました。内科からは少量の抗不安薬を処方されましたが、服用するとめまいでフワフワしてしまい継続できず、漢方薬での治療を希望し当薬局へご来局。


ご症状を伺うと舌の痛みは一定ではなく、職場で強くなりやすい傾向がある。痛む場所は舌の中央が多く「4~5本の極細の焼けた針でチュンチュンと突かれたような痛みがある」という。舌痛症以外の症状としては喉のつまり感、吐気、食欲の低下、腹部の張り、緊張のしやすさと気分の沈み、疲労感が挙げられました。


くわえて「今の職場は神経質な人が多くて、いつも空気がピリピリとしている」とのこと。さらに仕事以外にも同居している義理の母の介護も重なり、精神的な負担はかなり強い状態。舌の状態はやや厚い白色の舌苔があり、潰瘍や傷のような外観の異常はなし。顔色は青白く、体型はやせ形。


この方は気の滞りにくわえて気自体が不足していると考えました。そこで気をスムーズに巡らす香附子や蘇葉、気を補う人参や白朮などから構成される漢方薬を調合しました。くわえて気の流れを良くするため、疲れを持ち越さない程度にウォーキングをお願いしました。職場でも何か理由を付けて歩いてもらい、座りっぱなしは避けて頂きました。


漢方薬を服用して3ヵ月程が経過すると徐々に食欲が高まり、吐気や喉が塞がったような不快感は薄れてゆきました。一方で痛みに大きな変化はありませんでした。変更も考えましたが、ご本人が「すぐに疲れて横になることも減り、少しずつ体力的にも精神的にも楽になってきている」とおっしゃられたので同じ形で継続。


さらに数ヵ月が経つと舌の真ん中に生じていた痛みの範囲が小さくなり、緊張が高まる場面でも以前ほど痛みが気にならなくなりました。引き続き、消化器を含めた体調全般が安定していたのでその後も同様の漢方薬を服用して頂きました。


最終的には1年半ほど漢方薬を続けて頂き、舌痛症による痛みはほぼ消失。仕事中はいつも緊張して身体に力が入っている不快な感覚がありましたが、そちらも楽になりました。その後は消化器重視のケースと緊張緩和重視のケースで漢方薬を使い分けしつつ、舌痛症を再発することなく過ごされています。


おわりに


舌痛症は視覚的にも血液検査などを受けても異常が発見できない病気です。舌痛症のくわしいメカニズムも明らかにされていないこともあり、西洋医学的な治療が困難な病気のひとつといえます。そのため、様々な医療機関や診療科を受診しても症状が改善されず、途方に暮れている方も少なくありません。


漢方薬の治療は病名や西洋医学的な原因に縛られず、患っている方のご症状と体質からアプローチすることが可能です。漢方薬を服用し始めてからご体調が好転する方がとても多くいらっしゃることから、舌痛症と漢方薬は「相性」が良いと実感しています。是非一度、舌痛症にお悩みの方は当薬局にご来局くださいませ。

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