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【 心因性発熱 】と漢方薬による治療

心因性発熱とは


心因性発熱とは精神的なストレスが原因となって現れる発熱です。発熱の仕方は高温の発熱が急に始まり、ストレスが緩和されるとスッと治る方から慢性的に微熱が続く方までさまざまです。心因性発熱の特徴として西洋医学で用いられる解熱薬がうまく効かないことが挙げられます。これは心因性発熱がストレスによる交感神経の興奮によるものであり、解熱剤はこの交感神経を鎮める作用を持っていないからです。


心因性発熱の原因


心因性発熱は精神的ストレスにより自律神経のひとつである交感神経が興奮する結果、現れると考えられています。交感神経とは身体のはたらきを活発化させる神経であり、自分の意志でその働きをコントロールすることは基本的にできません。心因性発熱の原因となる精神的なストレスとは学校や会社での人間関係、テストや仕事、家庭内のトラブルなど、その方が負担と感じられていることが幅広く当てはまります。


心因性発熱の場合、風邪やインフルエンザによる発熱と異なり病院の血液検査に異常が現れないので「原因不明」「異常は無し」と診断されてしまうこともしばしばです。臨床検査値で問題がなく、一方で精神的なストレスに心当たりがある場合は心因性発熱の可能性が浮上します。


心因性発熱の症状


心因性発熱の症状はその名前の通り、発熱を中心としたものになります。発熱にくわえて「発熱」自体に過剰なエネルギーを消費するので結果的に疲労感、気力の低下、頭痛、めまいなどが起こりやすくなります。


慢性的に発熱が起こることによる不安感、憂うつ感、イライラ感も軽視できません。これら自体が新たな精神的ストレスの原因となり、より心因性発熱の症状を悪化させてしまうことがあるからです。したがって、心因性発熱は「発熱」による身体症状だけではなく、心身に悪影響を及ぼす病気と考えることができます。


心因性発熱の西洋医学的治療法


心因性発熱の場合、一般的な解熱薬では改善は見込めません。人体は細菌やウイルスなどが侵入した場合、それらに反応してプロスタグランジンや炎症性サイトカインと呼ばれる物質がつくられます。プロスタグランジンなどは体温を上昇させるはたらきがあり、熱に弱い病原体は体温上昇によって弱体化します。


西洋医学における解熱薬は発熱や炎症を促すこれらの物質が身体内でつくられることを防ぐ作用を持っています。一方で心因性発熱のケースは交感神経の興奮という「別ルート」で現れる発熱でした。したがって、風邪薬などに含まれる解熱成分で発熱を治療するのは難しいのです。


上記の理由から西洋医学的には心因性発熱に対して気分を落ち着ける安定剤などが治療の中心となります。心因性発熱以外にも精神的な疾患(不眠症やパニック障害)がある場合、それらを治療することが結果的に心因性発熱を改善することもあります。


心因性発熱の漢方医学的解釈


漢方医学において心因性発熱は主に肝気鬱結(かんきうっけつ)を原因として起こる症状と考えることができます。肝気鬱結とは精神的なストレスによって五臓六腑における肝の気の巡りをスムースにするはたらきが機能不全を起こした状態といえます。


うまく身体内を流れずに滞ってしまった気はやがて熱を持ち、肝火上炎や心肝火旺と呼ばれる症状を呈します。具体的には不安感やイライラ感、不眠症などの精神症状です。それらにくわえて顔面紅潮、ほてり感、頭痛、めまい、耳鳴り、動悸、胸苦しさ、胃痛、腹痛、下痢、便秘、さらには生理不順や生理痛など多彩な症状が起こりえます。心因性発熱のケースは上記の諸症状のうち、発熱を中心とした症状が顕著にあらわれたものと考えられます。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いた心因性発熱の治療


漢方薬を用いての心因性発熱の治療は気の巡りを改善し、くわえて気が帯びている熱を鎮めることが中心となります。具体的には気の流れを改善する柴胡、厚朴、半夏、薄荷、枳実、香附子などの理気薬が中心となった漢方薬を用います。心因性発熱治療の核となる理気薬は現代風に表現すれば「抗ストレス薬」ともいえる存在です。したがって、それらを含んだ漢方薬は心因性発熱の根本治療につながります。


さらに熱症状が顕著な場合は黄連、黄芩、黄柏、山梔子、石膏といった熱を冷ます清熱薬を多く含んだ漢方薬も検討されるでしょう。くわえて熱によって血や津液が消耗しているようでしたらそれらを補う必要も出てきます。


このように心因性発熱という病名だけで漢方薬は決定できません。あくまでも心身に現れているさまざまな症状(心因性発熱の場合は特に倦怠感、頭痛、不安感、不眠、集中力の低下などが代表的です)に基づいて決められます。


生活面での注意点と改善案


西洋医学的に心因性発熱の原因は精神的ストレスによる交感神経の興奮と考えられています。この点は漢方医学においても同様です。したがって、心因性発熱と診断された場合、自身の症状は精神的なストレスが関わっているということを理解し、過度に心配したり無理をしないことがとても大切です。


日々をリラックスして過ごすことが心因性発熱を改善するうえでは欠かせません。具体的には睡眠時間や休日の確保はリラックスにくわえて、発熱によって消耗した体力を回復するためにも重要です。仕事や家事などの「しなければならないこと」もあまり溜め込まず、完璧主義からは一時的にでも距離を置くべきです。


心因性発熱の改善例


患者は30代後半の男性・会社員。20代後半から仕事で少々の無理をするとほてり感と倦怠感が現れて困っていたとのこと。最初はその度に風邪をひいていると思い、特に気にしてはいなかったが30代になり、ご症状が悪化。疲れがたまってくる毎週末に発熱するようになってしまった。仕事にも影響が出てしまうため、内科を受診するも異常は無し。後に勤務している会社の産業医から心因性発熱と診断された。


心因性発熱と診断された後はできる限り残業などは避けてリラックスを心がけるも、完全にご症状は無くならず当薬局へご来局。ご様子を伺うと頻繁に現れる37.2~37.5℃の発熱、疲労感、頭痛、眼の充血と眼精疲労、イライラ感が顕著とのこと。


この方にはまず気の巡りを改善する柴胡、過剰な熱を鎮める黄芩、精神状態を安定させる牡蛎などから構成される漢方薬を服用して頂きました。くわえて生活面では辛い物やアルコールを控えめにし、睡眠不足にはならないようお願いしました。


この漢方薬を服用して4ヵ月ほどが経つと仕事に支障が出るほどの目立つ発熱は無くなり、だいぶ体力的に余裕が出てきました。その後は発熱がなくなった分、仕事による疲労感が気になりだしたということでしたので、人参や地黄といった気血を補う漢方薬に変更しました。


漢方薬を変更した後も発熱は無く、疲労感も軽くなるということで同じ漢方薬を継続して服用して頂きました。その後も繁忙期やストレスの多い時期などは初回に調合した漢方薬に再変更したりと調節を行いながら、この方は心因性発熱に悩まされることはほぼ無くなりました。


おわりに


心因性発熱の原因は精神的ストレスという現代社会に生きるうえでは誰しも避けられないものです。ほてり感や倦怠感がよりストレスになり、心因性発熱が悪化する負のスパイラルに陥ってしまう方も多く見受けられます。漢方薬は心因性発熱の発熱にのみに着目するのではなく、心身全体をケアすることが可能です。心因性発熱にお困りの方はぜひ一度、ご来局頂ければと思います。

【 咬爪症(爪噛み) 】と漢方薬による治療

咬爪症(爪噛み)とは


咬爪症(こうそうしょう)とはその字の通り、爪(つめ)を咬(か)んでしまう症状を指します。しばしば咬爪症はネイルバイティング(Nail biting)やオニコファジー(Onychophagy)とも呼ばれます。咬爪症において多くのケースでは爪だけではなく、爪の周りの皮膚も噛んでしまったり、その爪や皮膚を食べてしまう傾向も見られます。一方で爪を噛む行為自体は多くの人に見られ、特に小学校の低学年くらいの児童では珍しいものではありません。


学童期以降、成人になっても爪を噛むことがやめられない場合はその背景に精神的なストレスが存在するとも考えられています。 爪噛みという行為には精神状態を安定させる効果があるとの指摘はあります。一方で咬爪症には衛生的な問題、さらには美容的な問題も生じます。咬爪症の症状が深刻な場合は「ただの癖」で処理せず、治療の必要性が出てきます。


咬爪症はしばしばチック症や抜毛症などと併せて現れることがあります。チック症の治療に関してはチック症(トゥレット症候群を含む)と漢方薬による治療、抜毛症に関しては抜毛症(抜毛癖)と漢方薬による治療をご覧ください。


そしてやや脱線してしまいますが「かむ」という字には「咬む」と「噛む」が存在します。前者の「咬む」は歯と歯を合わせる「かむ」なのに対して、後者の「噛む」は歯で(歯以外の)物をかむことを指しています。したがって、本ページではこの定義に従って「咬」爪症という病名は登場しますが、「爪を咬む」ではなく「爪を噛む」という形で表記してゆきます。


咬爪症(爪噛み)の原因


咬爪症の原因には精神的なストレスが関係していると考えられています。爪を噛んだり指をしゃぶったりする行為には精神状態を安定させる効果も指摘されています。したがって咬爪症は過度なストレスを発散させ、蓄積を防ぐ役割があるともいえます。その一方で誰しも精神的なストレスを受けることによって爪を噛む行為が現れるわけではありません。まだまだ咬爪症は謎が多い存在といえるでしょう。


咬爪症(爪噛み)の症状


咬爪症は自分の意志ではコントロールできない爪噛み行為です。しばしば爪だけではなく、周りの皮膚も噛んで傷付けてしまいます。噛んでしまう爪はほとんどの場合は手の爪ですが、足の爪にも症状が及ぶこともあります。


咬爪症の問題は噛んだ爪や皮膚を傷つけてしまうだけではなく、噛んだ結果として生まれてしまうとがった爪による「二次被害」も挙げられます。ゲジゲジと凹凸があるような爪は身体などをひっかいてしまうことも問題となります。深爪で充分な長さがないため手先に力が入らなかったり、傷口が水などに沁(し)みて痛みを伴うことで手を使う作業に制限が生まれてしまうこともあります。


手先は何かと人目に入りやすい部分でもあるので美容の観点からも好ましくはありません。特に女性においては爪も個性を表現する「場」でもあります。咬爪症はネイルデザインにも大きな制約が出てしまうことも「症状」のひとつと捉えられるでしょう。このような特徴から咬爪症は医療業界よりもネイルサロン業界でとても有名な症状でもあります。


咬爪症(爪噛み)の西洋医学的治療法


西洋医学において咬爪症の治療法は確立されてはいませんが、主にストレスの緩和に主眼が置かれています。したがって、治療薬としては心療内科において精神を安定させる薬が用いられることが多いようです。


咬爪症(爪噛み)の漢方医学的解釈


漢方医学的に爪噛みという行為は精神的なストレスなどによって気が滞ってしまった結果と考えられます。この気がうまく流れない病能を気滞(きたい)と呼びます。気の流れが悪くなると過度な緊張感や不安感が高まり、身体においては喉や胸の圧迫感、腹部の張り感、吐気、胃痛や腹痛、便通の異常、女性の場合は生理不順や生理痛などさまざまな症状が現れます。


気滞は気の不足や血の流れにも影響を及ぼします。したがって、咬爪症が現れている場合、他にもどのような症状が併せて起こっているのかを捉える必要があります。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いた咬爪症(爪噛み)の治療


咬爪症の原因が気の流れの停滞であった場合、その気を円滑に流すことが治療につながります。したがって、用いられる漢方薬は柴胡、枳実、陳皮、半夏、厚朴、香附子などの気を巡らす生薬(理気薬)を多く含んだものになります。


気が流れなくなると徐々に気の不足(気虚)も現れてきます。気虚に陥ると疲労感、重だるさ、気力の低下、食欲不振、冷えなどが起こりやすくなります。これらの症状が咬爪症と併せて見られるようならば気を補う生薬(補気薬)の人参、黄耆、大棗、白朮、甘草なども必要となってきます。


上記のように気滞を発端として血の滞り(瘀血)や水の滞り(痰湿)が見られる場合はそれぞれのケアも欠かせません。したがって、咬爪症という病名ではなく患っている方の症状や体質を見極めて治療に適している漢方薬が選択されます。


生活面での注意点と改善案


咬爪症の症状はしばしば精神的にも体力的にも余裕のない時に起こりやすい傾向にあります。具体的には仕事がうまくいっていない時、受験の勉強中、苦手な人とどうしても話さなければならないケースなどさまざまです。これらを回避するのは社会生活を営んでいるうえで不可能です。そこで可能な限り、日常から睡眠時間や休日は確保して心身両面の体力を確保することは咬爪症治療には欠かせません。


爪噛みはしばしば無意識のうちに起こってしまうので、特に噛み癖のある指にバンソウコウを貼って気付きを促すことも咬爪症の予防につながります。一方で咬爪症の歴史が長い場合、すぐに噛むのをやめるのは難しくストレスも溜まりやすくなります。そこで高頻度に使う利き手の爪を噛むのをまず我慢する、というように実現可能なハードルを設け、クリアしてゆくことが段階的な治療にもつながります。


咬爪症(爪噛み)の改善例


改善例1

患者は30代前半の女性・文筆業。爪を噛む癖は中学校受験の前から始まり、一時は落ち着いたものの試験勉強中などにしばしば現れていた。現在は雑誌にコラムなどを書く仕事に就いているが、行き詰ると爪噛みを止めることができず「ここ20年は爪切りを使ったことは無い」とのこと。時には爪両側の皮膚も剥いてしまい出血し、原稿に血痕がついてしまうこともしばしばという。


長い間、爪を噛む行為には悩んでいたところ、仕事を通じて「咬爪症」という病名を偶然知り治療を決意。心療内科を受診して安定剤の服薬を開始しましたが、眠気と集中力の低下で仕事に支障が出てしまいました。いくつか薬を変えても同様の状態であったので治療を中止。その後に当薬局へご来局されました。


お話を伺うと咬爪症のご症状は仕事中、特にペンが進まない時に顕著とのこと。他のご症状としては胃痛、イライラ感、首や肩凝りなどがありました。咬爪症以外ではストレスを感じた時の胃痛がつらいという。この方には気の巡りを改善する柴胡や薄荷などを中心とした漢方薬を服用して頂きました。くわえて出来るだけ自宅にこもりっぱなしになるのは避け、軽い散歩を心がけてもらいました。


服用から2ヵ月が経過すると仕事中にたびたび起こっていた胃痛は軽快し、イライラ感も減っていました。しっかりとウォーキングも継続できているとのこと。しかしながら、まだ爪を噛んでしまうことに大きな変化は無し。一方で服用していると気分はとても良いということで変更は行わず継続して頂きました。


その後、咬爪症の改善は一歩一歩進み、1年半が経過する頃になるとほとんど無くなってしまっていた小指の爪も1cmくらいにまで伸びていました。他の爪も噛んで全くなかった爪先の白い部分(フリーエッジ部分)が見られるようになりました。爪の形を整えるためにニッパー式の爪切りも使うように(使えるように)なったとのこと。


ご自身でも漢方薬の服用にくわえて頻繁にマニキュアを塗って爪を噛めなくするなどの努力も重ねられていました。咬爪症が落ち着いた後もイライラ感や胃痛の予防薬として、当初と全く同じ漢方薬を継続服用して頂いています。


咬爪症(爪噛み)の改善例


改善例2

ここからのエピソードは私自身(吉田健吾)のものです。私はいつから始まったのか覚えていないくらい昔から爪噛みの癖がありました。特に大学時代の後半は薬剤師国家試験、大学院入試、そして病院実習などが重なり咬爪症は顕著になっていました(無論、当時は「咬爪症」という病名は知りませんでしたが)。


無事に私は薬剤師となり、カウンター越しに患者さんに薬の説明を行う機会が生まれました。その際に手元の資料を用いて説明をしていると、どうしてもゲジゲジとなった爪が目立ってしまうことが気になりだしました。そこで漢方薬を用いて咬爪症の自己治療を行うことにしたのです。この頃は社会人になりたてで緊張感も強く、肩凝りや首凝り、そして頭痛の症状が顕著でした。


そこで自身の状態は五臓六腑における肝のはたらきが悪くなり、気の流れが停滞しているものと考えました。そして柴胡、釣藤鈎、川芎などから構成される漢方薬を服用することにしたのです。まず最初に効果が出たのは頭痛で、2~3ヵ月ほどで疲れた後などに起こっていた頭痛に悩まされることはほとんどなくなりました。


そして服用開始から1年くらいが経過した頃には咬爪症の症状はほぼ消失していました。肩や首の凝りもよほどデスクワークで無理をしなければ困ることはなくなりました。一方で爪を噛みたい「誘惑」が強く現れるのは疲労がたまった夜間に多いこともわかり、そういう時は早めに就寝するよう徹底しました。


現在もあまり爪を長く伸ばすと割れやすくなるので頻繁に切って深爪ですが、堂々と人前に手先を出せる状態を維持できています。漢方薬は服用開始から大きく形は変えずに継続しています。


おわりに


咬爪症は一般的にはあまり知られていない症状ですが、悩んでいらっしゃる方は意外にも多い印象があります。多くのケースでは爪噛みという行為以外にも緊張のしやすさやイライラ感などの症状が伴うことがほとんどです。


漢方薬はただ咬爪症の爪噛み行為を抑制するだけではなく、心身の乱れたバランスの改善を目指してゆきます。「癖だから仕方がない」で片付けず、咬爪症でお悩みの方は是非一度、当薬局へご来局ください。

【 吃音症(どもり症) 】と漢方薬による治療

吃音症(どもり症)とは


吃音症(きつおんしょう)とは言葉の発音が円滑に行えない病気のひとつです。発声の問題にくわえて特徴的な身体の動きが伴う場合もあります。主な発声に関連する症状の現れ方としては最初の音を数回繰り返す、最初の音がすぐに発声できない、最初の言葉を伸ばしてしまうといったものが挙げられます。ひとりで発声する時には症状が出ないケース、普段はスラスラ話せるのに突然症状が現れるケースなど個人差の大きい病気でもあります。


吃音症はしばしば幼児期から学童期に現れやすく、男児の方が女児よりも発症頻度が高いことが知られています。多くの場合において自然に症状は消失してゆくことが多いのですが、まれに青年期以降も継続することもあります。


あまり一般的ではありませんが吃音症は流暢性障害(りゅうちょうせいしょうがい)とも呼称されます。広く知られている「どもり症」という病名は今日において差別的意味合いを含むとされるので、その使用は控えられる傾向があります。しかしながら、まだ「吃音症」という病名自体がしっかりと認知されているとは言い難いことを考慮し、本ページではどもり症という病名も併記してゆきます。


吃音症(どもり症)の原因


吃音症の明確な原因はまだわかっていません。吃音症は遺伝性が高いことが知られているので、それを手掛かりにいくつかの仮説が立てられている段階です。したがって、しばしば耳にする「母親の育て方が悪かった」「利き腕を無理やり矯正した副作用」などという言説に根拠は認められていません。


吃音症の原因は不明な一方で、精神的なストレス(過度な緊張など)によって吃音症の症状が悪化することが知られています。したがって、症状に対して叱ったりすることは逆効果になってしまうので控えるべきです。


吃音症(どもり症)の症状


吃音症は発話の始めの言葉に特徴的な症状が現れる病気です。具体的には「き、き、きょ、きょ、きょ、今日の天気は…」「…………今日の天気は…」「きーーーようの天気は…」というものが挙げられます。発声の問題にくわえてまばたきや顔をしかめるような身体の動きをともなうケースもあります。


吃音症はその独特の症状から「話し方の問題」のみに焦点が当たりがちですが、そこを発端とする二次的な問題も存在します。吃音症の話し方以外の問題としては、発声することに臆病になってしまい社会的な生活(学校や職場などでの活動)に後ろ向きになってしまう点が挙げられます。特に学童期のお子様などは学校で症状をからかわれたりすると、積極的に会話の輪に入りづらくなってしまうということもあるでしょう。


会話は人間関係を築く上で不可欠なコミュニケーションツールです。吃音症による発声のつまずきによって消極的になってしまったり、自己肯定感が低下してしまうことは隠れた「症状」といえるでしょう。


吃音症(どもり症)の西洋医学的治療法


吃音症に対してはまだ西洋医学的な治療法は確立されていません。一般的には病院(主にリハビリテーション科や耳鼻咽喉科)に所属する言語聴覚士とのカウンセリングや訓練が中心となります。小児の場合には公立学校などに設置されている難聴・言語障害通級指導学級(ことばときこえの教室)において言語聴覚士の訓練を受けることも可能です。


吃音症(どもり症)の漢方医学的解釈


漢方医学的にみて吃音症という病気は主に気の流れが滞ってしまった結果と考えられます。この気がうまく流れない病能を気滞(きたい)と呼びます。気の流れが悪くなると過度な緊張感や不安感が高まり、身体においては喉や胸の圧迫感、腹部の張り感、吐気、胃痛や腹痛、便通の異常などさまざまな症状が現れます。


精神的なストレスなどがくわわり気滞の状態が長く続くと五臓六腑における肝の機能が低下し、肝がコントロールしている筋肉のはたらき(動き)がうまくゆかなくなってしまいます。結果として発声困難、無意識の身体の動きや硬直などが現れてきます。


気滞は気の不足や血の流れにも影響を及ぼします。したがって、吃音症が現れている場合、他にもどのような症状が併せて起こっているのかを捉える必要があります。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いた吃音症(どもり)の治療


吃音症の原因が気の流れの停滞であった場合、その気を円滑に流すことが治療につながります。したがって、用いられる漢方薬は柴胡、枳実、陳皮、半夏、厚朴、香附子などの気を巡らす生薬(理気薬)を多く含んだものになります。


気が流れなくなると徐々に気の不足(気虚)も現れてきます。気虚に陥ると疲労感、重だるさ、気力の低下、食欲不振、冷えなどが起こりやすくなります。これらの症状が吃音症と併せて見られるようならば気を補う生薬(補気薬)の人参、黄耆、大棗、白朮、甘草なども必要となってきます。


上記のように気滞を発端として血の滞り(瘀血)や水の滞り(痰湿)が見られる場合はそれぞれのケアも欠かせません。したがって、吃音症という病名ではなく患っている方の症状や体質を見極めて治療に適している漢方薬が選択されます。


生活面での注意点と改善案


吃音症は緊張感が高まると症状が悪化しやすいことが知られています。したがって、症状が出ているのがお子様の場合、ご両親が強く注意したりすることは逆効果となってしまいます。あえて症状には触れず、リラックスできる環境づくりが大切です。


他にも吃音症という病気は「言葉の流暢さ」という本人以外も知覚しやすい症状の為、その発音状態にばかり意識が向きがちです。しかしながら、言葉の本質はその中身です。お子様に症状がある場合、ご両親は話し方ではなくその言葉の内容にしっかり反応していただくことが大切です。吃音症があってもしっかりとコミュニケーションが取れるという感覚は自己肯定感の向上と緊張感の緩和につながります。


吃音症(どもり症)の改善例


患者は小学5年生の男児。吃音症の傾向は低学年の頃からありましたが、それほど頻繁ではなくご両親も特に気にされていませんでした。しかしながら、中学校受験に向けて塾に通いだした頃からご症状が目立ち始めたとのこと。小児科を受診してカウンセリングや訓練を受けてやや緩和したとのことですが、他の選択肢もないかと考えて当薬局へご来局。


くわしくお話を伺うと吃音症にくわえて軽度のチック症もあるとのこと。他にはテストの前などに緊張すると腹痛やトイレが近くなってしまう傾向がある。一方でこちらからご本人に質問をすると吃音症のご症状はあるものの、はっきりとした元気のある声でハキハキと答えられていました。お母様曰「基本的に健康体で普段から元気だけれど、ちょっとあがりやすい性格」だという。


お子様には緊張感を緩和する柴胡、筋肉をリラックスさせる芍薬など中心とする漢方薬を服用して頂きました。味の面も含めて服用できるか少々心配でしたが、特に問題なく4ヵ月ほど服用されるとチック症によるまばたきやテスト前の腹痛は現れなくなっていました。一方で吃音症には大きな変化はまだなし。内容の変更も考えましたが、ご本人が服用していると調子が良いということでそのまま継続へ。


同じ漢方薬を服用しつつ6年生に進級されると徐々に吃音症のご症状も減り、塾でも積極的に発言できるようになりました。お母様にはできるだけ無理はさせず、心身に余裕を持たせるために睡眠時間を削ることはしないようにお願いしました。その後、無事に中学校受験は成功し、吃音症を中心としたご症状も緩和した状態で安定してきました。漢方薬は環境の変化が大きい中学校入学直後の4月~5月が過ぎた段階で徐々に減らすことを提案。漢方薬での治療は数ヶ月後の初夏に「卒業」されました。


おわりに


吃音症は発声の流暢さという問題にくわえて、発声がうまくゆかないことをきっかけとした精神的ストレスの蓄積も大きな問題となります。そのためか吃音症の症状以外にも緊張のしやすさ、不安感やイライラ感などの症状が伴うこともしばしばです。


その一方で西洋医学的な治療法のみで吃音症が改善されないケースもしばしばです。漢方薬はただ吃音症の発声を円滑にするだけではなく、心身の乱れたバランスの改善を目指すことで良い結果が出ております。吃音症でお悩みの方は是非一度、当薬局へご来局ください。

【 心因性咳嗽(神経性咳嗽) 】と漢方薬による治療

心因性咳嗽(神経性咳嗽)とは


心因性咳嗽(しんいんせいがいそう)はその名前の通り、精神的なストレスや緊張によって引き起こされる咳を指します。しばしば神経性咳嗽とも呼ばれますが同じ意味です。咳が起こる病気は多く存在しますが、心因性咳嗽においては気管支喘息や咳喘息にみられるような呼吸器の炎症はありません。


心因性咳嗽(神経性咳嗽)の原因


心因性咳嗽の明確な原因はわかっていません。しかし、精神的なストレスがきっかけとなって自律神経の交感神経が興奮し、結果として咳が起こっていると考えられます。


心因性咳嗽(神経性咳嗽)の症状


心因性咳嗽は精神的なストレスを受けた時、不安感や緊張感が高まった時などに咳が起こります。多くの場合、咳にくわえて咽喉頭異常感症(いんこうとういじょうかんしょう)やヒステリー球と呼ばれる喉に異物がつまったような閉塞感や胸苦しさも訴えられます。咳は痰の少ない乾燥したものが中心となり、喉の痛みはあまり起こりません。


呼吸器以外の症状ではストレスによる食欲不振、胃痛、そして腹痛と一緒に下痢や便秘が起こる過敏性腸症候群(IBS)といった消化器のトラブルが併発しやすいです。くわえて精神症状としては不眠、気持ちの沈み、気力の低下などがともないやすいです。


心因性咳嗽(神経性咳嗽)の西洋医学的治療法


心因性咳嗽は炎症や気管支の閉塞が起こっているわけではないので、気管支喘息などにもちいられる吸入ステロイド薬や気管支拡張薬はあまり効果がありません。日常的に精神的ストレスが強い場合は、その解消が優先されます。それでも改善がみられないケースでは精神安定剤などがもちいられます。


心因性咳嗽(神経性咳嗽)の漢方医学的解釈


漢方において心因性咳嗽は気の滞りである気滞をきっかけとした症状と考えられます。精神的ストレスが強くかかると気の巡りをコントロールしている肝のはたらきが失調し、結果として気の巡りが悪くなってしまいます。


気滞に陥ると咳や呼吸の乱れの他にも喉や胸の圧迫されるような不快感、動悸や胸痛、吐気や嘔吐、胃や腹部の張り感や痛み、下痢や便秘、不安感やイライラ感などの症状が起こります。心因性咳嗽は気滞のなかでも咳を中心とした呼吸器の症状が前面に出た状態と捉えられます。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いた心因性咳嗽(神経性咳嗽)の治療


心因性咳嗽が気滞によるものと考えられるケースでは、気の巡りを改善させる漢方薬が治療にもちいられます。具体的には理気薬と呼ばれる柴胡、枳実、陳皮、半夏、厚朴、香附子などを含んだ漢方薬です。理気薬には気持ちをリラックスさせるはたらきがあり、特に半夏は咳や吐気を鎮める力も持っているので、心因性咳嗽の改善にしばしばもちいられます。


咳の症状だけではなく、動悸や不安感も目立つようなら竜骨や牡蛎といった重鎮安神薬の使用も検討されます。気が滞っているために脾(脾は消化器のはたらきを代表する存在です)の調子も崩しているようなら人参、黄耆、大棗、白朮、甘草などの補気薬も併せてもちいられます。このように調合する漢方薬は心因性咳嗽という病名だけではなく、患っている方の背景や咳き以外の症状などから総合的に判断されます。


生活面での注意点と改善案


心因性咳嗽を引き起こしているストレスが明確な場合、その除去が最も効果的な治療といえます。しかし、簡単にストレスを除いたり回避できるケースは少ないでしょう。むしろ、避けられないからこそのストレスともいえます。


そこで心因性咳嗽が目立つ時期はできるだけ肉体的な疲労をためないことが大切となります。これは身体の疲れが蓄積していると、精神的なストレスに対しても抵抗力が下がってしまうからです。具体的には余裕を持った睡眠時間と休日の確保を心がけましょう。


くわえて身体を動かすことは気がスムーズに身体を巡ることを後押しします。一方で無理をしてトレーニングジムに通うような激しい運動の必要はありません。日常生活において身体を動かすことを意識し、軽いウォーキングやエレベーターではなく積極的に階段を利用することなどが大切です。


心因性咳嗽(神経性咳嗽)の改善例


患者は20代後半の男性・システムエンジニア。社会人になってから緊張する場面になるとむせるような咳が出るようになってしまった。その後もご症状は徐々に悪化し、会社の先輩と一緒に昼食を摂るだけでも咳が出るようになったとのこと。呼吸器内科や心療内科を受診するも改善がみられず、当薬局へご来局。


詳しくご症状を伺うと、今はプレゼンテーションなどの緊張する場面だけではなく少し心配事が頭に浮かぶだけで咳が出始めてしまうという。ご症状は朝から夕方にかけて目立ち、特に朝は喉に圧迫されるような不快感もあるので、できるだけネクタイはしたくないとのこと。他にも胃から腹部にかけて張り感があり便秘気味。常に身体のどこかが緊張していてなかなかリラックスがうまくできないと悩んでいました。


この方は気の停滞がとても強いと考えて柴胡、半夏、厚朴、枳実といった気の巡りを改善する生薬から構成される漢方薬を服用して頂きました。くわえて職場ではできるだけ座りっぱなしにせず、ストレスを感じたり、気分がすっきりしない時は軽い運動をするようにお願いしました。


漢方薬を服用して4ヵ月が経過すると、緊張するとまだ咳は出るとのことでしたがネクタイを外したいくらいの喉の不快感は解消されていました。胃や腹部の張り感も減り、食欲も高まってきたとのこと。一方でまだ便秘は続いていました。このタイミングでの微調整も考えましたが、良い方向に向いているので同じ漢方薬を服用して頂くことにしました。


それから3ヵ月が経つと、よほど緊張する場面以外では咳は出なくなり、しつこく残っていた便秘も帰宅後のウォーキングを始めてからは改善されました。この頃には職業病ともいえる肩や腰のこり感も和らいできました。この方は改善後も漢方薬の量をご自身で調節しつつ、継続服用されています。


おわりに


心因性咳嗽は一般的な咳止めではあまり効果は期待できません。咳の原因が不明のまま色々な市販薬を試したり、呼吸器内科や心療内科を巡ってようやく「心因性咳嗽」と診断される方もしばしばです。しかし、病院の精神安定剤が副作用で継続できなかったり、改善がみられないという方も少なくありません。


漢方薬は心因性咳嗽による咳だけに着目するのではなく、その他の心身の症状(たとえば緊張による食欲不振や気分の沈みなど)も含めて改善を目指します。身体と精神の両面にアプローチできる漢方薬は心因性咳嗽と相性が良いといえます。慢性的な心因性咳嗽にお困りの方は是非一度、当薬局へご来局ください。

【 自律神経失調症 】と漢方薬による治療

自律神経失調症とは


人間の身体は意識してコントロールできるものと、意識せずにコントロールされているものに分けられます。前者の具体例としては手足を動かしたり、声を出したりすることが挙げられます。後者は心臓の拍動や睡眠時の呼吸などが代表的であり、無意識のうちに行われている身体活動を制御しているのが自律神経です。


自律神経失調症とは自律神経によって適切にコントロールされなければならない身体活動がストレスなどによって乱れてしまった状態を指します。しかしながら、自律神経失調症に明確な診断基準はなく「どの病気にも○○さんの症状は当てはまらないから、とりあえず自律神経失調症」という扱いになっているのが現状です。


自律神経失調症による主な症状としては頭痛、頭重感、めまい、発汗、耳鳴り、肩や首の凝り、動悸、胃腸の不調、情緒不安定、不眠など多岐にわたります。緊張などによって下痢や腹痛が起こる 過敏性腸症候群、午前中に強い倦怠感や起床困難をともなう 起立性調節障害、閉経が近い女性に起こる 更年期障害なども広義の自律神経失調症に含まれます。


自律神経失調症の原因


自律神経失調症の主な原因は肉体的・精神的ストレスであり、くわえて個人の性格や生活習慣も重要な要素といえます。大きなストレスは心身に負担をかけ、結果的に自律神経のはたらきを乱してしまうことは想像に難くありません。ストレスの強度が同程度であってもそれを真正面から受け止めてしまう性格、つまりは生真面目で完璧主義な方はストレスの悪影響を強く受けがちです。


自律神経失調症を招きやすい生活習慣としては昼夜の逆転、睡眠不足、食事の時間がバラバラ、運動不足、深酒や喫煙などが挙げられます。これらは現代において多くの方に当てはまるものであり、自律神経失調症は誰にでも起こり得ることを示しています。


自律神経失調症の症状


自律神経は身体のありとあらゆる機能をコントロールしています。したがって、その乱れである自律神経失調の症状もまた必然的に多彩なものとなります。そのなかでも具体的には下記のようなものがしばしば現れます。

全身症状:
疲労感、重だるさ、冷えのぼせ、発汗過多、肩や首を中心とした凝り感、しびれ感など

感覚の異常:
めまい、ふらつき、ドライアイ、耳鳴り、耳閉感、味覚の低下など

消化器症状:
食欲不振、過食、口渇、唾液過多、吐気や嘔吐、ゲップ、ガス、胃痛や腹痛、胃や腹部の張り、下痢や便秘、残便感など

呼吸器症状:
喉のつまり感、呼吸の浅さ、息苦しさ、胸苦しさなど

循環器症状:
動悸、頻脈など

泌尿器症状:
頻尿、残尿感など

その他:
頭痛、胸痛、不眠、不安感やイライラ感、気力の低下、集中力の低下、起床困難、生理不順、生理痛、精力減退やEDなど


自律神経失調症においては多くの症状が現れがちですが、疲労感、頭痛、冷えのぼせ、動悸、不眠、不安感などは特にみられやすい症状といえます。一方で症状の現れ方や強弱はとても個人差がありますので「これが自律神経失調症で必ず起こる症状」というものはなく、症状が頻繁に移ることもしばしばです。このような多彩で移ろいやすい諸症状の訴えを不定愁訴(ふていしゅうそ)と呼び、自律神経失調症の特徴のひとつとされます。


自律神経失調症の西洋医学的治療法


自律神経失調症に対する西洋医学的な治療法は確立されてはいません。すでに述べた通り、自律神経失調症は症状の個人差がとても大きいので基本的には個人の症状に対応した対処療法を重ねてゆくことになります。


そのなかでも頻繁にもちいられるのが抗不安薬(マイナートランキライザーとも呼ばれます)です。抗不安薬のなかにも作用する時間の長短、睡眠をもたらす力の強弱などの性格があるので患者の状態に合わせたものが使用されます。他にも自律神経を構成する交感神経と副交感神経のはたらきを調節する薬も検討されます。


自律神経失調症の漢方医学的解釈


漢方の視座から自律神経失調症を考えると、気の不足(気虚)や気の滞り(気滞)といった気のトラブルが深く関係しているケースが多いです。気はその他の身体を構成する要素である血や津液と比較すると担っているはたらきが多く、トラブルが起きた際の症状も多くなりがちです。


くわえて、気は血や津液の巡りを後押ししているので、気虚や気滞が起こると連鎖的に血と津液にも悪影響が広がってゆきます。結果的に慢性的な自律神経失調症の方の状態は気の問題を中心に血や津液の不足や停滞を抱えるケースが多くなります。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いた自律神経失調症の治療


漢方薬による自律神経失調症の治療は気の状態を安定化させることが中心となります。それにくわえてほぼ確実に血と津液にも悪影響が及んでいるので、それらに対するケアを並行して行います。自律神経失調症の治療には気・血・津液の状態を見極めて、全体のバランスを整えてゆくことがポイントとなります。


疲労感、食欲の低下、めまいや立ちくらみといった気の不足による症状が目立つ場合は人参、黄耆、大棗、白朮、甘草といった気を補う補気薬を含んだ漢方薬が選択されます。憂うつ感、喉や胸の苦しさ、胃や腹部の張り感といった気の滞りが強いケースでは柴胡、枳実、陳皮、半夏、厚朴、香附子などの気の巡りを改善する理気薬を含んだ漢方薬が適しています。


動悸や息切れ、顔色の悪さ、不安や不眠などは血の不足ととらえ、血を補う地黄、当帰、芍薬、阿膠、酸棗仁、竜眼肉などの補血薬が使用されます。冷えのぼせ、首や肩の凝り、生理不順や生理痛などは血の停滞である瘀血と考え、桃仁、川芎、牡丹皮、紅花、延胡索などの活血薬がもちいられます。


口や喉の乾燥感、咳、ほてり感は津液の不足によってしばしばみられる症状であり、津液を補う麦門冬や天門冬などの生津薬が使用されます。吐気、むくみ、重だるさ、めまいなどは津液の停滞によって引き起こされやすいので、津液を巡らす茯苓、猪苓、沢瀉、蒼朮などの利水薬を含む漢方薬が使用されます。


生活面での注意点と改善案


自律神経失調症の大きな原因は心身両面のストレスでした。したがって、それらを軽減することがとても大切となります。具体的には睡眠時間や休日の確保、何事も完璧ではなく「60点くらいで良い」という、ある意味でのルーズさが必要にもなります。


その他にも深酒、カフェインの過剰摂取、喫煙は自律神経の興奮を高めやすいので、特に不眠やイライラ感が目立つような方は控えた方が良いでしょう。逆に疲労感を翌日に持ち越さない程度の運動は心身のリラックスや血行の改善につながりますので、積極的に行いましょう。漢方においても運動は気の巡りをよくすると考えます。


自律神経失調症の改善例


改善例1

患者は40代前半の女性・教師。毎年、新学期前の春になると頭痛やめまいなどの症状が出ていましたが、いつもゴールデンウィークが過ぎるころには落ち着いてくるので治療などは行っていませんでした。しかし、昨年から症状が重くなり顔を中心としたのぼせ、首肩の凝り、突き上げるような動悸なども現れ始めました。


夏になっても改善の兆しがみられないので病院を受診し、いくつかの抗不安薬を使用しましたがどの薬でもめまいがよりひどくなり、吐気も出てしまうので治療は中止。漢方薬の服用を友人から勧められて当薬局へご来局。


ご症状をくわしく伺うと、上記以外にも寝つきの悪さや倦怠感など多くの症状が挙がりました。現在は季節に関係なくご症状が現れており、生理前になるとより顕著になるという。この方には気を巡らす柴胡、めまいや頭痛を鎮める釣藤鈎、血を巡らす当帰などから構成される漢方薬を服用して頂きました。


漢方薬の服用から4ヵ月が経つとフワフワするようなめまい、締め付けるような頭痛は大きく改善されていました。不快な症状が軽減したことで心身共に余裕が生まれ、睡眠もしっかりとれるようになったとのこと。一方でのぼせは変わらず、腹部から胸に上がってくるような強い動悸がより頻繁に起こるようになりました。そこで、急なのぼせや動悸を改善する桂皮や茯苓を含む漢方薬へ変更を行いました。


新しい漢方薬に変えて1ヵ月半が経過するとのぼせと動悸の発作が起こる頻度は減り、だいぶ過ごしやすくなったとのこと。その後は生理前の肩凝りや重だるさが気になるということで、一貫して血の巡りを改善する漢方薬を調合。この年の春も新入生を迎える準備に忙殺されたとのことですが、めまいや頭痛も含めて大きな体調不良もなく無事に過ごされました。


改善例2

患者は30代後半の女性・会社員。20代後半から天気の悪い日や台風の近づいてくる頃に現れるめまいと頭重感に悩まされるようになりました。症状は年々悪くなり、仕事の効率が落ちてしまうだけではなく焦燥感や胸苦しさも現れ始めました。


悪化する症状のために欠勤することも増えてしまったので近所の病院を受診。しかし、原因はわからずメニエール病に使用される薬を処方されましたが改善はされませんでした。徐々に症状の頻度が高まってきたことに焦りが募り、漢方薬の服用を思い立ち当薬局へご来局。


ご症状を伺うと、発作的に目の前がチカチカと光るようなめまいを中心に日頃から動悸、吐気、食欲の低下といったご症状もあるとのこと。ボソボソとご症状を訴える声にも力がなく、鬱々とした雰囲気を感じ取ることができました。この方には気の巡りを改善する柴胡や気を補う人参などから構成される漢方薬を服用して頂きました。


漢方薬をはじめて4ヵ月が経過するとめまいの頻度が下がり、頭を中心とした身体の重だるさも軽減。吐気も鎮まってきたおかげで食欲も上向いてきました。一方でまだ動悸はしばしばみられるということだったので、即効性の鎮静作用が期待できる牛黄を含んだ生薬製剤の併用をお願いしました。


引き続きの漢方薬を服用して頂いて3ヵ月が経つと、体力の回復と歩調を合わせて焦燥感を覚えることもなくなり、急な動悸や胸苦しさが現れそうな予感がある時は牛黄を服用すると気分も楽になると好評でした。この頃、季節は梅雨になり頭の重さを感じることもありましたが、強いめまいや動悸が現れることもなく過ごされていました。


漢方を服用されて1年が過ぎると、声にも張りと明るさが戻っていました。症状による仕事への支障もなくなり、雨の日は少し気持ちが沈む程度で済むようになっていました。この方は毎日服用する漢方薬は終了し、疲労感や焦燥感を覚えた時に牛黄を服用するかたちで安定した状態が維持されています。


おわりに


自律神経失調症は西洋医学的な検査を受けてもその原因がわからないため、なかなか建設的な治療が受けられない病気のひとつです。病院から処方される抗不安薬を服用して症状が落ち着く方もいらっしゃる一方で、効果があまり出なかったり副作用のために治療の継続が難しい方も多いです。


漢方薬の場合、西洋医学的な即効性は期待しにくいですが、心身に負担をかけることなく治療を行うことが可能です。自律神経失調症や原因不明の体調不良にお困りの方は是非一度、当薬局へご来局ください。

【 咽喉頭異常感症(喉の不快感) 】と漢方薬による治療

咽喉頭異常感症(喉の不快感)とは


咽喉頭異常感症(いんこうとういじょうかんしょう)とは喉に漠然とした不快感が生じている状態を指します。基本的に西洋医学的な病気(喉の炎症や甲状腺の腫れなど)による喉の不快感は含まれず、あくまでも原因のわからない喉の不快感の総称となります。なお、咽喉頭における喉頭(こうとう)とは喉ぼとけの周辺、咽頭(いんとう)は喉頭部を含めたより上部を包括したものになります。


咽喉頭異常感症はヒステリー球(きゅう)、咽喉頭食道異常感症、咽喉頭神経症とも呼ばれます。漢方においては咽中炙臠(いんちゅうしゃれん)や梅核気(ばいかくき)とも表現されます。咽中炙臠とは「焼かれた肉の塊が喉の中にあるような状態」、梅核気は「梅の種が喉に引っかかっているような状態」という意味です。どれも表現の仕方は異なりますが喉の異常感を表している点において共通したものです。


咽喉頭異常感症(喉の不快感)の原因


咽喉頭異常感症の明確な原因は不明です。一方で咽喉頭異常感症を覚える多くの方に精神的な緊張や不安感、逆流性食道炎のような消化器に関係するトラブル、鼻の炎症などがみられます。したがって、これら精神面と身体面の両方が関連した結果として咽喉頭異常感症が現れると考えられています。


咽喉頭異常感症(喉の不快感)の症状


咽喉頭異常感症の症状はその名前の通り、喉の周辺に現れる原因不明の圧迫感や不快感です。実際に咽喉頭異常感症を患っている方は「喉にモノがつまっているみたい」「喉に痰があるけれど切れない」「喉がイガイガする」「喉がふさがっているような感じ」「咳払いが出てしまう」などのようにさまざまな言葉をもちいて症状を表現されます。


「咽喉頭」異常感症という病名ですが、症状は喉だけではなく胸や腹部の不快感も併せて現れることがあります。くわえて吐気、食欲不振、胃もたれ、胸やけ、ゲップといった消化器系症状も併発しやすいです。逆に喉の痛みや嚥下ができないといった症状はあまりみられません。


咽喉頭異常感症(喉の不快感)の西洋医学的治療法


喉の違和感を引き起こしている原因(病気)が明白な場合はその治療が優先されます。具体例としては逆流性食道炎がある方の場合、胃酸を薄める薬を服用することで喉の不快感が除かれることもあります。一方で原因がわからない場合は気持ちをリラックスさせる抗不安薬をもちいるケースが多いです。


咽喉頭異常感症(喉の不快感)の漢方医学的解釈


漢方の立場から咽喉頭異常感症を考えると、その主な原因は気の停滞である気滞と津液の停滞である水湿がお互いに絡み合ったものと考えられます。 気は津液や血を身体中に巡らすはたらきを担っています。精神的なストレスなどで気の流れが悪くなると、結果的に津液の流れも悪くなり水湿(または痰飲)と呼ばれる病的産物が生じてしまいます。


水湿は一般的に身体の重だるさ、むくみ、めまい、そして幅広い消化器系症状を引き起こします。この水湿が喉にたまると解消しにくい独特の不快感を生じます。何らかの原因で気滞よりも先に水滞が生じた場合、それに引きずられるように気の流れも悪くなり咽喉頭異常感症が顕著化することもあります。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いた咽喉頭異常感症(喉の不快感)の治療


漢方薬による咽喉頭異常感症の治療は気の流れと津液の流れを改善することが中心となります。 気に重点を置くか津液に重点を置くかは咽喉頭異常感症を患っている方の症状や体質から判断する必要があります。


気分の沈み、緊張のしやすさ、胸苦しさといった気滞と関連深い症状が目立つ場合は気の巡りを改善する柴胡、枳実、陳皮、半夏、厚朴、香附子などの理気薬を多く含んだ漢方薬がもちいられます。吐気、腹部の張り感、軟便などの水湿による症状が顕著なケースでは茯苓、猪苓、沢瀉、白朮、蒼朮といった利水薬を配合した漢方薬がより良いです。


現実的には上記のような理気薬と利水薬の両方を含んだ漢方薬がしばしば使用されます。咽喉頭異常感症に対しては誰にでも有効な単一の漢方薬があるわけではなく、あくまでも患っている方の症状や体質に沿った漢方薬を調合する必要があります。


咽喉頭異常感症(喉の不快感)の改善例


患者は40代前半の男性・会社員。仕事の繁忙期や結果が強く求められるような時期になると喉のつまり感や吐気、そしてゲップが出やすくなるといったご症状に悩まされていました。これらのご症状が顕著になってからは食欲も減退気味。消化器内科を受診して鎮吐薬と胃酸分泌を抑制する薬を服用するもご症状の改善は見られず、当薬局にご来局。


より詳しくご様子を伺うと咽喉頭異常感症のご症状に加えて最近ではヘソの周りの張り感、腹痛と便秘もありご症状は喉だけではなく消化器全体に現れていました。そこでまず原因は気滞によるものとみて、気を巡らす柴胡、半夏、枳実などから構成される漢方薬を服用して頂きました。


服用から4ヵ月が経つと喉の不快感、吐気、ゲップなどのご症状は大きく改善しました。その一方で仕事による疲労感や頻回の軟便が気になりだしたとの訴え。そこで柴胡や半夏にくわえて人参や白朮などの気を補ったり水湿を除くことをより得意とする漢方薬に切り替えました。


新しい漢方薬を服用されてから3ヵ月程が経過したころには咽喉頭異常感症と思われるご症状はなくなり、睡眠をとった翌日も引きずってしまうような疲れも改善されていました。以前よりも食欲も増し、それにあわせて腹部の痛みや張り感、便秘も気にならなくなってきたとのこと。


この方はもともとやせ気味で体力も決して充実しているとはいえませんでした。漢方薬を変更してから体力に余裕が生まれ仕事中の眠気や集中力の低下も減ったということもあり、引き続き、気を補いつつ巡りも改善する漢方薬を服用して頂いています。


おわりに


「咽喉頭異常感症」という病名はまだまだ一般的に広く知られているとは言い難いです。その一方で耳鼻咽喉科などを受診しても症状が改善されず、慢性的に喉の不快感や圧迫感に悩まされている方は少なくありません。


冒頭でも登場した咽中炙臠には半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)という漢方薬が有効であることが知られています。しかし、咽喉頭異常感症のすべてが半夏厚朴湯で改善できるわけではありません。あくまでも、患っている方のご症状やご体質、さらには生活環境も充分に考慮して漢方薬を調合する必要があります。慢性的な咽喉頭異常感症にお悩みの方は是非一度、当薬局へご来局ください。

【 神経性嘔吐症(心因性嘔吐症) 】と漢方薬による治療

一二三堂薬局と神経性嘔吐症(心因性嘔吐症)


当薬局では長年、神経性嘔吐症に有効な漢方薬の研究を重ねてまいりました。その理由はふたつあります。ひとつは神経性嘔吐症はお子様にとても多い病気であり、多くのご両親が西洋薬の副作用を心配して充分な治療ができないことに悩まれているからです。そしてもうひとつは漢方薬は神経性嘔吐症の改善にとても有効ということを経験的にも実績面でも知っているからです。


このページでは神経性嘔吐症に対する漢方治療について解説させて頂きます。当薬局の情報につきましてはページ上段のアイコン、または下記のリンクをご覧ください。


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神経性嘔吐症(心因性嘔吐症)とは


神経性嘔吐症とは主に精神的なストレスが原因で嘔吐してしまう病気であり、しばしば心因性嘔吐症とも呼ばれます。神経性嘔吐症には吐気が強く現れるのみで、ほとんど嘔吐しないケースもあります。この場合は神経性嘔気(おうき)症や心因性嘔気症と呼ばれたりもします。


吐気や嘔吐を引き起こす精神的ストレスには様々なものが挙げられます。お子様の場合には学校のイベント(学芸会や修学旅行など)、定期テストなどが代表的です。しかし、上記のような明確なストレス源が無い場合、または見つからない場合もしばしばです。


神経性嘔吐症はお子様に多い病気とされますが、成人にも見られる病気です。成人のケースでは仕事にまつわる事柄、例えば定期的な会議やプレゼンテーション、良好ではない人間関係などがストレス源となりやすいです。


神経性嘔吐症(心因性嘔吐症)の原因


神経性嘔吐症はお子様に多い病気でした。その理由は脳(より厳密には延髄)に存在する嘔吐中枢と呼ばれる部分がお子様の場合、まだ未発達だからと考えられています。嘔吐中枢が未発達だと少々の刺激によっても嘔吐や吐気が起こりやすくなってしまいます。


しかし、嘔吐中枢が成熟している成人でも処理しきれない過大なストレスがあればそれが刺激となって神経性嘔吐症を発症することがあります。したがって、神経性嘔吐症は嘔吐中枢のみに帰結される問題ではなく、ストレスの強弱も含めた問題といえます。


神経性嘔吐症(心因性嘔吐症)の症状


神経性「嘔吐」症という名前が示す通り、その中心的な症状は嘔吐になります。しかし、神経性嘔吐症を患っていても必ずしも嘔吐するわけではなく、乾嘔(からえずき)をともなう吐気や胃の不快感が主訴となるケースも多く見受けられます。神経性嘔吐症の間接的な問題として、嘔吐時の胃酸によって虫歯や食道炎、さらに摂食障害(拒食症)を引き起こしてしまう可能性が挙げられます。


症状の現れ方も常に吐気や嘔吐があるケース、イベント前などの緊張時に現れるケース、食前や食後に現れるケースなどさまざまです。吐気や嘔吐よりも食事に対する不安感や食欲低下が強く現れてしまうことも少なくありません。したがって、神経性嘔吐症の症状には個人差があり、その現れ方も十人十色といえます。


神経性嘔吐症(心因性嘔吐症)の西洋医学的治療法


基本的にはカウンセリングや薬物療法が用いられます。薬物療法の場合、主に制吐薬や抗不安薬などが使用されます。頻回に嘔吐してしまう場合は脱水症状にも注意を払う必要があります。


抗不安薬を用いる場合はその副作用である眠気やふらつき、さらに服薬初期は消化器系症状のトラブルも起こりやすいので充分注意する必要があります。


神経性嘔吐症(心因性嘔吐症)の漢方医学的解釈


神経性嘔吐症は主に気の滞りによって脾胃(消化器)の機能が低下して起こると考えられます。漢方用語で気の滞りのことを気滞(きたい)と呼びます。したがって、神経性嘔吐症は気滞によって引き起こされた病気といえるでしょう。


気滞のよって起こる典型的な消化器系症状としては吐気、嘔吐、ゲップ、食欲不振、胃痛、胃もたれ、下腹部痛、腹部の張り、ガスの溜まり、下痢や軟便などが挙げられます。消化器系以外の気滞による症状としてはイライラ感、落ち込み、不眠症などの精神症状などが代表的です。


そもそも気は身体内を巡る生命エネルギーのような存在であり、脾胃を含めた臓腑はこの気の力によって正常にはたらいています。そのような気は精神的なストレスや気の不足(気の不足を気虚(ききょ)とも呼びます)によって流れが滞ってしまうと充分に力を発揮できなくなるという特徴があります。


気は食べ物から脾胃のはたらきで生まれます。この考えは現代における生物学的に食べ物が糖質、アミノ酸、脂肪酸に分解されて、それらが身体活動の基礎となっている事実と似ています。


再び漢方医学の話に戻り、気の滞りは脾胃を含めた臓腑の機能を低下させてしまいます。したがって、一度、気の滞りが起きると「気の滞り(気滞)」→「脾胃の機能低下」→「気の不足(気虚)」→「さらに気が滞る」という負のサイクルに陥りやすくなってしまいます。


神経性嘔吐症に限らず、気滞によって起こる消化器系症状や精神症状がなかなか自然に治らず、慢性化しやすい背景には上記のような悪循環が深刻化している場合が多いです。

(よりくわしい漢方用語などの説明は漢方名処方解説をご参照ください)


漢方薬を用いた神経性嘔吐症(心因性嘔吐症)の治療


神経性嘔吐症は気の滞りによって起こる病気でしたので、その治療は気の流れをスムーズにすることが中心となります。気の流れを円滑にする生薬(理気薬)には柴胡、枳実、陳皮、半夏、厚朴、香附子などが挙げられます。この中でも陳皮や半夏は制吐作用に優れているのでしばしば神経性嘔吐症治療の漢方薬に用いられます。


気滞の症状に加えて慢性的な疲労感、身体の冷えなどの気虚の症状が強いようなら並行して気を補うことも大切となります。気を補う生薬(補気薬)としては人参、黄耆、大棗、白朮、甘草などが代表的です。


理気薬と補気薬は相性が良く、それらを組み合わせることで嘔吐や吐気だけではなく食欲不振や疲労感を効率的に緩和することができます。


上記に加えて精神症状が強い場合は竜骨、牡蠣などの鎮静作用に優れた生薬も用いられます。神経性嘔吐症は吐き気や嘔吐という症状を中心に、食欲不振や腹痛などさまざまな症状が付随しがちです。したがって、神経性嘔吐症は個人差の多い症状に対して臨機応変に漢方薬を調合する必要があります。


神経性(心因性嘔吐症)嘔吐症の改善例


患者は小学校6年生の男児。性格的には繊細で感受性が強く、低学年の頃から学芸会や運動会などの緊張するイベント前になると吐気を訴えていました。高学年になってもその傾向は治まらず、むしろ悪化してゆきました。今は特にイベントに関係なく日常的に吐気や腹痛があり、次第に食べること自体にも臆病になってしまったという。


心配されたお母様と一緒に小児科をまわり、最終的には神経性嘔吐症と診断されました。その小児科で制吐薬と少量の抗不安薬が処方されましたが、めまいやふらつきの副作用が強く出てしまい服用は中止。それでも何か薬はないかとお母様がネットで調べ、漢方薬の服用を思いつき当薬局へご来局。


詳しくご様子を伺うと、吐気は朝に強く、嘔吐を怖がるあまり最近は充分にご飯を食べられていないとのこと。栄養ドリンクや野菜ジュースなどの飲み物やゼリーなら抵抗感が少ないということで、水分中心の食生活になっていました。


体重も軽く、腕は細くて骨の「節」が目立っていました。顔色も青白く、貧血の可能性も考えられました。こちらのお子様には吐気を鎮める半夏、陳皮、食欲を増す人参、大棗、甘草などから構成される漢方薬を服用して頂きました。


漢方薬服用から3ヵ月が経つと、しばしば起こっていた嘔吐をすることはまったく無くなっていました。漢方薬も少し甘みがあるので(甘草と大棗の味だと思われます)、抵抗感なく服用できているということ。顔色も良くなり、元気も出てきたということで同じ漢方薬を服用して頂きました。


そして服用から半年が経過する頃には普通の食事も摂れるようになり、とても苦手だった外食も友達だけでも行けるようになっていました。中学生になり、部活動もはじめられましたが体力的にも問題はないとのこと。


吐気とそれに対する恐怖感は消え、性格も良い意味でアバウトになったとお母様がおっしゃられました。漢方薬はその後も体力強化と吐気予防の意味で継続して服用して頂いています。


おわりに


神経性嘔吐症はつらい吐気や嘔吐だけではなく、お子様の場合は食への抵抗感から食べる量が減り発育の妨げにもなります。大人の方にも神経性嘔吐症はしばしばみられ、仕事のストレスなどと重なり症状を悪化させてしまっているケースも見受けられます。


漢方薬は西洋薬では対応しきれないより根本的な原因に対応することができるものです。当薬局では西洋薬を使用してもなかなか改善が見られなかった方がしばしばご来局されます。そして漢方薬を服用し始めてから、吐気や食欲不振などの症状が少しずつとれてくることから、神経性嘔吐症と漢方薬は「相性」が良いと実感しています。是非一度、神経性嘔吐症にお悩みの方は当薬局にご来局くださいませ。

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