漢方名処方解説

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酸棗仁湯(さんそうにんとう)

酸棗仁湯の出典

金匱要略

酸棗仁湯の構成生薬

酸棗仁10-18、知母2-3、川芎2-3、茯苓2-5、甘草1


※上記は一般用漢方製剤承認基準(厚生労働省医薬食品局)より
※単位は1日当たりのグラム

酸棗仁湯の効能・効果

体力中等度以下で、心身が疲れ、精神不安、不眠などがあるものの次の諸症:不眠症、神経症


※上記は一般用漢方製剤承認基準(厚生労働省医薬食品局)より

酸棗仁湯の処方解説

酸棗仁湯はその処方名が示す通り、心血を補うことで心血虚(しんけっきょ)を改善する酸棗仁を中心とした漢方薬です。心血が不足した心血虚の状態に陥ると精神状態が不安定化し、不安感や不眠が現れやすくなります。そのような症状を酸棗仁湯は改善します。

より細かく処方を見てみると、茯苓は酸棗仁とともに精神状態を落ち着かせ、知母は心血が不足したことで相対的に亢進した熱を鎮めます。川芎は補われた血を巡らし、甘草は気を補いつつ生薬全体のバランスを調和させます。

酸棗仁湯における補足

酸棗仁湯は「不眠症の漢方薬」として有名であり、特に眠りが浅くて夜に何度も目が覚める、夢を多く見るような心血虚による不眠症に効果があります。もし心血虚による不眠や不安感といった精神症状だけではなく、消化器が弱くて食が細かったり疲労感なども顕著な場合は心血だけではなく気も補う帰脾湯(きひとう)が最適です。

一方で酸棗仁湯や帰脾湯は興奮が続いて目が冴えてしまい、なかなか入眠できないタイプの不眠症はやや苦手とします。このようなタイプの不眠は精神的なストレスなどによって気の流れが停滞し、身体のなかに悪さをする熱が生じていると考えます。

寝つきの悪さにくわえてのぼせ感、焦燥感、眼の充血や口内炎などが現れやすいようなら黄連解毒湯(おうれんげどくとう)、さらに便秘があるなら三黄瀉心湯(さんのうしゃしんとう)などが良いでしょう。熱性の症状と寝つきの悪さにくわえて、イライラ感、不安感、胃腸の不快感といった症状があれば柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)が適しています。

上記で示した通り単純に「不眠症だったらこの漢方薬!」とはなりません。あくまでも不眠症を起こしている原因を症状や体質から突き止める必要があります。この点が作用時間の長短を主な判断基準にする西洋医学の睡眠導入剤と大きく異なる点といえるでしょう。

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甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)

甘麦大棗湯の出典

金匱要略

甘麦大棗湯の構成生薬

甘草3-5、大棗2.5-6、小麦14-20


※上記は一般用漢方製剤承認基準(厚生労働省医薬食品局)より
※単位は1日当たりのグラム

甘麦大棗湯の効能・効果

体力中等度以下で、神経が過敏で、驚きやすく、ときにあくびが出るものの次の諸症:不眠症、小児の夜泣き、ひきつけ


※上記は一般用漢方製剤承認基準(厚生労働省医薬食品局)より

甘麦大棗湯の処方解説

甘麦大棗湯は心血虚(しんけっきょ)による精神不安を改善する漢方薬です。処方名は甘麦大棗湯を構成する甘草、小麦、大棗からそれぞれ採られています。もちいられている甘草は甘味料、小麦はその名の通りコムギ、大棗はナツメの実であり、食品としても広く使用されている生薬から構成されています。甘麦大棗湯は医食同源を体現する漢方薬といえます。

もともとは女性のヒステリー症状を改善する漢方薬でしたが、その後に夜泣きなどにも応用されるようになりました。これは甘草と大棗には強い甘みがあり、こども達でも服用しやすい点が評価されたのかもしれません。

甘麦大棗湯の中心となるのは心血を補う作用がある小麦です。甘麦大棗湯にはこの小麦がとても多く配合されています。大棗は気を補う作用がありますが、こちらも精神状態を安定化させる作用があり、小麦と協働して不安感や焦燥感といった精神症状を鎮めます。甘草は大棗と同じく気を補いますので、甘麦大棗湯には強くはないですが補気作用もあります。

甘麦大棗湯における補足

甘麦大棗湯はやや多めの甘草を含んだ漢方薬です。甘草はまれに血圧の上昇やむくみをともなう偽(ぎ)アルドステロン症候群を引き起こすことがあるので、甘麦大棗湯を中長期的に服用する際は注意が必要です。

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●気血双補剤(きけつそうほざい)について

気血双補剤(きけつそうほざい)とはその名前の通り、気と血(けつ)の両方を同時に補う漢方薬です。気血双補剤は補気剤(ほきざい)と補血剤(ほけつざい)のページに登場した補気薬(ほきやく)と血を補う補血薬(ほけつやく)をバランスよく含んだ構成となります。

血は主に飲食を通じて生まれる気が変化することで作られます。したがって、過労や消化器の不調などによって気の不足が慢性化すると、血の不足にも結びつきやすくなります。このような病的状態を気血両虚(きけつりょうきょ)と呼びます。気血双補剤は気血両虚の状態に適した漢方薬です。

代表的な気血双補剤は四君子湯(しくんしとう)と四物湯(しもつとう)を合わせた八珍湯(はっちんとう)、八珍湯に桂皮(けいひ)と黄耆(おうぎ)を含めた十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)、十全大補湯とほぼ骨格を共有する人参養栄湯(にんじんようえいとう)、そして心血虚(しんけっきょ)の改善に優れた加味帰脾湯(かみきひとう)などが有名です。

「気血双補剤」と分類されなくても気と血を補う生薬を含んだ漢方薬は数多くあります。代表的なものに芎帰調血飲(きゅうきちょうけついん)、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、加味逍遥散(かみしょうようさん)、女神散(にょしんさん)、抑肝散(よくかんさん)などが挙げられます。

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十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)

十全大補湯の出典

和剤局方

十全大補湯の構成生薬

人参2.5-3、黄耆2.5-3、白朮3-4(蒼朮も可)、茯苓3-4、当帰3-4、芍薬3、地黄3-4、川芎3、桂皮3、甘草1-2


※上記は一般用漢方製剤承認基準(厚生労働省医薬食品局)より
※単位は1日当たりのグラム

十全大補湯の効能・効果

体力虚弱なものの次の諸症:病後・術後の体力低下、疲労倦怠、食欲不振、ねあせ、手足の冷え、貧血


※上記は一般用漢方製剤承認基準(厚生労働省医薬食品局)より

十全大補湯の処方解説

十全大補湯は気を補う基本方剤である四君子湯(しくんしとう)と血を補う基本方剤である四物湯(しもつとう)がベースとなった、最も代表的な気血双補剤です。まず、四君子湯と四物湯を合体させたものが八珍湯(はっちんとう)という漢方薬です。この八珍湯に身体を内側から温める桂皮と気を補う黄耆を加え、大棗と生姜を除いたものが十全大補湯です。

疲れやすい、気力がわかない、手足が重だるい、食が細く食後の眠気が強い、軟便などの気虚(ききょ)の症状と、血虚(けっきょ)による顔色が悪い、肌や眼が乾燥する、髪や爪が荒れる、動悸、めまいや立ちくらみなどの症状が合わさった気血両虚(きけつりょうきょ)の状態を改善します。さらに十全大補湯には桂皮がくわえられているので冷え性(冷え症)にも有効です。

近年は十全大補湯の体力を回復させる力に着目して、抗がん剤や放射線治療後といったがん治療による体力低下に対しても使用されます。がんだけではなく幅広い慢性病や出産による体力消耗にも応用が可能です。

幅広い肉体的な不調を改善する十全大補湯ですが、不安感や不眠といった心血虚(しんけっきょ)を原因とするような精神症状には不向きです。このようなケースでは同じ気血双補剤に分類される帰脾湯(きひとう)や加味帰脾湯(かみきひとう)がより適しています。

十全大補湯における補足

しばしば十全大補湯は補中益気湯(ほちゅうえっきとう)との差が議論されます。これは十全大補湯も補中益気湯も「体力を回復させる漢方薬」として、ともに有名だからだと推測されます。そもそも補中益気湯は分類上、気血双補剤ではなく補気剤(ほきざい)であり十全大補湯のような補血作用はあまりありません。では、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)は十全大補湯よりも劣るのかというと、そうではありません。

十全大補湯は優れた補気作用と補血作用がありますが、補血作用を発揮する地黄や当帰は胃もたれを起こしてしまことが少なからずあります。体力が落ちている方はしばしば消化器の機能も低下しているので、そのような方にはまず補中益気湯で気を補い胃腸のはたらきを底上げする必要が出てきます。

他にも補中益気湯は昇提(しょうてい)作用を発揮できる点で十全大補湯と異なります。昇提作用とは気の不足によって起こる胃下垂、脱肛、子宮下垂、さらには慢性的な下痢といった「下降性の症状」を改善する作用を指します。これらの症状が気虚と合せて現れているなら補中益気湯がファーストチョイスとなります。

まとめになりますが、特に消化器系のトラブルがなく気血両虚の症状がみられるなら十全大補湯が最適です。一方でもともと食が細かったり軟便を繰り返すような胃腸虚弱の方は、気血両虚の症状が揃っていても補中益気湯からスタートするのが得策といえるでしょう。

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加味帰脾湯(かみきひとう)

加味帰脾湯の出典

校注婦人良方

加味帰脾湯の構成生薬

人参3、白朮3(蒼朮も可)、茯苓3、酸棗仁3、竜眼肉3、黄耆2-3、当帰2、遠志1-2、柴胡2.5-3、山梔子2-2.5、甘草1、木香1、大棗1-2、生姜1-1.5、牡丹皮2(牡丹皮はなくても可)


※上記は一般用漢方製剤承認基準(厚生労働省医薬食品局)より
※単位は1日当たりのグラム

加味帰脾湯の効能・効果

体力中等度以下で、心身が疲れ、血色が悪く、ときに熱感を伴うものの次の諸症:貧血、不眠症、精神不安、神経症


※上記は一般用漢方製剤承認基準(厚生労働省医薬食品局)より

加味帰脾湯の処方解説

加味帰脾湯は気血両虚(きけつりょうきょ)を改善する代表的な気血双補剤(きけつそうほざい)です。特に心血虚(しんけっきょ)を改善する力に優れた漢方薬です。心血虚に陥ると不安感、不眠、記憶力や集中力の低下といった精神症状が現れやすくなります。

加味帰脾湯は上記のようなメンタル系の症状にくわえて脾(漢方において消化器のことを指します)を中心とした肉体的な不調も改善することができます。具体的には気を補うことで、食欲不振、食後の眠気が強い、軟便、疲れやすい、気力がわかない、手足が重だるいといった気虚(ききょ)の症状も改善することができます。

よりくわしく内容を見てみると人参、黄耆、白朮、大棗、甘草が気を補い、さらに生姜と茯苓も協働して上記のような消化器の不調も改善します。酸棗仁と竜眼肉は心血を補い、当帰は肝血を補います。木香、遠志、柴胡は気の巡りをスムーズにして精神状態をより安定したものにします。気の巡りが慢性的に悪くなると、身体内に熱を帯びイライラ感やのぼせ感が現れやすくなります。山梔子はこの悪性の熱を鎮めます。

なお、加味帰脾湯は帰脾湯(きひとう)という漢方薬に柴胡と山梔子の2生薬を加味(くわえた)したものです。薬効の差としては、加味帰脾湯は帰脾湯よりものぼせ感や精神的な不調、特にイライラ感や焦燥感が強い場合により有効です。

加味帰脾湯における補足

「加味帰脾湯」はその名前が示す通り、「脾」の改善を第一に目指す漢方薬です。気血両虚の状態を立て直す治療の定石として、まずは脾、つまり胃や腸を含めた消化器の力を向上させることで飲食物から充分な気と血を生み出すことを狙います。

脾が健全な状態になれば食べ物からしっかりと気が生まれ、その気を原料として血が生まれます。血が全身を栄養すれば肉体的にも精神的にも安定した状態となってゆきます。したがって、気血両虚の状態であれば加味帰脾湯は消化器系症状やメンタル系の症状以外にも幅広く応用が利きます。

例えば上記の効能・効果にはありませんでしたが、加味帰脾湯はしばしば皮下出血や不正性器出血といった出血症状にも使用されます。これは気のはたらきのひとつである、身体に必要なものを保持する固摂(こせつ)作用が向上するからです。

一方で気血両虚という背景が無い中で、不眠症やうつ病による不安感などの症状に対して加味帰脾湯を服用しても充分な効果は得られません。あくまでも体調不良を起こしている根本的な原因が気と血の不足であることを前提に、加味帰脾湯を用いた治療を行う必要があります。

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●滋陰剤(じいんざい)について

滋陰剤(じいんざい)とは主に身体に潤いを与えるはたらきを持つ津液(しんえき)を補充する漢方薬を指します。滋陰剤の他にしばしば補陰剤や養陰剤とも呼ばれることがあります。一方で津液だけではなく気を補う力も同程度含む漢方薬は気陰双補剤(きいんそうほざい)という別カテゴリーに含まれます。

滋陰剤は津液を補う生薬である滋陰薬を中心に、血を補う補血薬(ほけつやく)と気を補う補気薬(ほきやく)などが脇を固める構成になることが多いです。他にも津液不足になると気の熱性を抑制できず虚熱(きょねつ)が発生するので、少量の清熱薬(せいねつやく)を含むこともあります。

代表的な滋陰薬には麦門冬(ばくもんどう)、天門冬(てんもんどう)、枸杞子(くこし)、五味子(ごみし)、蓮肉(れんにく)、山茱萸(さんしゅゆ)、地黄(じおう)、阿膠(あきょう)、人参(にんじん)などが挙げられます。この中で五味子、蓮肉、山茱萸は津液や血が漏れ出ないようにする収渋(しゅうじゅう)作用、地黄と阿膠は補血作用、人参は補気作用も持っています。

繁用される滋陰剤には六味地黄丸(ろくみじおうがん)、味麦地黄丸(みばくじおうがん)、杞菊地黄丸(こぎくじおうがん)、知柏地黄丸(ちばくじおうがん)、滋陰降火湯(じいんこうかとう)などが挙げられます。温経湯(うんけいとう)、白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)、清肺湯(せいはいとう)も滋陰剤には含まれませんが高い滋陰作用をもつ漢方薬です。

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六味地黄丸(ろくみじおうがん)

六味地黄丸の出典

小児薬証直訣

六味地黄丸の構成生薬

地黄5-6、4-8、山茱萸3、3-4、山薬3、3-4、沢瀉3、3、茯苓3、3、牡丹皮3、3(左側の数字は湯、右側は散)


※上記は一般用漢方製剤承認基準(厚生労働省医薬食品局)より
※単位は1日当たりのグラム

六味地黄丸の効能・効果

体力中等度以下で、疲れやすくて尿量減少又は多尿で、ときに手足のほてり、口渇があるものの次の諸症:排尿困難、残尿感、頻尿、むくみ、かゆみ、夜尿症、しびれ


※上記は一般用漢方製剤承認基準(厚生労働省医薬食品局)より

六味地黄丸の処方解説

六味地黄丸は津液(しんえき)や血(けつ)を補う代表的な滋陰剤であり、最も基礎的な補腎剤でもあります。補腎剤とは五臓六腑(ごぞうろっぷ)のひとつである腎に蓄えられている精(せい)を補う漢方薬を指します。つまり、六味地黄丸は津液や血、そして精が不足した状態を改善する漢方薬といえます。

津液・血・精は陰陽論(いんようろん)においては陰に属し、まとめて陰液と呼ばれます。陰液は気の持つ熱性を適度にクールダウンしたり、身体を栄養して潤すはたらきを担っています。したがって、陰液が不足した陰虚(いんきょ)の状態になると気の熱性を抑制できず、身体の不快なほてり感、潤い不足による口の渇きや肌の乾燥などがセットで現れやすくなります。六味地黄丸は滋陰剤としてこれらの症状を改善することができます。

ここからは六味地黄丸の補腎剤としてのはたらきについて解説します。まず、腎に蓄えられている精という物質は生命エネルギーの結晶のような存在です。人間は精を消費することで成長し、健康を維持し、生殖活動を行います。精が充実することで足腰や骨がしっかりし、泌尿器、視覚や聴覚、頭脳がしっかりとはたらきます。

一方で精は加齢とともに減少してしまう存在です。腎に蓄えられた精が不足した腎虚(じんきょ)の状態に陥ると腰痛や腰のだるさ、頻尿や尿漏れ、眼が悪くなり耳が遠くなる、記憶力の低下などの異常が現れます。六味地黄丸は補腎剤として上記のような腎虚の症状も緩和します。

このように陰液(津液・血・精)を補う六味地黄丸は身体に潤を与えるアンチエイジング薬(抗老化薬)といえます。「年齢とともに体力がなくなった気がする…」「年を取って身体の不調が目立ってきた…」ような方に適した漢方薬といえます。一方で本来、六味地黄丸は出典が「小児薬証直訣」という文献名であることからわかる通り、小児の腎虚向けに創作された漢方薬です。

小児における腎虚の症状としては身長が伸びず体重が増えない、体力がない、うまく歩けない、歯や髪が生え揃うのが遅い、言葉の発達が遅いといったものが代表的です。六味地黄丸が生まれた経緯としては小児を対象にしたものですが、上記の効能・効果が示すように腎虚が認められれば年齢を問わず幅広く使用が可能です。

その他にも精は生殖活動にも関与しますので、精を補う六味地黄丸は不妊症にも使用されます。女性の不妊症だけではなく、精子の濃度や運動率が低いような男性の不妊症にも応用可能です。最近の研究では不妊症の原因が男女で半々とも指摘されていますので、六味地黄丸の活躍する余地は大きいといえます。

各生薬のはたらきとしてはまず地黄、山茱萸、山薬が協働して陰液を補います。そして茯苓と沢瀉が身体に溜まった余分な水分の代謝を改善し、牡丹皮は血の巡りをスムーズにします。強くはないですが沢瀉と牡丹皮は相対的に余った気の熱性をクールダウンするはたらきも持っています。

このように地黄、山茱萸、山薬が陰液を補い、茯苓、沢瀉、牡丹皮が余分なもの(この場合は停滞した水分や血)を除くという役割分担がなされています。この特徴的な生薬構成は三補三瀉とも呼ばれますが、全体としては三補、つまり補うことに対するウエイトがより高いです。

六味地黄丸における補足

六味地黄丸は基本的な滋陰剤ですが、基本的な補腎剤でもあります。六味地黄丸を「骨格」とするように多くの補腎剤が存在します。その代表格が八味地黄丸(はちみじおうがん)です。一般的には知名度も使用頻度も八味地黄丸の方が高いかもしれません。

八味地黄丸の生薬構成としては六味地黄丸に身体を温める桂皮(けいひ)と附子(ぶし)をくわえた形となります(歴史的には八味地黄丸が先に生まれましたが…)。したがって、八味地黄丸は六味地黄丸が持つ身体を潤わせるアンチエイジング薬(抗老化薬)というはたらきに、身体を温める力が追加されたものと考えられます。イメージとしては「体力が低下した冷え性(冷え症)体質の高齢者」向けの漢方薬といえます。

八味地黄丸以外の「六味地黄丸ファミリー」としては、眼精疲労やドライアイに有効な生薬である枸杞子(くこし)と菊花(きくか)を六味地黄丸にくわえた杞菊地黄丸(こきくじおうがん)が有名で、個人的にも好きな処方です。

他には熱を冷ます知母(ちも)と黄柏(おうばく)をくわえた知柏地黄丸(ちばくじおうがん)は身体の乾燥感にくわえて不快な熱感があるケースに有効です。咳を鎮める五味子(ごみし)と呼吸器に潤いを与える麦門冬(ばくもんどう)をくわえた味麦地黄丸(みばくじおうがん)は高齢の方の乾燥した咳などによく効きます(しばしば、麦味地黄丸(ばくみじおうがん)とも呼ばれます)。

【六味地黄丸ファミリーのまとめ】
六味地黄丸+桂皮と附子=八味地黄丸
六味地黄丸+枸杞子と菊花=杞菊地黄丸
六味地黄丸+知母と黄柏=知柏地黄丸
六味地黄丸+麦門冬と五味子=味麦地黄丸(または麦味地黄丸)

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滋陰降火湯(じいんこうかとう)

滋陰降火湯の出典

万病回春

滋陰降火湯の構成生薬

当帰2.5、芍薬2.5、地黄2.5、天門冬2.5、麦門冬2.5、陳皮2.5、白朮あるいは蒼朮 3、知母1-1.5、黄柏1-1.5、甘草1-1.5、大棗1、生姜1(大棗、生姜はなくても可)


※上記は一般用漢方製剤承認基準(厚生労働省医薬食品局)より
※単位は1日当たりのグラム

滋陰降火湯の効能・効果

体力虚弱で、のどにうるおいがなく、たんが切れにくくてせきこみ、皮膚が浅黒く乾燥し、便秘傾向のあるものの次の諸症:気管支炎、せき


※上記は一般用漢方製剤承認基準(厚生労働省医薬食品局)より

滋陰降火湯の処方解説

滋陰降火湯はその処方名の通り、滋陰(津液(しんえき)や血(けつ)を補う)することで気の熱性を抑制する漢方薬です。津液と血が十分にあれば身体は潤い、適度にクールダウンされます。逆に津液と血が不足してしまうと気の熱性が相対的に高くなってしまい、乾燥を中心とした症状にくわえて不快な熱感などが現れやすくなります。

滋陰降火湯は主に五臓六腑(ごぞうろっぷ)における肺(呼吸器)の潤い不足とそれによる熱性症状の改善に有効な漢方薬です。肺の津液(しんえき)が不足すると、具体的にはむせるような乾燥した咳、粘々とした切りにくい痰(時には血の混ざる痰)、喉の乾燥によるカサカサ感、声のかれ、口の中のパサパサ感といった症状が起こりやすくなります。

滋陰降火湯に含まれている麦門冬、天門冬、地黄は肺を滋陰して上記のような症状を改善します。気の相対的な過剰による不快な熱性症状は虚熱と呼ばれ、それを知母と黄柏が鎮めます。虚熱を鎮める知母と黄柏のペアは、滋陰降火湯と同じく滋陰剤に分類される六味地黄丸(ろくみじおうがん)から派生した知柏地黄丸(ちばくじおうがん)にも含まれます。

他にも芍薬と当帰は血を補うことで身体の栄養状態を改善し、白朮、甘草、陳皮は消化器の状態を整えて飲食物から気が生まれるのを手助けします。滋陰降火湯は津液や血だけではなく、強くはないですが気を補う力もある漢方薬です。したがって、体力がもともとない方、病気によって体力が衰えてしまった方、そして加齢によって衰えが目立ってきた方などに適した漢方薬といえます。

滋陰降火湯における補足

滋陰降火湯は肺の潤い不足である肺陰虚(はいいんきょ)に有効な漢方薬です。一方で潤いを与える効果は肺のみに限定されるわけではありませんので、皮膚の乾燥やドライアイ、爪や髪の荒れ、他には虚熱による長引く微熱や寝汗も見られるようなら滋陰降火湯は最適の処方といえるでしょう。

逆に咳と一緒に多くの痰が絡む、その痰も透明~白色で水っぽく、切りやすい(粘度が低い)ようなケースでは滋陰降火湯は不適です。あくまでも滋陰降火湯は陰虚による「乾燥」と、陰虚由来の虚熱による「熱性」が見られることを使用目標とします。

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●気陰双補剤(きいんそうほざい)について

気陰双補剤(きいんそうほざい)とは生命エネルギーといえる気と身体に潤いを与える津液(しんえき)の両方を補う漢方薬を指します。気陰双補剤の構成は気を補う補気薬(ほきやく)と津液(しんえき)を補う滋陰薬(じいんやく)をバランスよく配したものになります。

代表的な補気薬としては人参(にんじん)、黄耆(おうぎ)、白朮(びゃくじゅつ)、甘草(かんぞう)が挙げられます。特に人参は優れた補気作用にくわえて津液を補うはたらきも持っているので気陰双補剤にしばしば組み込まれます。

滋陰薬には麦門冬(ばくもんどう)、天門冬(てんもんどう)、枸杞子(くこし)、五味子(ごみし)、蓮肉(れんにく)、山茱萸(さんしゅゆ)、地黄(じおう)、阿膠(あきょう)などが挙げられます。この中で五味子、蓮肉、山茱萸は津液や血が漏れ出ないようにする収渋(しゅうじゅう)作用、地黄と阿膠は補血作用も持っています。

頻用されている気陰双補剤には麦門冬湯(ばくもんどうとう)、炙甘草湯(しゃかんぞうとう)、清心蓮子飲(せいしんれんしいん)、生脈散(しょうみゃくさん)などが挙げられます。補気剤のページで登場した参苓白朮散(じんりょうびゃくじゅつさん)や啓脾湯(けいひとう)は文献によっては気陰双補剤に含まれることもあります。

気陰双補剤は気虚(ききょ)と陰虚(いんきょ)がほぼ同じレベルで見られるケースに使用できる漢方薬です。一方でどちらかの不足がより顕著な場合は気陰双補剤ではなく、補気剤や滋陰剤の使用が優先されます。

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麦門冬湯(ばくもんどうとう)

麦門冬湯の出典

金匱要略

麦門冬湯の構成生薬

麦門冬8-10、半夏5、粳米5-10、大棗2-3、人参2、甘草2


※上記は一般用漢方製剤承認基準(厚生労働省医薬食品局)より
※単位は1日当たりのグラム

麦門冬湯の効能・効果

体力中等度以下で、たんが切れにくく、ときに強くせきこみ、又は咽頭の乾燥感があるものの次の諸症:からぜき、気管支炎、気管支ぜんそく、咽頭炎、しわがれ声


※上記は一般用漢方製剤承認基準(厚生労働省医薬食品局)より

麦門冬湯の処方解説

麦門冬湯は主に肺と胃における津液不足(しんえきぶそく)と、気の不足である気虚(ききょ)を改善する漢方薬です。肺を潤す津液(しんえき)が不足すると咳が出たり、切りにくい痰が生じやすくなります。胃の津液が不足すると口の渇き、唾液の減少、胃の不快感、乾嘔(からえずき)、食欲の低下などが起こりやすくなります。麦門冬湯はこのような諸症状を改善することができます(上記の効能・効果にはなぜか消化器系の適応はありませんが…)。

麦門冬湯はしばしば「咳止めの漢方薬」と考えられがちですが、どんな咳にも有効なわけではありません。麦門冬湯が効果を発揮するのは、乾燥した咳が出始めると連続して出て、苦しくて顔を赤くするような病態に対してです。

くわえて痰の量は少ないか痰自体がなく、痰がある場合は潤いが少ないので粘りがあり、切りにくい(吐き出しにくい)ものとなります。水っぽくて透明な痰がいっぱい出てすぐにティッシュペーパーがなくなってしまうようなケース、ドロドロとして臭いを放ち、色の濃いような痰が出るケースには不適です。

麦門冬湯の中心となる生薬はその名前の通り、麦門冬であり肺や胃に津液を与えます。人参、大棗、粳米、甘草は気を補いつつ、脾胃(消化器)の機能を向上させます(人参には気だけではなく津液を補う力もあります)。脾胃のはたらきが良くなれば、結果的に飲食物から効率よく気と津液が生み出されるようになります。

そして半夏には咳や吐気を鎮める優れた作用があります。一方、半夏は身体を乾燥させる作用もあるのですが、麦門冬湯においてはその他の生薬が発揮する潤いを与える作用が勝ります。結果として乾燥作用を抑制し、うまく半夏の持つ鎮咳・止嘔作用が生かされます。

麦門冬湯における補足

麦門冬湯は津液を補うことで身体に潤いを与えることができる漢方薬です。上記で解説した通り、主に乾燥性の咳や粘稠性の高い痰の改善に有効です。その他にも麦門冬湯の潤性を生かしてドライアイやドライマウスにもしばしば応用されます。

その際、より潤性を高めるため、津液だけではなく血(けつ)も含めた陰液全体を補うことを目的に代表的な補血剤(ほけつざい)である四物湯(しもつとう)などと併用されることも多いです。

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